懸念事項
「この世界は差別に満ちている。
髪色、立場、あらゆる物から。
黒髪差別、貧民差別。
これはこの世界がどうなろうと無くならないだろう。
黒髪への恨みが消え、貧富の差がなくなっても、だ。
王家自ら差別に賛成しているからだ。
現国王スフロンタート・ミナツィオーネは歴史上でも稀に見る差別主義者で、日に日にスラムは兵の派遣によって潰れている。」
全て内容を読んだが、役に立ちそうなのはこの部分と五大貴族の特徴、そして一般常識についての部分だった。
それでも、今の私には十分すぎる情報だ。
タイムリミットがわかったのだから。
タイムリミットは六歳の誕生日。
なぜなら、全ての貴族家は自分の跡取りが六歳になったら場を設けて大陸中に公表するというしきたりがあるからだ。
私は長女だから、おそらく跡取りになる。
そして、公表される時は国王もいるだろう。
国王が差別主義者なら、間違いなく殺される。
私は、それまでに父親を説得し、国王に私を生かすことを嘆願させなければならない。
ただ、もちろんそれまでに私以外の子供ができてはいけない。
血の存続が確定し、私を生かす理由がなくなるからだ。
まとめると、二つの目標ができた。
優先順位が高いのは、子供を作らせないこと。
手段は、今は母親の毒殺くらいしか思い浮かんでいない。
ただ、その方法は毒を探し、母の部屋を探し、警備の目を掻い潜らなければならない。
まだ毒薬も見つかっていないのに、無謀だろうか。
とはいえ、他に何かあるか……。
そうだ。
父親の体を子供が作れない体にすればいいんだ。
いや、無理があるな。
父親には生まれた時しか会ったことがないし、そもそもどこにいるのかわからない。
加えて、国を動かす重要人物なのだから常に警備がいるだろう。
それも、母の部屋より多く。
生まれたての、ましてや長い黒髪では達成する前に殺されてしまう。
それに、もし成功したらもう一つが達成不可能になってしまう。
却下だ。
まあ、具体的な方法はこれから考えるとしよう。
もう一つのやることは、父親を説得し、私を守らせることだ。
国王とはいえど、国を支える公爵家の当主が土下座でもしたら流石に断れないだろう。
タイムリミットは六歳まで。
これを考えるのはひとまず後回しでいい。
母親の毒殺をどうするか。
今考えても答えは出そうにないな。
なら、新しい情報を手に入れるしかない。
私の情報源は、この本と廊下でのメイドの会話くらいだ。
少しの聞き逃しもないようにしなければ。
っほらほら、噂をすればなんとやら、だな。
「旦那様は今日、特に気を張っていましたねえ」
「一大イベントが一週間後にあるのだし、仕方ないわ」
「先輩、それ私知りません。教えてくれないかしら?」
「いいわよ。一週間後に、シグノール商会という商会がラステル公爵領を訪れるそうなの。それで、その紹介に契約を結んでもらいたくて、一週間後の昼にはそのための会談が開かれるそうよ」
「そんな商会、聞いたことないですね。なんで旦那様は重要視していらっしゃるのでしょう?」
「なんでも、それはエルフが運営しているそうよ。そこしか取り扱っていない貴重な品がたくさんあるんですって」
「それは納得です。私たちも、気を引き締めて旦那様をお支えしましょう」
「そうね」
これだ!
エルフというのは、天使と人間のハーフの総称らしい。
天使は寿命が長いことで知られ、多くは二百年ほど生きるらしいが、エルフはそれと人間の平均の百二十五年ほどの時を生きるそうだ。
エルフが運営しているというのなら、母親を一発で殺せ、証拠も残らないなんていう理想の毒薬もあるかも知れない。
私は、どうにかして一週間後の会談に忍び込み、シグノール商会のエルフと接触し、毒薬を手に入れなければならない。
母の部屋への潜入なんて後からどうとでもなる。
まずは一週間後に備えなければ。
この部屋から出る手段は二つ。
窓と、扉だ。
だが、窓から飛び降りなんてしたら死んでしまう。
扉しかないな。
ただ、私はドアノブに手が届かない。
開けるには、他者の手を借りるしかない。
そんな人、いるわけない。
万事休すか……。
いや、いるじゃないか!
食事を運んでくるメイドだ!
黒髪が嫌われているのか、食事を持ってきた後は早々と立ち去っていく。
逃げていく時に空いた扉と壁の間に本を挟み込めば、私は部屋の外に出ることができる。
そして、私の部屋の前には家の地図がある。
なんで知ってるかって?
迷った新人メイドがこの部屋の前で
「地図がある!助かったぁ!」
なんてことを口にしていたからだ。
あのメイドも自分のせいで黒髪を外に出すことになるとは思うまい!
会談はおそらく応接室で行われる。
一週間後が勝負だ。




