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苦爪苦瞳

「うっわぁ……」

思わず声が出てしまった。

いや、初対面でキスて!

天使とはいえやりすぎだろ!


「美味かった?」

「ふぇぇ……?」

あらら、蕩けちゃってるじゃないか。

可愛らしいことで。


「あっその、も、申し訳ございませ」

我に帰って慌てて謝罪しようとするソーレンの口に、ドルチェが指を当てた。

「謝ることじゃないでしょ。君は正直に言えば良いんだよ。おいしかったよ、って」


完全にふたりの世界が出来上がっているな。

誰にも口を挟ませないようなオーラがある。

まあ、口を挟んでまで言うこともないんだけど。


「あー。お盛んのところ悪いが、口挟むぞ」

無粋なことに、フィリオが声を発してしまった。


「今いいところなんだけど、何?フィリオ」

露骨に機嫌を悪くしたドルチェが答える。

「ドルチェ、お前わかってるのか?ことの重大さを」

「なんのこと?」

「とぼけんなよ。お前、さっきのがお前のファーストキスだろうが」


そうだ。

天使の男のファーストキス。

これには途方もないほどの価値がある。


前にも言ったが、天使は男が生まれる確率が百分の一だ

故に、その一挙手一投足全てに価値がある。

特に、初めてには。

初めて手を繋いだ相手、初めてハグをした相手、ファーストキスの相手。

果てには、その純潔。

天使の男の初めてを貰い受けるということは極めて名誉なことであり、これからの人生をその男と共に歩むことは強制される。

それは、逆に言うと、天使が「この人と一生を共に過ごす」と宣言したようなものだ。

養うための金とかそう言ったのは何も問題じゃないだろうが、生涯を共に過ごす相手を初対面で決めてしまうのは問題かもしれない。


「全然大丈夫でしょ。人一人養うなんて余裕だし

「そういうことじゃなくてだな。もう一度聞くぞ。大丈夫なんだな?」

「ああ、大丈夫だ」

「……そうか。わかった。この場は俺がまとめておく。お前らは好きにしろ」

「じゃ、お言葉に甘えて。行くよ、ソーレン」

ひょいとドルチェはソーレンをお姫様抱っこして、食堂を立ち去った。


「親睦会っつっても、主催者があんなことして抜けたんじゃもうなんもやる気起きんよな。各自食事とったら解散にするか」


そこからは早かった。

まずは最初に食べ終わったアリサが抜けた。

次にアロガンツァ、そしてイントゥリーゴ。

私とフィリオ、オウスクリータが残ったが、特に話すこともなく解散となった。




ソーレンは今日、十中八九ドルチェに奪われたことだろう。

それはいいのだが、一つ気になった点がある。

ソーレンの執事のあの目線。

主が天使にみそめられたと言うのだから喜ぶべきはずなのに、あの目はまるで長年の宿敵と相対したかのような、憎しみに塗れた目線だった。

どうしたのだろうか。



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