18. 二人きりの食事
レオンと食事へ行く約束をした翌日は、朝から穏やかに晴れていた。春の日差しが窓から差し込み、庭先の草葉に残っていた露を少しずつ乾かしていく。アリスはいつもと同じ時間に起き、簡単な朝食を済ませると、洗濯物を干して家の掃除を始めた。
昨日マルコに直してもらった留め具も、午前中のうちに雨戸へ取り付けた。何度か開閉して具合を確かめ、使った道具を片づける頃には昼が近づいている。普段と何も変わらない一日のはずなのに、今日に限っては夕方までの時間が妙に長く感じられた。
昼食を終えてから読みかけの本を開いてみたものの、なかなか集中できなかった。数頁進むたびに昨日の約束を思い出し、気づけば窓から差し込む陽射しの傾きを確かめている。まだ支度を始めるには早いと分かっているのに、しばらくするとまた外の明るさが気になった。
夕方になれば、レオンと二人で食事へ行く。それがデートの誘いであることは昨日から分かっていたし、意味を取り違えて承諾したわけでもない。それでも一晩明けると、自分が男性と二人きりで会う約束をしているという事実が、昨日よりはっきりと意識されるようになっていた。
アリスには、かつて婚約者がいた。テオドールとは幼い頃から将来結婚する相手として付き合い、二人で話したことも、一緒に食事をしたことも数え切れないほどある。互いの家族も使用人も二人の関係を知っており、いつか夫婦になることまで最初から決められていた。
今夜はそれとは違う。家同士の取り決めもなければ、誰かが用意した席へ向かうわけでもない。レオンが自分から誘い、アリスも彼と食事をしてみたいと思ったから承諾した。考えてみれば、自分の意思で約束したデートは初めてだった。
そのことを意識すると、ますます本の内容が頭に入らなくなった。アリスはとうとう諦めて本を閉じ、まだ少し早いと思いながら寝室へ向かう。
衣装棚を開き、普段よく着ている服へ手を伸ばしかけたところで動きを止めた。町の酒場へ食事に行くだけなのだから、着飾る必要などない。夜会でもなければ格式のある店でもなく、普段着で向かったところで誰も気にしないだろう。
それでも今日は少しだけ違う服を着たいと思った。
選んだのは、深い青色のワンピースだった。襟元と袖口に細い刺繍が入っているほかには目立つ飾りもなく、普段着より少し丁寧に仕立てられている程度のものだ。エルデンの酒場へ着ていっても浮かず、それでいて自分では今日のために選んだと思える。
着替えて鏡の前へ立つと、今度は髪が気になった。いつものようにまとめてから一度鏡を確認し、結局ほどいて整え直す。髪飾りも普段使っているものではなく、小さな白い飾りがついたものを選んだ。
昨日までなら、夕食を食べに出るだけでこれほど時間をかけることはなかった。レオンがどんな格好で来るのか、自分を見たときに何と思うのかまで気になっていることに気づくと、少し恥ずかしくなる。
それでも今日はデートなのだから、少しくらい身なりを整えてもいいだろう。アリスは鏡に映る自分を最後にもう一度確かめ、約束の時間に遅れないよう家を出た。
夕方のエルデンでは、仕事を終えた人々が家路につき始めていた。開いた窓から肉を焼く香りや煮込み料理の湯気が流れ、店じまいを始めた商人が軒先の商品を箱へ戻している。西へ傾いた陽が建物の壁を淡い橙色に染め、通りの端には細長い影が伸びていた。
待ち合わせ場所は、ロベルト・ケインが営む酒場の前だった。中心部から少し南へ下った通りにある二階建ての建物で、一階が店として使われている。入口の上には麦の穂と杯を彫った木製の看板が掛かり、夕食時になれば仕事帰りの職人や旅人たちが自然と集まってくる場所だった。
店主のロベルトは三十六歳で、帝国が崩壊した後もエルデンに残り、酒場を続けてきた男である。背が高く肩幅も広いため、初めて見る者には少し近寄りがたく映るものの、実際には気さくで面倒見がよい。酒を飲む客だけでなく、夕食だけを食べに来る一人暮らしの住民や旅人も分け隔てなく迎えてきた。
