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12,

 


 大広間は混乱している。 私もそうだけど、今はそれを考える時じゃない。



「――っ! エル……」


「いいからっ!」



 私はジータの手を引っ張って出口に向かう。 頭の中はグチャグチャだけど、とにかくここからジータを連れ出すのが先決だもの。



「――え? ふ、二人ともどこ行くの?」



 レイアごめん、事情は後で――――話せないか……ッ!



「……あの女、―――どこだッ! お前も道連れにしてやるッ!!」



 ――っ! ダンテの怒鳴り声が聞こえた。 バカじゃないの? ジータだって破滅するのにメリッサ様に言う訳ないじゃない!



「ジータ! 振り返らないでっ!」


「うっ、うん……」






 ◇






「――そこかッ! 自分だけ助かろうなんて―――ぐぉ!?」



 鬼の形相で階段を下りるダンテに足がかかる。



「きっ、貴様何をするッ!」


「いや、多分こうした方が良い気がしてな」



 足をかけたのはファビオ、その理由は本当に直感だけかも知れない。


 怒りに顔を紅潮させたダンテは立ち上がり、邪魔をしたファビオに食って掛かろうとするが、



「この恥知らずがッ!」

「メリッサ様を裏切ってこの国で生きていけると思うなッ!」



 そもそもが怒れる立場ではない、囲まれたダンテは罵声の中身動きが取れず、やっと邸から出た時にはリリアナとジータは勿論、ファビオとレイアの姿も無かった。




「ぐっ……ぐぐっ……―――何でだッ!! あと少し……もう少しでッ!!」




 公爵家との結婚、それは伯爵家としては逃したくない繁栄の好機。 両親の期待も大きかっただろうが、その息子は寧ろ家を潰すきっかけとなってしまったようだ。







 ◇






 豪奢なソファには穏やかに微笑むメリッサと、バツの悪そうに片眉を下げるレオーネが座っている。



「久しぶりね、こうして二人で話すのは」


「……ええ」



 婚約破棄を宣言したばかりのメリッサに名指しで呼ばれ、ゆっくり二人でお茶というのも落ち着く筈がない。 呼ばれた理由は不明だが、心当たりが無い訳でもないから特にだ。



「昔からそうね、レオは私と居るのが苦手みたい」


「そんなことは……」



 レオーネを愛称で呼び、『昔から』と話す辺り二人は旧知の仲のようだ。 同国の公爵家と大公侯爵家、それも歳も1つ違いでは知らない方が不自然というもの。


 リリアナには以前、メリッサはお前の方が知ってるだろと言っていたが、どうやら『レオ』の方が詳しそうだ。



「ダンテの不貞は……」


「前から知っていたもの。 ――あら、もしかして泣いた方が良かったかしら、そうしたらレオが慰めてくれた?」


「……私では荷が重いかと」



 悪戯っぽく覗き込むメリッサと、それを見て見ぬふりをするレオーネ。 その態度にメリッサは少し不貞腐れた顔をする。



「そんな話し方はやめて欲しいわ、子供の時のように話して? 例えばほら、『オレはメリッサのこと嫌いだから』ってあれ、とても悲しかったわぁ」



 昔話を嫌味に話され、目を細めるレオーネは吹っ切れたように口を開く。



「慰める? 元々結婚するつもりなんて無いのに婚約した相手だろ?」


「そうね、少しはレオがヤキモチ妬いてくれるかと思ったけど、あんな男では役不足だったわ」


「……悪い公爵令嬢が居たもんだ」



 げっそりとした顔でレオーネが項垂れると、メリッサが今度は怪しげな笑みを浮かべる。



「ねえ、どうして今婚約破棄したと思う?」



 そう、以前からダンテの不貞を知っていたメリッサはいつでも婚約破棄出来たのだ。 それこそ、不貞が無くても力技でどうとでもなる相手なのだから。



「……さぁな」


「――あんな女許さない、レオの相手は私が選ぶから」



 柔らかだった表情が一転、急速冷凍されたように凍り付いた。



「あんな女?」


「でもレオも年頃だものね、我慢させるばかりでは可哀想」


「だから、何を言ってるんだ?」



 婚約破棄の理由、それを聞くつもりが話は見当違いな方向に進んでいく。 だが、それは決して話が逸れた訳ではなかった。



「おいで、レオ」



 美しい花が蜜蜂を誘うように、両手を広げたメリッサが微笑む。



「なっ、何を」


「何を? 何をしてもいいのよ、私に甘えさせてあげる」



 大勢の目の前では気品高き公爵令嬢、それが今は別人だ。 ただ、それはふしだらな印象より、幼子をあやすような印象を受ける。



「ふ……――――ふざけるなッ!! 何のつもりだ、さっきから訳の分からない事を言って……!」



 激昂し立ち上がるレオーネ。 メリッサは動じることなく視線を上げ、その目を逸らさず穏やかに見つめている。



「私が何も知らないとでも?」


「……お前の言うことは理解出来ない、オレは広間に戻る」



 そう言って部屋を出ようとした時、



「―――レオの心を奪った、それはどんなに僅かでも許さない」



 背中に突き刺さる言葉、レオーネは苛立った顔で振り返る。



「オレは、誰に何を奪われたつもりもない」


「ダンテの不貞の相手……」



 あまりにも美しい不敵な笑み、慈愛に満ちた女神が鎖を持っているような、そんなアンバランスさをメリッサは放っている。



「――エルマの友達、でしょ?」



「っ……」



 その鎖は少なからず、レオーネの身を縛り付ける事となったのだった。




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