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第二十一話

「手合わせのお誘いですが……断らせていただきますわ」

「え……?」

 

 期待に胸を膨らませていたアルヴァにとっては予想を裏切るものとなったがエクスからすれば想像通りの結果だった。

 

「今の私にはそれを受け取る資格がありませんの」


 続けて、震える手を押し殺しながらエリナは話す。


「……初めてですの。威風堂々(いふうどうどう)を使うのは。これほど強力な物だと思いませんでしたわ。そして何より――」

「人を傷つけてしまった。これ以上の説明はございますの?」


(やっぱり初めてだったか……)


 読みが当たったと、心の中でつぶやく。不慣れなもので人を傷つけてしまう、恐怖を抱くのは当然で、エリナのようなしっかりとしたお方ならその責を重く受け止めてしまうかもしれない。


 アルヴァは特に驚いたような表情を見せないが、彼女の口にした『初めて』を反芻している。

 

「エリナ様、私からもお願いします。どうか、受け取ってはくれませんか?」

「エクス様からの願いであったとしても、私は考えを変えるつもりはございませんわ。……見えますか?私の手。今も……魔法が発動して、アルヴァ様があのようなお姿になっているのをみた瞬間からずっと、ずっと……震えていますの」


 少女の持つものとは思えない鍛え上げられた両手は小刻みに揺れている。分別のつく年頃、命の重さを理解してきているからだろう。


「……なら、傷つけないよう鍛錬すればいいじゃないですか」


 何度も唱えていたと思えば突然、鍛錬の提案をアルヴァは出した。続けてアルヴァは問いかける。


「そもそもで申し訳ないですが、エリナ様はなぜ剣を握ってらっしゃるのですか?」

「なぜ……ですか?」

「俺は、エクス兄さんがいる事も少なからず影響があるけど、気づいたらひたすら素振りしていたってのが正しいと思います。何のために握って振っているのかまだわからないけど、きっとこれは、俺も兄さんのように訓練学校に出て、騎士団として動いてようやく知る事ができる……そう信じて今もこうしてあなたの前にいます。エリナ様は……なんですか?」

「私は……」

「夢でいいんです。剣を振っている理由、頑張れる理由を、教えてください」

「……私、私の夢は……」


 息を呑む。静かにその回答を待った。撫でるように吹く風は彼女の長い髪を優しく靡かせる。

 

「ルーク様のように強くなりたい!強くなって、私も師団長になりたい!……私は。そう考えていますわ」

「……良い夢ですね。立派な騎士になれると思います」

「ですが、もうこれ以上誰かが傷つくのを見たくありませんの。私の想像するものよりずっと……不快でしたわ」

「それは、エリナ様が傷つけられる痛みを知っているからです。痛みを知らずに振るう剣は国のため、忠誠のためではなく、ただの暴力に他ならない、そうですよね。兄さん」

 

 急なフリに驚いたのか少し取り乱しながらも、「そうだね。騎士団に所属する者は国に忠誠を誓い、国王や民を犯罪を犯すものから守り、処罰を下す。俺たちも、エリナ様も、もちろん犯罪者も家族がいるのは重々承知しているつもりだ。しかし、これらを一方的に悪だからと決めつけ断罪するのは己の正義に酔う愚か者だな。苦しい道にはなるだろうけど、どんな人にも共感し同調することのできる人間が一番、騎士団に向いている……と俺は思うな」と、現役の訓練生らしい意見をくれた。

 

「なら最適だね。ピッタリだ。絶対良い騎士に、師団長になれると思う……思います!」

「でも……」

「大丈夫です、きっと何とかなります。俺が保証します」

「本当に……何とかなるんですの?」

「何とかします!させます!だから……共に夢を追いかけさせてくれませんか?」


 無意識のうちにアルヴァは彼女の両手を握りしめていた。それに気づいてすぐ手を離した。貴族とはいえ立場は異なる。不敬に思われるのを恐れたための行動だ。エリナ本人はきょとんとしている。この言葉が彼女にどう響いたのか、この時の彼は知らない。だが間違いなく、彼女の心にがんじがらめとなった鎖を緩めるきっかけを作ったのは事実だ。次第に曇った表情も柔らかくなっていく。


「ふふふ……あははは!」

「……え?あの、俺何かおかしなことでも言いましたか?」

「だって、まるでプロポーズみたいでしたので可笑しくって……」

「えっと、確か俺は……」


 自分が何を言ったのか今一度思い出すと、はっとした。


「え、いや、あの、決してそう言った意味で言ったわけでは……」

「ええ、わかっておりますわ」

「しかし……エリナ様にそのようなことを言ってしまうなんて」

「アルヴァ様、私のことはこれから『エリナ』と呼んでくださいまし」

「えっと……どうしてですか?」

「私の共に夢を追いかけてくださるのでしょう?でしたら、身分に上も下も関係ないのではなくって?」

「ですが……」

「それとも、私のいただいた言葉は嘘でしたの?」

「いえ、決してそんなわけでは……」

「でしたらもうお分かりですわよね?さあ、早く私の名前を」

「は、はい……エ、エリナ……さん?」

「エ・リ・ナ、ですわ」


 せめてもの抵抗で『さん』付けしたがどうやら不満を買ったみたいだ。アルヴァを試合に申し込んだ時のような目線が襲う。ジリジリと詰め寄って来る様は蛇に睨まれたカエルを連想させる。生存本能が働いたためか、ただ根負けしただけなのかは分からないが、「エ……エリナ……」と目を合わせず後ろめたさを残しながらその名前を呼んだ。ちょっと意地悪だったかしら、彼女は耳元でそう囁くとさっきと打って変わって満面の笑みを浮かべた。


