第66話 少年と悪夢の夜
「さて、今日から本格的な訓練を始める訳ですが――それは何ですか?」
翌日、特訓をするために工場跡地へとやってきた僕たち。
結構距離があるから『愛の共同作業モード』で走ってきたよ!
「これは木刀よ」
黒くて長細い袋に入ったそれ。
つばきちゃんの武器!
「ほう? 剣術を嗜んでいらっしゃいましたか」
「いいえ。ただ振るうだけ」
「おや、それはいけません。下手な握り方をしてしまうと手を痛めてしまいますぞ。『聖騎士』よ、お教えして差し上げなさい」
「……」
無口な『聖騎士』がつばきちゃんの手と剣を触ろうとすると――。
「触らないで」
「……」
『ど、どうしよう……』、そんな『聖騎士』の考えることが手に取るようにわかる。
これが……テレパス!
「……っ! ……っ!」
「……へぇ」
何を思ったか『聖騎士』は自分の剣を振り出し、つばきちゃんがそれを眺めている。
「……力はそこまではいらない……重心の移動が――」
「……」
つ、つばきちゃん……?
「……いやはや、ものすごい集中力ですな。では、我々は霊力の扱い方を――」
――その時っ!!!
「――なっ! これは……!」
「……悪夢、まさかこのような手段を取るとは……」
町の中心の方が黒い壁に覆われてる!?
「まさか昨日の今日でこのような手段を取るとは……いや、奴の能力を考えたら当然……?」
「な、何が起こってるの!? ナイトメアの仕業!?」
町には当然キラちゃんや僕の家族たちが!
それにニアちゃんやゴーたちも!
「……これは奴の能力、『悪夢の夜』でしょう」
「『悪夢の夜?』」
「はい。夜を模した空間の中で生物を強制的に眠らせ、生気を奪う……」
生気を、奪う……?
「それって――!」
「抵抗できない人間はなす術もなく死ぬでしょう……奴が『悪夢』と呼ばれる所以でございます」
そんなっ! はやく何とかしないと……!
「あそこには僕の家族や……キラちゃんだって!」
「存じております。急ぎ討伐せねば――」
そうだけど……まだ特訓はほとんどできてないよ……。
「行きましょう」
「つばきちゃん……」
「特訓ついでにあの吸血鬼を倒す。それで問題ないわ」
「――うんっ!」
早くあいつをやっつけて!
みんなを守るんだ!
「第2夫人様の元には我々が向かいましょう。恐らく現状1番安全かとは思いますが」
「安全!? キラちゃんもあそこにいるんだよ!?」
はやくキラちゃんの所に行きたいっ!
そばにいたい……っ!
「あのお方にはレイ様の強い加護があります。この程度の攻撃では何ともないでしょう」
「加護……?」
「はい、我々が欲してやまないもの。あなたの寵愛を受けた証」
そう、なのかな。
けど何となくわかる気がする。
だって、キラちゃんと繋がってる気がするもの!
「なら、もっともーっと! 僕の力をっ! 思いを込めてーっ!」
「おぉ……」
大好きだよ! 絶対守るから!
「……行きましょう。私の怒りが爆発する前に」
「うんっ! ……うん?」
▼▼▼
「ここから先が……『悪夢の夜』」
目の前、突然現れた壁のように黒いナニカが生えている。
「中は……ちょっとだけ重たく感じるけど、大丈夫そうだよ」
「それなら入っても大丈夫そうね」
中の人を強制的に眠らせる。
対抗するには、霊力でガードするしかないって執事さんは言っていた。
つまり、僕らなら進める!
「お、おいっ! 中に入るつもりか!?」
「やめた方がいいわよ」
近くにいる人たちが心配して声をかけてきてくれる。
他にも何人もの人がいて騒いでいる。
「大丈夫よ。ご心配ありがとう」
「……この人、さっきから1人でブツブツ言ってたし……ほっといてあげたら?」
おぅ、僕のこと見えない勢だね!
「そんなっ……いやしかし、中のことも気になるしな……」
「あら、それならやっぱり私が行くわ。配信しながら、ね」
「は、配信……?」
そう言いながらつばきちゃんが取り出したのは!
キラちゃんのお下がりスマホ、iponXXⅨ!
最新版と比べて、深海での撮影はできないけどそれでも様々な環境に対応できる高耐久高性能のカメラ搭載!
手振れ補正や自動識別マイクなど……配信者御用達のiponXXⅨ!!!
「きらリンのキラキラチャンネル。よかったらチャンネル登録、高評価よろしくね」
お読みくださりありがとうございます!
実況者は命がけ……!