アリス自身も以前から何度も世話になっている。料理をする気になれない日に一人で訪れても余計な理由を聞かず、空いている席を示してくれる人だった。客の顔や好みをよく覚えている一方、本人が話したがらない事情へ無理に踏み込まないところも、アリスにはありがたかった。
店へ続く通りを曲がると、入口の前にはすでにレオンが立っていた。木工場で会ったときの作業着ではなく、濃い灰色の上着に白いシャツを合わせており、髪も普段より丁寧に整えられている。
自分だけが今日を意識していたわけではなかったらしい。そう思った途端、家を出る前には落ち着いたはずの胸が、また少しだけ騒がしくなった。
レオンもすぐにアリスへ気づいた。笑顔を浮かべてこちらへ歩いてきたものの、近くまで来ると一瞬だけ言葉を止め、アリスの姿を見てから少し照れたように笑う。
「こんばんは、アリスさん。……その服、とても似合っています」
「ありがとうございます。レオンさんも、今日は随分きちんとされていますね」
「昨日のままの格好で来るわけにはいきませんから。木屑をつけて食事をすることになってしまいます」
その答えにアリスが笑うと、レオンも表情を緩めた。待ち合わせるまでは少し緊張していたはずなのに、顔を合わせてしまえば昨日までと同じように話せる。そのことに安心しながら、二人は並んで酒場の扉を開けた。
店内にはすでに何組もの客がいた。壁際では仕事を終えた職人たちが杯を傾け、奥の大きな卓では旅人らしい男女が料理を分け合っている。厨房からは鍋の蓋を開ける音が聞こえ、香草を利かせた煮込みと焼いた肉の匂いが暖かな空気に混じっていた。
「いらっしゃい。……おや、アリスじゃないか」
厨房の近くで皿を運んでいた男が振り返り、アリスを見ると片手を上げた。大柄な体に白いシャツと濃い色の前掛けを身につけ、忙しい時間帯らしく袖を肘まで捲っている。彼がこの店の主人、ロベルト・ケインだった。
「こんばんは、ロベルトさん」
「珍しいな。今日は一人じゃないのか」
ロベルトはそう言ってレオンへ目を向けたものの、面白がって二人の関係を尋ねるようなことはしなかった。長く酒場を営んでいるだけあって、客が自分から話さないことを無理に聞き出さない。
「こちらはレオン・アルヴェインさんです。最近、ラウゼンからエルデンへ来られた方で」
「レオンです。アリスさんに、こちらの料理が美味しいと教えていただきまして」
「それなら責任重大だな。ロベルト・ケインだ。好きなところへ座ってくれ。今なら窓際が空いてるぞ」
ロベルトは笑って二人用の卓を示し、すぐに別の客へ呼ばれて厨房の方へ戻っていった。アリスが一人で来るときには壁際の小さな席を使うことが多いため、レオンと向かい合って座るだけでも普段とは少し違って感じられる。
初めての店だからと料理を尋ねられ、アリスは肉と豆を長く煮込んだ料理を勧めた。黒パンと焼いた根菜も一緒に頼み、飲み物だけはアリスが果実を薄く煮出したもの、レオンが麦酒を選ぶ。
「昨日アリスさんに教えてもらっていなければ、まだこの店には来ていなかったと思います」
「宿でも夕食は出るでしょう?」
「出ますよ。でも、せっかくエルデンにいるんですから、宿と木工場を往復するだけではもったいないでしょう。少しずつでも町を知りたいんです」
「それなら、ロベルトさんのお店は覚えておいて損はありませんよ。食事だけでも来られますから」
話しているうちに料理が運ばれてきた。湯気を立てる煮込みには柔らかくなった豆と肉がたっぷり入り、刻んだ香草が散らされている。焼いた根菜には薄く塩が振られ、厚めに切られた黒パンからは焼き直したばかりの香ばしい匂いがした。
レオンは煮込みを一口食べると、目を見開いた。
「美味しいですね!これは教えてもらって正解でした」
