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元・太陽


「ナイッシュー、ひかりー!」


 三か月前、六月のある日の話だ。体育館に彼女をたたえる声が響き、殺人サーブをぶちかます予定だった手を止め思わず振り返った。


 俺の視界にはハイタッチを交わす美少女が。明るい茶のショートカットがよく似合い、目はパッチリで鼻も口もかわいく汗さえもアクセサリーのように見えマジ漫画かよ、と言いたくなるのが朝霞ひかりという女子だ。スタイルもよく、ハイタッチの時に揺れる部位を見て鼻の下を伸ばす男子一同。勿論、俺は違う。そんなことは悟らせないように見ている。


 男子からは好意を、女子からは羨望を一身に集める。それが朝霞ひかりという美少女だった。

 なので、朝霞を狙っている男子は多い。


「おい、お前ら、ウチの女子部エースをあまり変な目で見ないでもらえるか?」


 凛々しい表情で女子コートと男子コートの間に立って男子を睨んでくる男。

 男子バスケ部のキャプテン、大川。

 顔もそこそこだし背も高いのでモテるらしいが、ちょっとめんどくさい男だし、ぶっちゃけ朝霞にコクってフラれているらしい。なのに、女バスと男バスは同じチームで男子キャプテンの俺のものと言わんばかりの態度。とそこまではいつもの事なんだが、その日の大川は何か自信にあふれていた。


「……もうすぐオレのモノになるんだからな」


 ぼそりとつぶやいたその言葉を俺の耳は聞き逃さなかった。はいはい、自己肯定感が高くてようございますねとその日は流せず何故か耳に残ったのだった。


 その後も、朝霞無双は続き、授業中もめっちゃ勉強が出来るわけではないが、先生も話しかけやすいのか何かと朝霞を当てて、朝霞は間違えても分からなくても元気に答える。そして、クラスは一部を除きそれで盛り上がる。そんないつもの朝霞の為にあるようなクラスだった。


 だが、その日違っていたのは、放課後、俺と朝霞が屋上にいたことだった。


「え……? 小谷君?」


 驚く朝霞に驚く俺。だって、朝霞は金属の手すりの向こうにいたから。


 俺がその朝霞を見たのは、帰り道に食堂横の自販機でジュースを買って飲もうとした時だった。青い空だなーなんて呑気に思っていたら、よく見た制服の女子が屋上に立っていた。

 しかも、それはよく見た女子朝霞だったのだ。俺はわけもわからず駆け出し、階段を二段飛ばしで休憩なしで一気にいった。多分新記録、俺の。


 そして、慌てて屋上のドアを開けると朝霞が、涙目の朝霞がそこにいた。さっき体育館や教室で見ていた太陽は青空の下で泣いていた。


「小谷、君……」

「朝霞……」


 二人でしばらく見つめ合う。なんて言うと恋愛ドラマのようだが実際のところは、別の形で心臓がバクバクしていた。だって、朝霞は手すりの外側、俺は内側。風が吹き抜け、距離は1メートルくらいのはずなのにやたら遠く感じた。

 状況を整理しようとしたが無理。だって、俺、普通の高校生だもん。意味不明すぎる。だから色々考える前に口が動いていた。


「こっちこい」

「……なんで?」


 なんで? 嘘、聞く? そんなこと。


「いや、落ちたらヤバいだろ」

「ヤバくない」

「ヤバい」

「うるさい」


 完全に会話になっていなかった。だが、それだけでわかる。朝霞は今、ヤバい。誰の話にもデカいリアクションで真面目に受け止める朝霞がそれを出来ないでいる。いつもの笑顔もない。『ヤバい』が脳内を埋め尽くす。


 ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい!!!!


 とにかく何かを言わないとダメだ。そう思った俺は言葉を必死でつなぐ。


「ううううるさくていいから、こっちきなって」

「いかない」

「なんで?」

「いきたくない」


 子どもみたいなことを言う朝霞が幼く、そして、小さく見えた。涙がこぼれて、下に落ちていくたびにひやっとした。涙じゃなくて、本人だったらって。

 俺は、ゆっくりと朝霞に近づく。朝霞はびくりと身体を震わせたが、飛び降りる様子はない。とにかく刺激を与えないようにそっと話しかけながら近づく。


「なんで、そんなとこにいるんだよ」

「言いたくない」

「じゃ、じゃあ、なんか話しない?」

「……しない」


 普段だったら気持ちのいいはずの風が妙に冷たく感じて自分が汗びっしょりなことに気付く。だが、ようやく手すりに手をかけることが出来た。その時だった。


「あ」


 朝霞の身体が揺れた。そして、朝霞の手が手すりから離れかけた。何が起きたのか分からんが、とにかく朝霞の意志ではない。だって、朝霞の顔は後悔でいっぱいだったから。


「うあああああああああああああ!」


 俺はなんか叫びながら身を乗り出して朝霞の腕をつかんだ。そして、そのまま必死に朝霞の身体を引っ張り上げると……バランスが崩れた。朝霞は手すりのこっち側に、そして、俺は手すりの外側に入れ替わってしまう。しかも、勢い付き。

 落ちる、と思った。そして、同時に学校のアイドル朝霞を救った俺ってかっこよくね? と思った。


 後から考えれば、落下しながら思う事じゃなかった気がするけど、俺はなんでかそういう風に考えてしまう人間だった。そして、俺はラッキーな人間だった。


 ぎりぎりまで手すりをつかんでいたおかげだろう。壁を擦りながら非常階段の踊り場に落ちた。言うても、なんかヤバい音はしたし、めっちゃいろんなところが熱くなったけど。まあ、骨も内臓もいっちゃってるーだったらしい。


 俺もさすがに痛すぎて呻いて呻いて疲れ果てて寝てしまった。


 朝霞は一瞬ちらっと見えたが、あまりにもヤバい顔してたから先生になだめられてたみたいだった。俺の名前を呼んでた気がしたけど自分のうめき声でよく聞こえなかったし、願望かもしれないので確かめてない。

 そして、俺は病院送りとなった。

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