「はい、これからよろしくお願いいたしますわ、アルヴァ様」

「は、はい!」


 俺には呼び捨てで呼ばせて、彼女は俺に対して様なんて付けるのか……と、心の中でつぶやく。今の彼女にこれを伝えたらどうなるのか分からないからだ。それにしても顔が熱い。火照っているような感覚だ。緊張してたから何も意識していなかったが、少し落ち着いた今、心臓が飛び出しそうなぐらい高鳴っている。綺麗な顔立ちで、触れたら溶けてしまいそうな繊細な肌がよく見える至近距離で、しかも耳元で小悪魔に弄ばれたような囁かれ方をすると、心の中にある何かが崩れたような音がどこかで聞こえてきそうだった。兄さんは横でニヤニヤしながら見つめている。そして謎にグッドサインしてきた。


「エクス義兄様(にいさま)も、よろしくお願いしますわ」

「……ん?え、ああ、よろしく?」


 兄さんの反応が一瞬遅れたのを見逃さなかった。あたかも受け入れるように返事をしているがきっとこう思っているのだろう。今……何で『にいさま』と呼んだのか、と。兄さんも違和感を感じているだろうし、俺もさっぱり分からない。揶揄っているつもりなのだろうか。


「エクス、アルヴァ!」


 屋敷へと続く扉の方向から父上の声がする。振り向くと、父上とシャーロット公が走ってくるではないか。応急処置をするためか、担架や包帯などの道具を抱える執事らもついてくる。


「父上!」

「すまない、使用人らに必要なものを指示していて遅れた。アルヴァは大丈夫……そう、だな」


 父上はアルヴァの身体中に無数の傷跡があることに気付いたが、もう一人で立てるようになっていることや、痛がっている様子などがないので軽傷で済んだことを察した。


「……至近距離で受けているはずだけど、よく立てるね。体が丈夫なのかな」


 ごめんね、と言いながら兄さんと同じように体を触診しだすシャーロット公。骨も折れていないのを確認してほっとしたのか、安堵の表情を浮かべる。


「まさか、エリナが威風堂々を使うとは思わなかったな。発動の条件も厳しいし、これまで本気になって戦ったこともなかったからね」

「同感だ。使う瞬間こそ見ることはできなかったが、あそこまで威力が出るとは……。想像の領域を超えていた」


 父上らは彼らの状態を見て安心したのか、執事らに傷の手当てを指示する。すぐさまアルヴァの周りを囲み、出血していた傷跡を中心に薬草から作られた軟膏を塗りたくる。


「お父様……」


 シャーロット公に傷つけてしまったことを怒られるのを恐れているのか、あの笑顔が消えた。


「……エリナ」


 静かに近づくシャーロット公。腰を下ろしエリナと目線を合わせると、大きく腕を広げハグをした。


「ごめんな。怖い思いをしただろう。いつかはお前の持つ力をしっかり説明するべきだと思っていたんだけど、時間がなくてね。こんなことになってしまったのは僕にも責任がある。ごめんな」

「お父様……」


 顔を埋めて、父の胸の中で彼女は泣き喚いた。まだ10歳だ。どれだけ恐ろしい思いをしただろうか。


「すまない、ランバート。こんなことになるとは」

「すでに起きてしまったことだ。アルヴァも無事だし、お前と俺の仲。俺から咎めるようなことはしない。大事な花壇が荒れてしまったのは残念だが……何回も手入れすればそのうち元に戻るだろう。心配はいらない」


 亡くした母の残した花壇は土埃の影響か、その最多美しい花々の至る所に砂の粒子が付着している、まるで描かれてから数十年たち徐々に変色していく絵画のような鈍い色彩を放っている。


「それに、これは俺たちの問題ではなく、アルヴァとエリナの問題だ。双方が納得し謝罪もしているのなら俺たちが介入するべきことじゃないだろう。負った傷は深いかもしれないがそのうち癒えるさ。違うか?」

「……そうだね。少なくとも、僕たちがここにくるまでに話していたみたいだけど、あらかた片付いているみたいだし、これ以上口出しすることはないか。そうだよね、エクス君?」

「は、はい。問題ありません!」

「そうか……。なら、この話もこれで終わりだな。おい、問題ないだろうが念の為アルヴァを部屋に運べ。アルヴァの身に何か異常があればすぐに知らせろ」


 囲んでいる使用人に指示をした父上は、ゆっくりと屋敷に戻って行った。シャーロット公は今も泣いているエリナを連れて同じく中へ入っていく。アルヴァも抵抗することなく使用人らに乗せられ、自室へ運ばれた。こうして、ほとんどのプランを実行することなく、シャーロット公らのおもてなしは終わりを告げた。

作者の瑠璃です。

まずは読んでくださりありがとうございます。

この作品はタイトル通り、それぞれの視点で描かれる異世界物語です。魔族サイドのお話もあるのでもしよろしければその作品も読んでいただけると嬉しいです。また不定期投稿なので気長に待っていただければと思います。ブクマ、評価等していただけるとめっちゃ喜びます!!

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