ツギハギの道
嬉しいことに、書庫は部屋の近くにあった。
ラステル家の屋敷の書庫には二万冊を超える膨大な数の本があり、屋敷に勤めるものなら誰でも閲覧可能になっている。
その特権を求めてここで働くことにする人がいる。
そもそも、本は滅多なことでは手に入らない。
印刷ができないわけではなく、紙も有り余っているのに、だ。
権力者というのは自分だけが権力を持っていたいからな。
魔導に関する知識が簡単に得られるようになってしまったら、平民が反逆を起こす可能性が高まる。
平和のためには合理的だが、進歩のためには非合理的極まりない世界だ。
魔導には属性がある。
火、地、雷、草、風、水、毒。
天使の聖なる力や悪魔の穢れた力は置いておくとして、人間が使えるのはこの七つだ。
私は黒髪だ。
常識的に考えれば、魔導を使えない体だ。
だが、使えるようになろうとしている。
どの属性を使えるようになるのが一番いいか。
いや、「どれが良い」よりも「どれが悪い」で考えるべきだな。
火属性は論外。
暴発でもしたら、屋敷が燃える。
大人に気づかれたらお終いだ。
同じような理由で、雷もダメ。
できれば、物的証拠が残らない方がいい。
地と草、水もダメだな。
毒は自分に感染する可能性を否定できない。
風だな。
私は、風の魔導に挑戦することにした。
書庫には、本の種類ごとに棚に分かれてあった。
風の魔導について書かれた本は三つの棚に分かれていた。
その中の七割ほどは読むことさえ叶わない。
身長が足りず、そもそも本をとれないからだ。
棚の一番下のところの、簡単そうな本を一度読んでみることにした。
「風の魔導の概要、入門、応用への足掛かりまで」
学術書みたいなタイトルとは裏腹に、この本は絵本だった。
この本には、いろいろなことが書かれてあった。
風の魔導とは、その名の通り風を操る魔導のこと。
だが、他の属性より攻撃性能が低く、人獄大戦でもあまり役に立たなかったこと。
体にまとわせて速度を早めることができ、戦争よりも配達業などの日常で大いに活躍していること。
……選ぶ属性ミスったか?
まあいい、もう決めたんだ。
この本が入っていた本棚は元から数冊分の空きがあった。
一冊取ったところでバレないだろう。
これを部屋に持ち帰り、今日は読み込んで終わりにしようか。
あれから数日。
思いついたことがある。
知っての通り、髪に魔力は宿る。
紙を切ってしまえば、魔力はなくなり、魔導士としての価値は大いに下がる。
そして、風の魔導は人の動く速度を上げられる。
なら、相手が魔導を詠唱するよりも先に相手に近づき、髪を切ってしまえば良いのではないか。
我ながら名案だ。
紙を切れるほどの刃物、それを操れるだけの技量、速度を上げるに不足がないほどの風魔導。
この三つを手にしたら、私は生きていける。
課題点ばっかりだな。
この世界は戦争がなくなって久しい。
人獄大戦はあったが、それ以前は戦争が一度も起こっていない。
故に、この世界で戦う場面は決闘が多い。
たまに盗賊などが出現し、それの対応で戦いが起こる時もあるが、微々たるものだ。
決闘は一対一で行われる。
なら、この戦法を使えば勝てるはずだ。
アピールポイントになるだろう。
まだ、魔導が使えるようになる兆候はない。
折れるな。
諦めないことしか道はないのだから。