「気に入っていただけたならよかったです」
「アリスさんはよく来るんですか?」
「毎週というほどではありませんけれど、夕食を作る気になれない日には。煮込みがある日は、これを頼むことが多いですね」
「では、今日はアリスさんの定番を食べているわけですね」
そんな言い方をされると、ただ料理を勧めただけなのに、自分の日常の一部を相手へ教えたような気がした。アリスは少し照れながら黒パンをちぎり、煮込みへ浸して口へ運ぶ。
食事が進むにつれ、話題はラウゼンへ移っていった。これまでにもレオンの故郷について聞いたことはあったが、二人で落ち着いて話す時間ができたことで、アリスは以前から気になっていたことを尋ねる。
「お兄様は、もうご実家のお仕事をされているんですか?」
「はい。長兄は父から領地の仕事を少しずつ引き継いでいます。まだ父が当主ですが、領民からの相談や収支の確認なんかは兄が担当することも増えました」
「もう一人のお兄様は軍にいらっしゃるんでしたね」
「次兄ですね。王国軍にいます。昔からああいう仕事が向いていたので、本人も今の暮らしを気に入っているみたいです」
兄たちの話をするレオンの表情に、複雑なものは見えなかった。爵位と領地を継ぐ長兄にも、自分の職を得た次兄にも、それぞれの人生があるものとして受け止めているようだった。
「では、レオンさんだけが、まだこれからなんですね」
「そうなりますね。家に残っていても暮らしてはいけましたし、兄の補佐をする道もありました。でも、それを選ぶ前に、一度くらい自分で自分の仕事を探してみたかったんです」
レオンは杯へ手を伸ばしながら、少しだけ店内を見回した。酒場では新しい客が増え、入口の近くでロベルトが注文を取っている。隣の卓から聞こえる笑い声に負けない程度の声で、彼は続きを話した。
「旧帝国領には人も仕事も集まっていると聞いていました。何かを始めるなら、こういう場所の方が面白いかもしれないと思ったんです。もちろん、来る前に考えていたことと実際の暮らしは随分違いましたけど」
「それでも、帰りたいとは思わないんですか?」
「今のところは。まだエルデンに来たばかりですから、帰るかどうかを決めるには早いでしょう?」
その答えは、アリスにはレオンらしく感じられた。大きな夢を語るわけでも、絶対にここで成功すると意地を張るわけでもない。分からないことは分からないまま、自分で確かめようとしている。
「見つかりそうですか。レオンさんがしたいことは」
「まだ分かりません。でも、見つけたいとは思っています。商売にも興味がありますし、町が大きくなるなら必要になる仕事も増えるでしょう。ユリウスと同じことをする必要もありませんからね」
そこでレオンは少し笑った。ユリウスはすでに商人たちとの付き合いを広げ始めているらしく、最近ではレオンよりエルデンの商売事情に詳しいところまであるという。
「二人で来たのに、別々のことをするんですね」
「一緒に来たからといって、ずっと同じことをする必要はないですからね。夜に宿へ戻れば話しますし、互いに面白い話があれば教えます。それくらいがちょうどいいんです」
その関係をアリスは少し羨ましく思った。相手の人生へ必要以上に踏み込まず、それでも離れてはいない。ユリウスとレオンは、それぞれが自分の道を探すことを当然のように認め合っているらしい。
「アリスさんは、これからもエルデンにいるつもりなんですか?」
今度はレオンから尋ねられ、アリスは少し考えた。似た話は昨日もしたものの、今日はもう少し素直に答えてもいいような気がした。
「今は、そのつもりです。ずっと先のことまで分かるわけではありませんけれど、ここで暮らしたいと思っています」
「好きなんですね。エルデンが」
「そうですね。嫌になることもありますよ。冬は寒いですし、欲しいものがなかなか手に入らないこともありますから」
