流浪のエルフ
「お嬢様。面会がしたいと言っている方がいます」
「初めまして。さっきあなたと話していた男の娘、レーゲン・ラステルです」
そのエルフは、常に目を瞑っていた。
長いまつ毛と白い肌、全体的に儚さが漂う女性だった。
少し白色が混ざった紫色の髪。
天使と紫髪の人間のハーフなのだろう。
「爺が認めたからどんな曲者だろうと思ったが……。まさか、黒髪とはな。先刻の男が焦っていったのにも合点がいく」
まさか、あの状態で目が見えているのか!?
少しも目を開けていないのに、どうやって!
「見えているのですか!」
「見えてないと思ったかしら?」
「はい!どうやって見ているのですか!?」
「女の子の秘密を探るのは嫌われるわよ?やめておきなさい」
断られてしまった。
まあいい、本題とは関係ないことなのだから。
「それで?目的は何?」
「毒薬をください」
「なぜ?」
「母親を植物にしたいからです」
「……面白いな。さっきの公爵の百倍は面白いぞ!迷いなく母を手にかけるとは。いいぞ、やる。欲しい物を詳しく言え」
やった!
正直、ここまで上手くいくとは思っていなかった。
こんなに順調に話が進むとは。
「最低でも半日には効く即効性と、できれば証拠が残らないような薬が良いです」
「注文が多いな!まあ良い。望みのものをくれてやる。爺、鞄を出せ!」
「ここに」
爺と呼ばれた人は、鞄と言うには小さいポーチのようなものを取り出した。
エルフは、その中に腕を突っ込み、中から三つの薬瓶を取り出した。
「この紫色の薬が、毒だ。一時間で魔力の流れが止まり、二度と目をあけることは叶わなくなる。次、この空色の薬が証拠を残さないための物だ。自分が飲めば、二時間は気配も痕跡も何もかもが消える。最後に、この白色の薬が、もう一つの証拠を残さないための薬だ。これに母親の唾液を入れろ。その状態で毒を飲ませた後に母親に飲ませると、植物状態の中から毒が消える。これで、誰にもバレない犯罪の完成だ」
「ありがとうございます!」
そう言って馬から降りようとした。
だが、降りさせてくれなかった。
「待て。タダで貰えるものなどこの世にはないぞ、少女よ。対価を支払え」
やっぱりそう上手くはいかないか。
だが、対価として払うものなど何も持っていないぞ。
最悪、腕の一本でも渡せば良いだろうか。
「何も、持っていません」
「だろうな」
「え?」
「だから貸にしといてやる。やった薬は三つ。一つ分差し引いて、貸二つだ」
ありがたい!
今を生きることができれば借りなどいつか返せる!
だが、なぜ一つ分差し引いてくれるのだろう?
「なんで、一つ分負けてくれたのでしょうか?」
「……シグノール商会代々の規則でね。黒髪には優しくするように、って言われてるんだ。誰が作ったのかもわからないんだけどさ」
数百年前のシグノール商会創設者、ありがとう!
「ありがとうございました!」
「帰るなら送ってやる」
そう言った途端、馬から翼が生えた。
これはもしや、天馬か!?
「天馬は初めてだろう?こいつは生まれてから百年を天国で育った馬だ。買うのには苦労したよ」
そうやって話しているうちに、もう最上階の私の部屋に着いてしまった。
エルフはまたポーチに手を突っ込み、何かを取り出した。
それを窓に当てると、たちまち鍵が空き、窓が開いた。
「何から何まで、ありがとうございます!」
「貸二つ、忘れんなよ?」
そう言って、彼女らは飛び去った。
窓に、一枚の小さな紙が張り付いていた。
シグノール商会百代目商会長
リコンペンス・シグノール
裏面を見る。
世界中を放浪してるから、また会うことはないかもしれない。
だから、会えたときに恩は返すものだ。
彼女の好意に報いることができるように生きなければならない。




