坩堝
女子部屋。
二人だけの聖地だ。
レアルタには聞かせたくないらしい。
まあ、メイドは当主の名を受けて情報を集めに来ているようなものだからな。
仕方ない。
「私がご主人様に出会った時はねー。殺されかけていた時だったんだ」
ポツポツと、オウスクリータは語ってくれた。
「ほら、私は黒髪でしょ?それで、生まれてからずっと両親に憎まれていたんだ。でも、私の祖父母にあたる人たちが庇ってくれたの。『ここで家を途絶えさせる気か?せめて次の娘が生まれるまでは』って」
じゃあ、その祖父母には感謝だな。
二人がいなければ今こうして出会えていないのだから。
「それで三歳くらいまでは生きたんだけど、事件が起こってね。私に、妹が生まれたんだ。とっても綺麗な青色の髪の、ね」
悲しいな。
もう、殺されるしかなくなる。
私と似た境遇だな。
でも、私みたいに小さな頃から知能はないだろう。
詰みだ。
「それで、いよいよ殺されるって時に、ご主人様が助けてくれたんだ」
ヒーローじゃないか。
「あっという間に両親を殺して。家は血の海になって。おかげで生きられたんだけど、その時から私はご主人様を強く憎むようになった」
「なんで?」
「祖父母も一緒に殺されたんだよ」
ショックだっただろうな。
幼い頃から自分を育ててくれた、自分の親のようなもの。
ましてや三歳だ。
人生の全てと言っても過言ではないだろう。
「そこからは、ご主人様に育てられた。妹の所在はわからない。少なくとも、一緒に育てられることはなかった。他の人もいなくて、二人きりだったんだよ」
そこから九年間。
長いな。
オウスクリータは少し泣いている。
「私は祖父母を殺したご主人様を許してない。でも、九年間育ててくれたのは事実。知ってる?ご主人様、自分は食べないのに、料理すごく上手なんだよ。ここの食堂なんて比べ物にならないくらい」
ここの食堂は大陸でも一二を争うレベルだ。
本当にそうなのか?
まあいい、フィリオが謎に包まれているのはいつものことだ。
「知りたいことがあったら何でも教えてくれて。欲しい服とかがあったら何も言わずにお金出してくれて。殺そうとして襲いかかっても、当然のように返り討ちにした後で優しく抱きしめて『すまなかったな』って。こんなのもう、好きになるしかないじゃん!」
いつの間にか、オウスクリータはギャン泣きしていた。
祖父母を殺されたことによる涙。
九年間育ててくれたことによる涙。
フィリオへの愛の涙。
理由はなんであれ、オウスクリータが泣いている事実。
オウスクリータらしくない。
でも、それでも。
普段被っている仮面を思わず脱ぎ捨ててしまうほど、オウスクリータの中は過去に埋め尽くされているのだろう。
なら、泣かせてあげるべきだ。
私は、そっと抱きしめた。
「嫌いなのに好きって、変かな……?」
「変じゃないよ。変じゃない」
フィリオを探るつもりだったが、全然そんなことをする気は無くなってしまった。
まあいい。
今はそんなことよりオウスクリータの方がよっぽど大事だ。
数分経ち、オウスクリータは泣き止んだ。
「ごめんね、泣いちゃって」
「全然いいよ。色々あったんだね」
「うん。ご主人様、ずるい。どん底まで下げられた後に、何年もかけて溶かすなんてさ」
「でもフィリオ、女っ気ないよね」
「そこなんだよ!ずるい!私はこんなにも惚れてるのにさ……」
「頑張れ。諦めたらダメだよ!」
「うん!」




