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夫婦崩壊

生後二ヶ月になった。

四つん這いになって歩くのはマスターし、壁があれば足だけで歩くのもできるようになってきた。

これなら、暗殺はうまくいくだろう。

今日、私は母親に毒を盛る。


私の部屋には、ご飯の時しか人が来ない。

前に天馬に乗って帰ってきた時に一度屋敷の全貌を見ていたが、どうやらここは建物の最上階の端の部屋のようだ。

そりゃあ人が来なくて当然だろう。

ありがたい。

夜は抜け出し放題、屋敷を散策できる。

この三週間で私は屋敷の部屋の配置を大まかに把握することができた。

もちろん、母親の部屋もだ。

私と同じ階の、私とは逆側の端の部屋。

そこに眠っている。


部屋まで移動する間、特に問題は起こらなかった。

道ではメイドに会ったが、エルフがくれた空色の薬のおかげで気づかれることはなかった。

部屋の前にいると思っていた兵はおらず、すぐに忍び込むことができた。

不用心だと思うが、理にかなってはいるのだろう。

部屋の前に兵を置いては、「屋敷の中に裏切り者がいる」と疑っていることを父が意見表明したも同然だ。

そうすれば、信頼されていないことに憤慨して屋敷を去る者が出るかも知れない。

まあ、被害妄想でしかないのだが。


生まれた時には、私は目を開いていなかった。

母の姿を見るのは初めてだ。

母はとても綺麗な橙の長髪だった。

当たり前だ。

ラステル家は代々地属性の名門だ。

次に生まれる者がより強い魔導士になるよう、地属性であることは当然として、魔力の多い証である長い髪も持っていなくてはならない。


ベッドに静かに乗る。

母の口をこじ開ける。

何日も眠っているからか、中に唾液はなかった。

指を突っ込む。

すると、唾液が出てきた。

すかさず白色の薬瓶の中に入れる。

白色の薬は少し橙を帯びた。

こじ開けた口をそのままに、紫の薬を入れる。

あとは、この薬が効くまで一時間。

静かに待とう。


ギイィ……

バタッ!

誰だ!?

いや、誰だろうとかまわない。

私の姿を見えはしないのだから。

「ああ、ポヴェイロ。なぜ目覚めてくれないんだ」

公爵夫人を名前で呼び捨てにしている……?

そんなことが許されるのはここの主人だけ。

つまり、今ここにいるのはラステル公か。

「僕があんな子供を産ませてしまったせいで……。すまない……」

そう言ってから三十分、父親はベッドに突っ伏していた。


父親が去り、さらに三十分後。

私はもう一度母親の顔を覗き込んだ。

さっきまでは僅かにあった生気が消え失せている。

植物人間になった。

私は母親を殺したも同然なのだ。

それを自覚した途端、私の中に猛烈な吐き気と焦燥感が込み上げてきた。

だが、それとは別にどこか多幸感があった。

無意識に恍惚と顔を歪めてしまうほどの甘美な思いに掻き立てられた。


私が、人の道を終わらせたのだ。


こんなことをしている場合ではない。

早く白色の薬を飲ませ、退散しなければ。

私は大急ぎで薬を飲ませたあと、部屋に戻った。


安心した瞬間に笑いが止められず、その日は一睡もできなかった。


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