「そこまで含めても?」
「含めても、でしょうね」
話題はそこから、もっと身近なものへ移っていった。レオンがエルデンの店をほとんど知らないと言うので、アリスがパン屋や道具を扱う店をいくつか教える。逆にレオンからラウゼンの町の話を聞き、向こうではどんなものが日常的に売られているのかを尋ねた。
「アリスさんは、休みの日も本を読んでいることが多いんですか?」
「本を読むこともありますし、散歩に出ることもあります。何もしない日もありますよ」
「何もしない?」
「朝食を食べて、少し掃除をして、昼食を食べて、気がついたら夕方になっているような日です」
「少し安心しました」
「どうしてです?」
「アリスさんは毎日きちんと予定を立てて暮らしていそうだったので。僕が知らない間に、朝から晩まで予定表が埋まっているのかと」
「そんな生活は疲れてしまいますよ」
アリスが笑うと、レオンも楽しそうに笑った。互いに何を好むのか、朝は早い方か、甘いものなら何を選ぶのか。知らなくても困らないようなことを尋ね合っているのに、どの答えも妙に興味深く感じられる。
「そういえば、アリスさんは料理もするんですよね?」
「一人で暮らしていますから。人並みにはしますよ」
「人並み、ですか。その言い方は信用していいんでしょうか?」
「失礼ですね。少なくとも、自分で食べられないものを作ったことはありません」
「基準が急に低くなってませんか!?」
レオンの声が少し大きくなり、近くを通りかかったロベルトが何事かとこちらを見る。アリスと目が合うと、彼は二人が笑っているのを確認してから、呆れたように口元を緩めて厨房へ戻っていった。
アリスは笑いながら、自分がこれほど気楽にレオンと話していることに少し驚いていた。家を出る前にはデートだというだけで緊張していたのに、向かい合ってしまえば話題を探す必要さえない。
「アリスさんは、本当にエルデンの人をよく知っていますよね」
料理も残り少なくなった頃、レオンが店内を見回しながら言った。入店してから今までにも、アリスは何人かの客と挨拶を交わしている。
「生まれたときから暮らしていますから。長く住んでいれば、自然と顔を覚えますよ」
「では、僕のこともそのうち詳しくなりますね」
「それはレオンさんがエルデンに長くいれば、ですけれど」
アリスが返すと、レオンは杯を置いた。すぐに冗談を返してくると思っていたのに、ほんの少しだけ間が空く。
「それなら、長くいる理由が一つ増えましたね」
「……そういうことを、簡単に言うんですね」
「あっ、いや、今のは……」
言った後で自分でも意味に気づいたらしく、レオンが珍しく言葉に詰まった。その様子を見ていると、今度はアリスの方が少し余裕を取り戻す。
「冗談です。そんなに慌てなくても大丈夫ですよ」
「アリスさん、昨日より僕への扱いが厳しくなっていませんか?」
「少し慣れてきたのかもしれませんね」
「それなら……喜ぶことにします」
レオンはまだ少し納得していない顔をしていたものの、やがて笑った。アリスも杯へ口をつけながら、自然に頬が緩んでいるのを感じた。
食事を終える頃には、窓の外はすっかり暗くなっていた。店内には仕事帰りの客がさらに増え、入口が開くたびに夜の冷たい空気が入り込んでくる。厨房では新しい鍋が火に掛けられ、ロベルトが空いた皿を集めながら次々と客の注文へ応えていた。
会計を頼むと、レオンが二人分の硬貨を出した。アリスもすぐに財布を取り出し、自分の分を卓上へ置く。
「私の分は自分で払いますよ」
「僕から誘ったんですから、今日は払わせてください」
「誘っていただいたからといって、ご馳走していただく理由にはならないでしょう」
「ラウゼンでは、誘った側が払うことも多いんです」
「ここはエルデンですよ」
二人の間に置かれた硬貨を見比べ、ロベルトが困ったように眉を上げた。助けを求めるようにレオンが彼を見ると、ロベルトは首を横へ振る。
