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第二話 おつとめ

 小間使いの朝は早い。鳥が目を覚ましてチュンチュンと鳴き始めるよりも早いかもしれない。


 メアリー様にもらった、ばね仕掛けの目覚まし時計がコロコロと音を立てる。


 その音がするより、早起きしているのは――


「ライラ、起きて」


 カイだった。カイはもうすでに、長い銀髪を()かし始めているところだった。


「おはよう、カイ」「おはよう、ライラ」


 あたしはカイの目を見て笑った。カイも、手を止めて笑いかけてくれた。


 あたしの髪の毛はちょっとくせっ毛だから、梳かすのには苦労する。


 それでも、おつとめをするためには見苦しい格好でいるのは嫌だ。


 ちょっと前、カイにその話をしたら、ライラらしいね、って微笑んでくれた。


 髪の毛を手早く整えたら、次は着替えだ。メアリー様や、奥様や旦那様がくださった大切なメイド服。


 もちろん、年上のメイドさんたちやメアリー様よりは質素なんだけれど、昨日洗ってお日様の香りをたっぷり吸い込んだ服の匂いをかぐと、あたしの胸にまで太陽のひかりが入ってくるようだった。


 ……いけない、いけない、着替えなきゃ。


 メイド服を着るのはいまだに難しい。メアリー様に何度も聞いたけれど、やっぱり一人では着られるようにならなかった。


 だからカイと協力して着ることにしたんだ。


 あたしたちの部屋には姿見がひとつしかないから、簡単な身支度はできても、エプロンの紐の結び具合や、全身のスタイルまではわからない。


 だからあたしの服をカイが着せてくれて、あたしはカイの身支度を整える。……といっても、カイはとても器用だから、あたしが手伝う部分はあんまりないんだよね。


 カイの器用さはほんとうにすごいなあって、いつも思う。




 *




 あたしたちはメアリー様やほかのメイドさんに挨拶をすませると、用具庫から武器をとりだした。


 そう、小間使いの武器、雑巾とバケツだ!


 あたしとカイは、バケツがガランガランと音を立てないように注意しながら、裏手の井戸に回ると、バケツに水を()み上げた。


 この質素な井戸はお掃除や、植木にあげるための水を汲むところ。


 飲み水を汲むための井戸は、お屋敷の大切な場所として、作り付けの部屋に用意されている。


 もっとも、旦那様や奥様は『まどうぐ』という、不思議な道具を使って水を作ったり沸かしたりできるそうだ。だから井戸の水を飲むことはめったにないんだって。


 あたたかいお湯かあ……いつか飲んでみたいな。


 あたしたちはお屋敷の中に戻ると、さっそく雑巾を絞ることにする。水がとても冷たくて、まるで針で刺されたようにキーンとしびれるけれど、我慢する。


 腕まくり、(すそ)まくり、そして大切なカチューシャをポケットにしまう。


 そして、雑巾を手に持つと、犬が走るように一直線に廊下を拭いていく。


 もちろん、足音を立てないように工夫するのも忘れないよ。


 ――そうして汗びっしょりになるころ、廊下の雑巾がけが終わった。


「ちょっと休もうよ、ライラ」「そうしよう、カイ」


 あたしたちは廊下の影に隠れてこっそり座ると、ふーっと息を吐きだした。


 きれいな廊下に座るのはいまだに慣れないな。


 でも幸せ。この幸せを、もっと大事にしていきたい。


「じゃあ、次の拭き掃除に行こうよ、カイ」「そうだね」


 そう、拭き掃除は床だけではない。廊下の壁、部屋のドア、拭くところはいくらでもある。


 ちなみに、ガラスや壺のような高級品は、メイドさんが磨く。


 メイドさんたちが安心して働けるよう、雑用や廊下拭きをあたしたちががんばる。おつとめをはじめて最初のころ、メアリー様が教えてくれた。


 こうやってあたしたちが雑用を片付けているから、メイドさんたちはほかの仕事に集中できるんだって。


 メイドさんたちも同じことを言ってくれて、あたしとカイはとてもうれしかった。




 まかないのパンとシチューをいただいてから、あたしたちは少しだけ休憩をとる。


 小間使いの仕事はまだまだつづく。料理人さんの食器洗い、庭師さんが切った枝を運ぶ、そして一番の重労働、洗濯。


 リネンやシーツ、それにいろんな人のお洋服を全部洗って、干す。量がものすごいから、他のメイドさんたちにも手伝ってもらう。


 明るい太陽に、吸い込まれそうな青空、そして風になびく洗濯物たち!


 おつとめは大変だけれど、それ以上にあたしとカイに幸せをくれる。


 こんな毎日の中で、あたしとカイは小さな小さな幸せのカケラをあつめて、いつかみなさんに恩返しがしたい。


 それが、あたしとカイの、小さな小さな夢のカケラ。


(つづく)

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