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狼牙を研ぐ

「嗅ぎ回っていたなんて、そんな失礼な。私は、王太子殿下が夜中に自分の部屋を抜け出していたので不思議に思っただけですよ」

よく回った、私の頭!

これで疑われはしないはずだ。

「フン、そういうことにしておいてやる」


おっと、バレてそうだな。

まあいい、そういうことにしておいてくれるのだから。


「一体、なんの用でここまで?」

「黒髪に話す気にはなれんな」

うぜえ。

「じゃあ、どうしたら話してくれるのでしょうか?」

「そんなに気になるのか、黒髪」

うぜえな。

「いけないことでしょうか?」

「いや、構わん。今夜は気分がいい、教えてやる」

教えてくれるんなら最初からそうしろよ。


「俺には野望がある」

「どんな野望ですか?」

「その前に、疑問に思ったことはないか?我々人類が盲目的に天使を信仰していることに」

いや、突然信仰し始めたならまだしもちゃんと理由があるからな。

天使が悪魔を止めてくれなければ人類は絶滅していたことだし。

「いえ、思ったことはないです」

「ああ、みんながみんな無いと言う。だが、おかしいだろう。人獄大戦の折でも天使に死傷者は出た。つまり、天使にも限界がある、天使も人間の一種なんだ。それを神格化しているのはこちら側じゃ無いのか」


そんなことは考えたことがなかった。

確かに、聖書に書かれてあるように「天使は絶対の存在である」なら、天使が降臨した時点で戦いは終わったはずだ。

「エルフは人と天使が交わって生まれた種族だが、その全ては天使が気に入った人間との子供だ。人間が天使に求婚したり、天使側が懇願したりするような事例はない。これも天使の神格化の一つの要因だろう」


そうだな。

常識すぎて疑いもしなかったが、まさに目から鱗だ。


「だから、俺は次代の光神と婚約する。天使に対する盲目的信仰の世を終わらせる」


面白いな。

すごく面白い。

だが、一つだけ問題点がある。


「では、私やノーブル家令嬢のような、本来あなたと婚約する人間は邪魔ということになりますか?」

「ああ、そうだな。お前は黒髪だから眼中にないが、場合によってはノーブル家を取り潰す必要性も出てくるだろう」


だからいちいちムカつくんだよ!


まあ、敵対しないのが吉か。


「わかりました。私にも、何か手伝えることがあれば言ってください」

「わかった。その時は馬車馬のように働いてもらうぞ」


まあいい、働いてやろうじゃないか。

それにしても。


「これから、どうなさいますか?」

「あと数刻は本を読み漁る。そのあとは、礼拝堂の塔で朝が来るまで祈る」

「明日ちゃんと動けるのですか?」

「ああ。俺が礼拝を始めて三年目だが、ある日からいくら祈っても体力が減らないようになってな。天使が俺のことを歓迎してるのやもしれぬ」

「それは良かったですね」


そう言い残して、私は自分の部屋に戻った。


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