精を吐く
彼は、部屋で泣いていた。
ディナーも食べずに、泣いていた。
自らの初恋が数時間で終わってしまったことに、泣いていた。
やがて、彼は自らを慰めた。
天運が悪かった。
また違う女でも探せばいい。
腐っても伯爵家の子供なんだ、相手は見つけられるさ、と。
だが、初恋の面影は頭から離れない。
彼は空っぽになってしまった。
何をする活力も無くなってしまった。
だが、時間は平等だ。
やがて涙は途切れる。
彼の中には憎しみが残った。
天使への憎しみ。
あの天使から初恋を奪う。
それが、彼の生きる目的になった。
教室は地獄だ。
いつでもあの天使が幸せそうに彼女に触れているのを見せられる。
なぜか、彼女は嬉しそうにしている。
なんでだ!
まだ十二歳だぞ!
そんな歳で初めてを奪われたんだぞ!
怒れよ!
何絆されてるんだよ!
そうか。
そうかそうかそうか。
彼女は、ソーレンは、脅されているんだ。
あの天使に脅されているんだ。
俺の恋人にならないと殺す、家も潰すって。
脅されているから、嫌々ながら仲良くしてるんだ。
ああ、かわいそうに。
かわいそうに。
かわいそうな、僕のお姫様。
僕が救ってあげるからね。
あの天使を殺して。
二人だけの世界を作って。
僕と死する時まで愛し合おう。
それが幸せだよ、ソーレン。
数週間が経過して、彼は気づいていた。
全くもって隙がないことに。
一人では彼女を救うことは不可能でああることに。
協力者が必要なことに。
協力者として欲しいのは、フィリオ。
オウスクリータ、レーゲンなどのグループ。
だが、無理だろう。
あいつらは天使の味方だ。
次点で、アロガンツァ。
こっちも、協力してくれそうにはないな。
どこかに協力してくれそうな人はいないのか。
ある日の夜。
イントゥリーゴの部屋を一人の人物が訪ねてきた。
「はい、どちら様でしょうか……」
「ソーレン・ノーブルの専属使用人の、ヴェドゥーテと申します。まず、端的に目的を。天使抹殺に協力して欲しいのです」
まさに渡りに船であった。