「俺を巻き込むな。二人で決めてくれ」
「ロベルトさん」
「料理ならいくらでも出すが、そういう話の仲裁までは料金に入ってない」
あっさり逃げられ、アリスはレオンと顔を見合わせた。結局、食事代はそれぞれ自分で払い、飲み物だけは誘った側だからとレオンが譲らなかったため、アリスもそこまで拒むのはやめることにした。
店を出ると、昼間の暖かさはほとんど残っていなかった。春らしい冷たい夜風が通りを抜け、家々の窓から漏れる灯りが石と土の混じった道をところどころ照らしている。背後では扉が閉まってもなお、酒場の賑わいがかすかに聞こえていた。
「家まで送ります」
「ここからなら一人で帰れますよ」
「知っています。でも、僕がもう少し歩きたいんです。駄目ですか?」
そう言われると断る理由もなく、アリスは頷いた。二人は並んで歩き始め、昼間より静かになった道をゆっくり進んでいく。
食事中とは違って、帰り道では会話が途切れる時間も増えた。明日の予定を話したり、夜になって冷え込んできたことを口にしたりしながら歩き、ときにはしばらく何も言わない時間も続く。それでも沈黙を埋めなければならないとは感じなかった。
家を出る前には、二人きりで何を話せばいいのだろうと少し考えていた。それなのに実際には話題が尽きることもなく、気づけば食事を終え、帰り道まで半分以上歩いている。
普段、一人で夕食を取る時間よりずっと長く外にいたはずなのに、短く感じられた。
やがてアリスの家へ続く道との分かれ道が見えてきた。ここまで来れば一人で問題ないと告げると、レオンも無理についてこようとはせず、その場で足を止める。
「今日は楽しかったです。付き合ってくれて、ありがとうございました」
「私も楽しかったです。ロベルトさんのお店も気に入っていただけたようで安心しました」
「はい。また行きたいです。それと……」
レオンは一度言葉を切った。昨日、食事へ誘われたときにも似た間があったことを思い出し、アリスは黙って続きを待つ。
「また、誘ってもいいですか?」
「……ええ。私でよければ」
昨日よりも、答えはずっと早く出た。
レオンは嬉しそうに笑い、それではまたと告げて宿のある方角へ歩いていった。アリスはその背中が暗い道の先へ遠ざかるまで見送り、それから自宅へ戻った。
灯りをつければ、朝までと何も変わらない部屋が現れた。上着を脱いで椅子の背へ掛け、髪を留めていた飾りを外すと、家を出る前に鏡の前で何度も髪を整えていた自分を思い出す。
デートへ行く前にはあれほど意識していたのに、終わってみれば緊張していた時間より笑っていた時間の方が長かった。テオドールと過ごした時間には、幼い頃から積み重ねてきた別の親しさがあり、それを今夜と比べてどちらが上だったと決める気にはなれない。
それでも今日、自分の意思で誘いを受け、自分で服を選び、会いたいと思った相手と待ち合わせて食事をした。その経験が楽しかったことだけは、誰かに説明しなくても分かっていた。
レオンへの気持ちに、今すぐ名前をつけるつもりはない。知り合ってからまだ日も浅く、彼について知らないことはいくらでもある。レオンもまた、アリスが家名を隠して暮らしていることも、かつて婚約者がいたことも知らない。
それでも、また誘ってほしいと思った。
アリスは卓上へ置いた髪飾りへ目を向けた。次に会う約束はまだない。それなのに、レオンが次はどこへ誘ってくれるのだろうと考えている自分に気づき、今度は一人きりの部屋で小さく笑った。
アリスにとって、今回は自分の意思で誘いを受けた初めてのデートでした。
レオンとはまだ知り合って間もなく、恋愛感情をはっきり自覚しているわけではありません。それでも「また誘ってほしい」と思えるくらいには、一緒に過ごす時間が楽しくなってきています。
二人の関係も、少しずつ変わり始めています。




