低頭傾首の鬼
「お初にお目にかかります、天使様。そして、王太子殿下ならびに貴族家の皆様。早速で申し訳ないのですが、一つ願いを聞いてもらえないでしょうか?」
教室に入るなり跪いて教師は言った。
確かに、私の態度は不敬だったかもしれない。
改めた方が良さそうだ。
「何?内容によるとしか言えないな」
白髪の男が答えた。
「私は平民であります。魔導の才能があったので国王の目に止まり、面倒を見ていただいて今は学園の重鎮にまでなりました。ですが、私は教育を受けておらず、礼儀作法がわかりません。今話している敬語も事前に覚えたものです。これからの学園生活、無理な願いとはわかっているのですが敬語を使わずに接してもよろしいでしょうか!」
一息に言い切ったぞ、こいつ。
肺活量というか記憶力というか……。
すごいな。
この人はカーネ教授。
劣悪な環境の王都スラムに突如と現れた、緑髪の魔導士だ。
この人が点在する王都スラムの内の一つを単独で制圧した化け物のような男。
スラム徹底排斥を理想としているスフロンタート王の目に留まるのも納得だ。
ていうか、この人私と正反対だな。
公爵家に生まれて髪色で迫害された私と、スラムに生まれて髪に宿る魔力を用いて成り上がったこいつ。
どっちが幸せかなんてわからないが、少しは羨ましいと感じるな。
「別に僕はいいと思うんだけど、みんなはどう思う?」
私たちの方を見て白髪の男が言った。
天使が言って断れる奴なんていないだろう。
その予想の通り、誰も反対の声を上げなかった。
「みんなも賛成してるようだし、いいよ」
「ありがとうございます!予定では、今日から授業ですね。ですが、なしにします!皆さんも親睦を深めたいでしょう。大人の私は邪魔でしょうから、退散することにします」
おお、ありがたい。
自己紹介とかもしてないからな。
ってか、しれっと敬語使ってて笑う。
「ただし、お前はダメだ。オウスクリータ」
空気が変わった。
同じ人とは思えない、鬼のような目をしている。
「なんでですかぁ?」
「お前は首席合格でありながら入学を辞退しただろう。ならばさっさと出ていけ」
そうだったのか!?
いや、勘違いだろう。
事実、黒髪の子は制服を着ている。
何を言ってるんだ?
「ちょっと口挟ませてもらうぞ」
彼が口を開いた。
「なんだ?」
「こいつは俺のメイドとしてこの学園に来ている。運営はメイドに好きな服を着せることも許さないのか?」
「メイドなら教室に入ることは許されないはずだ。校則を読んでいないのか?」
「ああ、読んでねーよ。誰が読むか」
いや、読むだろ。
そんなに内容が多いわけでもないし。
「メイドは教室には入れないルールだ。出ろ」
「そんなこと言っていいのか?」
「どういうことだ」
「あんたら研究者がモタモタしてるせいで解けてない未解決問題を七個も解決してくれた俺たちにそんな偉そうな口聞いていいのかっつってんだよ」
確かに、その通りだな。
本来なら国王から賛辞が送られるほどの偉業だ。
だが、そんな情報はない。
彼らを軽視しすぎかもしれない。
そのことに気づいたのか、カーネは黙ってしまった。
「状況がやっとわかったか。なら出て行くのはどっちだ?」
カーネは出て行った。
いや、どうするんだ?この空気。




