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19,

 


 メリッサ様と馬車に揺られながら、そういえば寮に居ないしご自宅から通ってるんだな、なんて呑気な事を……――――そうじゃないでしょ。 私は今、悩みの種と一緒に居るのよ。



「………」



 それにしても、近くで見るメリッサ様は怖いくらいキレイ。 少しだけ会話をしたけど、口調は柔くとても品がある。

 さすが大国の公爵令嬢、小国の低爵位、おまけにお転婆な私とは人種が違う。


 やがてお邸に到着すると、その予想以上の佇まいに尻込みが増す。 そして侍女二人が扉を開け、メリッサ様のお部屋に入ってからだった。


 後を付いて部屋に入るとまず、



「――わっ、わぁッ!?」



 へ、部屋に虎が居る……ッ!



「あ……れ?」



 ……動かない。


 落ち着いて見てみると、部屋中に動物や鳥が何種類も居て、そのどれもがピクリとも動かない。



「私のコレクションなの、素敵でしょ?」


「あ、ああ、剥製ですか」



 こういう趣味も大貴族ならでは……なのかな?



「その、動物がお好きなんですね」


「ええ、生きていなければ」



 ――ん? それは……剥製だけ好き、ってこと? であれば、ちょっと凡人の私には理解が難しそうです。



「どうぞ、お座りになって」


「は、はい」



 王族の部屋さながらの内装、装飾、そのソファに腰を下ろす。 そして聞きたいことは沢山あるけど、まず最初に、



「どうして私を呼んでくれたんですか?」


「どうしてレオはあなたに惹かれたのでしょう」



 ……まさかの質問返しをされてしまった。


『レオ』ってレオーネの事よね。 昔馴染みなのは聞いたけど、なんか……気分が悪い。



「あなたはありもしない噂をばら撒くだけの道化、レオの嫌いなタイプだから気にも留めなかった」


「っ……」



 突然棘だらけの言葉を浴びせられた。 それは私がエルマになる前の事だとわかっていても、メリッサ様の異様な圧力に怯んでしまう。


 ただ一つ、不確かな、私も知りたい事も混じっていた。



「別に、レオーネは私に惹かれてなんか……」


「――レオは女の子と約束なんかしない。 知る限りあなたが初めてよ」



 約束? ……ああ、次のパーティーでレイアに良い男紹介してって、あれかな?



「あれはそんな、約束なんて大層なものじゃないです」



 それが、特別なのかな。 だとしたら少し……



「今日あなたをお招きしたのは、確かめたい事があったからです」


「は、はぁ」



 なんていうか、メリッサ様は話がどんどん飛ぶから付いていくのが大変。



「あの匂い、やはりあなたでしたのね」


「……匂い?」


「レオから汚らわしい女の匂いがしましたの。 私のレオにあんな酷いものをなすりつけて、レオが病気にでもなったら可哀想です」



 そうか、あの日、あの後メリッサ様と会ったんだ。 それにしても酷い言われよう、『私のレオ』? やっぱり二人は……



「それでも私はレオを許してあげました。 仕方のない子だけれど、手のかかる子程愛しいものですから」



 違和感を感じた。


 メリッサ様はレオーネの事を好きなのかと思ったけど、何か違うような……それにそもそも、



「メリッサ様は、婚約者の事を好いてたのですか?」



 ダンテの不貞に胸を痛めているように見えない、それに聞いていると、レオーネへの気持ちも昨日今日のものには感じなかった。



「アレはただの風避け、私に群がってくる男達が鬱陶しかったからです」


「そんな……」



 それなら、ジータがあんなに辛い思いしたのは何なの?



「それでレオが少しでも妬いて、私に我儘言ったり甘えてくれたら良かったのですが」



 ……なんて自分勝手な人。 それに、さっきからずっとレオレオうるさいのよ……!



「そんな付き合い方だからダンテも浮気したんじゃないですか? それを婚約破棄して彼や家族はこれからどうなるんです」


「シュカワレ家は衰退し、いずれ没落するかもしれませんね」


「あなたは……!」


「――ダンテが不貞をしなければ、いずれこちらが慰謝料を払い婚約は破棄された。 周りの貴族達からも同情すらされ、今までの融資もあって得ばかりよ」



 そ、そうかもしれないけど……。



「そうならなかったのはダンテと、―――あなたのお友達が悪いんじゃなくって?」


「っ……」



 だからって、人を弄んだのは許せない。

 そして、




 ――――メリッサ様に何か条件を出された……じゃないかな――――




「……レオーネを、それで縛り付けたんですか……」


「レオを縛る? 私はレオを包んであげたいの、何からも守ってあげたいのよ」



 ダメだ、全然解らない。



「レオーネが好きなんじゃないんですか? だからダンテを利用したり、交換条件で縛ったりして……」


「好き? そんな軽薄なものじゃないわ」



 メリッサ様は剥製を愛しそうに撫で始め、表情は悦に浸ったような、でも瞳は虚ろで……



「――愛しているの……。 この慈悲の無い世界で、あの子が安心出来るのは私の膝元だけだから」



「………」



 得体の知れない感情。


 この人は、一体何を求めてるんだろう―――。




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