小噺 恭子と江ノ島家
恭子さん視点のお話です。
「この度は誠に申し訳ございませんでした」
江ノ島さんのご両親、祖母様の前で土下座する。
七原さんたちも、私の後ろで同様にしてくれている様子。
椿ちゃんや輝蘭羅ちゃんは別室で待機していてよかった。
「そんなことされたってっ! あなた、最初に言ったじゃないですかっ! 『危険な目にはあわせない』とっ!」
椿ちゃんたちから旅行の話を受けたとき、江ノ島さんとも連絡を取った。
急なこと、1人娘を1週間も旅行に出すこと。
当然だけどかなり渋られた。
それでもどうにか説得して……結果はこの様。
「言葉もありません」
「それが何ですかっ! ああの動画を見ながら私たちがどんな思いをしていたかわかりますかっ!?」
それはもちろん、わかる。
私もそのことを知った時、筆舌に尽くし難い思いだったのだから。
「申し訳ございません」
けれど、私にできることは……ただひたすら謝るだけ。
「だからっ! そんな――っ!」
「もうええ。して、ただ謝るためにここに来たんかえ?」
頭を下げながら、祖母様の顔をチラっと見る。
すると頭を上げるようにジェスチャーをされる。
ご両親の方を見ると、言いたいことを必死に堪えている様子が見て取れる。
どうやら祖母様が実質の家長、ということでいいのね。
江ノ島家はお菓子の製造、販売を手掛ける有名企業。
祖母様の代で大きく発展したと聞いていたけど――その通りみたいね。
「……」
「どうなんじゃ」
誤るだけ……ではないと察せられているようね。
さて、ここが正念場だわ。
「……どうか、もう1度チャンスを」
「あっ?」
……祖母様、怖すぎっ。
とてもご老体の……いえ、ご老体だからこそ、かな。
だけど――。
「もう1度、あの子たちが配信者として活動するチャンスを――」
「だぁらっしゃぁっっ!!!」
ひぃっ!?
「きさんっ! かわいい孫娘をあんな目にあわせおってっ! その上まだ続けさせろだぁっ!?」
「……」
「ふざけるのもっ……ふざけるのも大概にせぇっ!!!」
仰る通り。
私が祖母様だったら相手を呪い殺している。
「それが貴様らの……いや後ろの2人はなんだ!?」
「……私たちは椿の父親と母親です。この度は娘が多大なご迷惑を――」
「そんなことは聞ぃちょらんっ! なぜ当の両親が矢面に立たんのじゃ!」
あ、それもそうだ。
「……複雑な事情故、説明を後回しにしてしまいましたが、実は――」
少しだけ私たちのことを説明する。
3人とも血は繋がってないけれど、椿ちゃんの保護者だと自負していること。
「ダボがっ! そんな事情知らんがなっ! まずは両親が頭を下げるべきじゃろうがっ!」
「仰る通りでございます。重ね重ね、申し訳ございませんでした」
七原さんが再び土下座、私も土下座。
「ふんっ……で、さっきのが貴様らの答えか?」
「はい」
お父さんがはっきりと答えて見せた。
「……ふぅー、なぜあのような事に拘る。別の方法もあるじゃろうて」
「……実は……」
覚悟を決めたような顔で、お父さんが全てを答える。
かつて椿ちゃんが生贄にされたこと、レイくんが身を挺して庇ったこと。
今の活動が、実は彼の魂の性質を善性に向ける目的であること。
「……よぅわかった。が、それはうちの孫娘じゃなくてもええんじゃないかい?」
「仰る通りです。ですが――」
「ですが、輝蘭羅さんでなければいけません」
「ほう?」
お父さんの言葉を引き継ぎ、答える。
そう、椿ちゃんには輝蘭羅さんでなければいけない。
つい先日、そう実感したのは私。
ふふ、羨ましいでしょう? 娘の成長を目の当たりにできたのだから。
「実は先日、2人の間で同じような言い争いがありました。椿が輝蘭羅さんに、もう巻き込むわけにはいかないと、輝蘭羅さんに活動をやめるように言ったのです」
「……」
「輝蘭羅さんは反発しました。私も当事者だ、関係ないなんて言うな、2人のために行動したいんだと」
「ほう」
ふぅと息を吐く。
ちゃんと言えるかな。
「椿ちゃんは……大切な人を失うことはもう嫌だ、と言ったのです。あの子は玲君のために今までの人生を全て捧げていました。友達も作らず、遊ぶことも寝る間も惜しみ、玲君を救うためには、そして救った後のことを考えて……それだけを考えて生きて来た」
「……」
「その椿ちゃんが……! 他の人を、輝蘭羅さんを大切な人って……っ! 玲君と同じように言ったんですっ! だからっ、お願いします……どうか、どうかっ!」
お願いします……。
「……」
「どうかっ!」
お願いします、お願いします……。
「……その娘を呼んでおいで」
「わかりました」
私の願いは……届いたのだろうか。
祖母様が江ノ島さんのお父様に声をかける。
▽▽▽
「はじめまして、七原椿です。この度は――」
「つーちゃん、いいって! あれは私だって――」
「――んがぁっ!?」
開口一番、椿ちゃんが謝ろうとしたのを止めようとした輝蘭羅さんを見て、祖母様が……驚いた顔をする。
いえ、もしかして――。
「こ、こんにちは……」
「……こんにちは」
レイくんにたじろぐ祖母様……。
まさか、レイくんのかわいらしさにノックアウト……な訳ないわよね。
「……」
「……」
「あ、あのぉ~……」
「……坊は――」
坊……レイくんのこと……?
「坊は……輝蘭羅のことはお好きなので?」
「え? うんっ!」
「……愛していますか?」
「う、うん……」
「……生涯をかけて、守ってくれるのでしょうか?」
何で敬語……?
「うんっ!」
わぁ、なんて屈託のない笑顔。
その後ろ、苦虫を噛みつぶしてうがいしているような顔はやめて。
「……全て認める。謝罪も不要。今日のところはお帰り頂きなさい」
「えっ!? わ、わかり、ました……」
全然わかってなさそうなお母様。
それでも渋々私たちを案内しようとする。
「坊――じゃなく七原さん。また来てくだされ。次は歓迎しますじゃ」
――ということなので……どうやら上手くいったみたい。
何だか釈然としないけど、よかったわ。
▽▽▽
「お母さん! 本当に良かったの!? 私たちのかわいい輝蘭羅があんな目に――」
「……いいんじゃ」
「僕は神宮さんの言葉に胸を打たれたよ。いいじゃないか、娘たちの人生――」
「んなことはどうでもいい」
「そんなぁっ!」
「坊――あれは……神のようなもんじゃぞ」
「へ?」
「神を身内に……娘の幸せを願ってくれるというんじゃ。他のことなどどうでもよかろ」
「……そ、そう……」
お読みくださりありがとうございます!
娘のために頑張る恭子さんという話でした。
もう1つ小説を投稿しています。異世界転生モノです。
そちらもよかったらぜひお願いします!




