名目
旅行に行くことが決まった。
旅行で最初に決めることといえば、場所だ。
「みんな、どこ行きたい?」
こういう時に仕切ってくれるオウスクリータの存在はありがたいな。
「発案者はどこ行くつもりだったか、聞かせてもらえるか?」
「いや、そこまでは」
「そうか」
「よし。じゃあ、みんなで案出そうか」
「自分の領地に行きたい奴はいねえだろ。他、この教室の生徒が治めている場所以外で、行きたいところがある人」
少しの間、沈黙が場を支配した。
ソーレンが恐る恐る口を開いた。
「私、竜に会ってみたいです」
「ソーレンがいうなら、俺もそこで」
「竜っていうと、ドゥラーゴ特別自治領か?」
「うん」
竜。
高度な知性を持つ、翼を持った生物。
初代ミナツィオーネ王との契約により、人間とは友好関係が保たれている。
大陸の西の果て、ドゥラーゴ特別自治領に暮らしている。
人間がそこに干渉する事はなく、竜が人間に干渉することもない。
行けないはずだ。
「行けん事は無い。けど、だいぶ厳しいと思うぞ」
だからフィリオはどーなってるんだよ。
「行けるのなら行ったら良いんじゃない?もし行けなかったとしても、その手前にはメディア侯爵領があるから、そこに行けばいいし」
「それもそうだな。他、意見ないか?」
「決まりだな。明日にはここを発つ。準備しとけよ。解散だ」
ドゥラーゴ特別自治領への道は長い。
王都ミナツィオニスから西に行き、少し南下してスクード山脈の周りを通過する。
そこから我がラステル領を通り、さらに西へ進む。
少し北上してメディア侯爵領を通ると、すぐにドゥラーゴ侯爵領が見えてくる。
ここで西に行かずに北上すると、アリサの家のサンゼンイン辺境伯領に辿り着くな。
今回は行かないが。
現代に、竜と会話した人間はいないだろう。
国王も話したことがないはずだ。
初代が当時の龍と契約した目的は、「反乱の芽を摘む為、名目上の人類による大陸統一を成し遂げること」。
それに対する竜の要求は、「領地への未干渉」。
つまり、実際に竜が人類に下ったわけではなく、人類の我儘を竜が聞いてくれたという認識だ。
これからの旅行でもし不敬があれば、竜が怒るかもしれない。
すると、人類側の契約不履行を名目に戦争を仕掛けられる。
人類は負ける。
まあいい。
フィリオが「行けん事はない」と言ったんだ。
一度接触したことがあるということだろう。
なら、大丈夫だ。




