番外編③そんなつもりじゃなかったと言い訳男は言う。後編
「なあ、大川。その、な……暫く、キャプテン休むか?」
そう言ってきたのはバスケ部の顧問だった。
学校に来た途端肩を叩かれ、誰もいない部屋に呼び出されて話をされた。
オレが、キャプテンを休む?
よりによって部活が再開される前日。
顧問は必死になんていうのがいいのか考えてる顔。だけど、オレにはわかる。
朝霞の件でオレを疑っていて、オレにキャプテンをやらせるのがバスケ部にとって都合が悪い。ただ、それだけの話だ。コイツは、オレを、守ってくれない。
「は、いいスよ。オレ辞めますよ。ただ、オレ辞めてボロボロになっても知らないスからね」
顧問は何か言いたそうにちょっとだけ立ち上がろうとして止まって、また座りなおして、小さく鼻からふぅと息をこぼす。オレのことを分かっていないバカ。ていうか、教師みんなバカ。全然理解してないし、なんだったら朝霞のいじめについて本気になって調べてない。みんなにやってないよな? って言い方で聞く腰抜けども。
「あのな、大川」
顧問は偉そうに腕を組んでオレに顔を近づける。キモい。
「俺はそんないい先生じゃない。だからこそ、失敗もいっぱいしてきた。だからな、ちゃんと向き合わないと大変なことになるってのもすごく知ってる。だから……大川!」
オレは大声でオレを呼び止めようとする顧問を無視って、部屋を出ていく。コイツはバカだ。もう大変なことになってんだよ。オレは。
いや、お前もだ。バスケ部はこれから弱くなる。ずっと負け続ければいい。そして、死ぬほど後悔しろ。こんなはずじゃなかったって。
オレがいなくなったバスケ部が冬の大会で過去イチの成績を出すことをこの時のオレはまだ知らなかった。
「あ…………」
教室に戻ると、同じバスケ部の三好がオレを見て曖昧に笑う。多分、オレ以外のバスケ部LIN〇グループでも出来てるんだろう。そして、みんなそれを知っている。クソが。
だけど、そんな空気を出してるのは三好だけじゃなかった。
みんながオレを触れちゃいけないもんみたいに見てた。
いない雨野の席を見る。いないんだから当然いない。
雨野は学校を休んだ。体調不良らしい。多分もう来ない。
LIN〇しても逆ギレな上にヤバいのしか返ってこないからもうあきらめた。
アイツが全部悪い。
なのに、みんなはオレをゴミ見るみたいな目で見てくる。もしかしたら何かがオレの知らないところで広まってるのかもしれない、とその時ようやく気付く。
震える手でスマホを取り出し、アプリを開く。
昨日、『あの後』に雨野とやりとりをして以降は雨野にキレて暴れまくって疲れて寝たから見てなかった。画面が切り替わる瞬間、声が聞こえた気がした。
『許さないから……。覚悟しといてね。先生や教育委員会がごちゃごちゃ言っても、絶対に絶対に絶対につぶすから』
あ…………。
忘れてた、ガチでなんでか忘れてた。
オレ、そんな風に言われたんだった。
オレは昨日その言葉を言った女を探す。いや、探すまでもなかった。
ずっとオレを睨んでた。
真っ黒い髪の隙間から真っ黒い目で。
朝霞がオレを見ていた。
そして、理解する。
朝霞はガチでオレをつぶしに来たんだと。
多分教室のみんなは知ってる。
だって、LIN〇には、めちゃくちゃな量のオレ史上一番多いくらい一気にメッセージがきてて、多分全部オレのやったことについて、だった。
『ガチで謝った方がいい』『警察いけ』『最低です』『〇ね』『お前のせいでクラスが最悪なのどうしてくれんだよ』『一緒に土下座して謝ろうぜ』『ひかりをあんなにしたの分かってる?』『とにかく説明しろ』『逃げんなよ?w』『なんでこんなことしたんだよ?』『朝霞の情報流してたってガチ?ヤバすぎだろ』『〇ね』『消えて』
全部、全部オレを悪者にする言葉。ずっとずっとそれがスクロールしても続いてる。普段オレに連絡してこないような奴までみんなみんな連絡してきやがった。オレのことなんて分かってないくせに!
この感じだと多分、先生にもがっつり伝わってる可能性がある。学校の教師みんなで、もしかしたら教育委員会とか警察とかも動き出してるかもしれない。
オレは、動かなきゃいけないのに足が震えて動けなかった。みんなの真っ黒い目がオレにねばりついてウザかった。なのに、そんな中で一人だけ空気読めないヤツがいた。
「朝霞さぁーん!? えーと……あ、コレ! コレ難しいわ! 教えてくれ!」
小谷だった。今そんな空気じゃないのに、数学の何かを聞こうとしてた。
「え? あ、ご、ごめん。あの、数学苦手だから。ご、ごめん」
「いやいやいや、謝るの意味不明すぎてケツ。……えー、はいということでね、誰か俺と朝霞さんに救いの手を差し伸べてくれるお医者様になれるくらい頭のいい人はいらっしゃらないでしょうかぁー?」
朝霞が謝ってるのにケツ突き出すポーズしてクソ寒いことを言い出す小谷。しかも、センスないクラスのやつらが、どっと笑いだして次々に手を上げ始める。
ガチで調子のいい奴らだ。さっきまでオレを睨んでたくせに、今まで小谷なんか見向きもしなかったくせに。みんなが小谷に従ってる。キモい。キモすぎる。
誰もオレを見てなかった。朝霞も。
あんなに絶望ヅラしてた朝霞も、オレが曇らせて救う予定だった朝霞も、オレを全く見てなかった。
こんなんじゃない。オレの教室は、朝霞との関係はこんなんじゃないのに。
クソ小谷が、なんでかクラスの中心にいて、キモくなってオレは教室を出た。
そして、オレが教室に戻ってくることはなかった。
その後。
ずっとうるさかったスマホは電源をきった。
なんかいろんな大人がいろんな事を聞いてきた。
クソまじめな振りをしてるだけで多分オレの話なんて理解してない大人、ただただ自分のキャリアに傷つけたくないから知らないふりをしろという大人、淡々といじめの話をきいてくるだけの配慮のない大人、あからさまにオレを見下す大人。
親はどっちの教育が悪いのかで毎日揉めている。あんだけ言い合うんだ。どっちもわりーよ。毒親どもが。
「…………ひ!」
カーテンの隙間から灰色の雲が見えて慌てて閉める。
あの真っ黒な目が。朝霞の目がじっとオレを見てる気がして、窓からオレをのぞき込んでる気がして慌ててしめた。そして、ベッドにもぐりこむ。
布団にくるまってるのに声が聞こえる。
『ぐちゃぐちゃに』
朝霞の声が。
朝霞の絶望顔が脳で浮かんで、なんでか小谷を見る朝霞の顔が浮かぶ。
曇ってるんだけどなんか違う顔。オレをみないその顔とぐちゃぐちゃの声がオレの中で繰り返される。その上、みんなのLIN〇の声が聞こえる。聞こえる。聞こえる。
「あ、ああああああ……!」
オレは何度も何度も呪文みたいに言葉を繰り返す。
「オレは、そんなつもりじゃなかった……!」
ただただ、朝霞のことが好きなだけだったんだ。
それだけなのに、なんで……。
「そんなつもりじゃなかった。そんなつもりじゃなかった。そんなつもりじゃなかったんだ……」
何度も何度も繰り返す。それでこの地獄が終わるわけじゃないのに。オレは。
そして、オレは完全に詰む。どうすればよかったのか誰も教えてくれなかった。
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