表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
原罪少女の推理練習曲  作者: 有上透
第二話 期末テスト盗難事件
PR
16/18

2-7 セツカの助言

 その日の夜、わたしは自室のベッドに転がって、姉に電話をかけた。両脚と片手で抱き枕を抱える。

「色々あってね、セツカちゃんに電話した次第です」

 わたしは期末テスト前、一週間に起きた出来事を話した。電話越しに、姉は相槌を打ちながら聞いてくれる。

『それで、フユちゃんはどこまで分かっているの?』

「職員室からUSBを盗んだ犯人が、松来くんということまでは分かってるよ。トリックもね。ただ、動機には納得していない」

 わたしは――見たのだ。職員室からUSBを盗み出した犯人は松来くんで間違いない。野分先生の話から、犯行方法も推理できた。それなのにどこか、パズルのピースが埋まっていないように感じている。

 姉は少し考えて、パズルのピースを見つけたようだった。

『そうなんだ。それじゃあ、フユちゃんが考える、松来くんはUSBを盗んだ動機を教えてくれる?』

「松来くんは、わたしにテストの成績で勝負を申し込んでいる。一本桜でわたしは勝負を断ったけれど、勝利の景品がなくても、彼はわたしに勝ちたかった。だから、テストで点を取るために、テストの問題が入ったUSBを盗んだ」

『その動機の、何が不満なの?』

「一つ目、勝負で勝つためにズルをするという性格が、松来くんと合っていない。今まで松来くんと話していて、彼は勝負事でもカンニングや不正はしない。そう、わたしは感じた。だけどこれは、わたしの印象でしかないから、松来くんの悪い本性が犯行をさせた可能性は否定できない」

 松来くんは、期末テストの順位でわたしに勝ったら、一日だけデートをするつもりだった。彼は、わたしとデートをするために、テストの問題を盗んだのか? でもそれはあり得ない。理由は単純で、USBが盗まれた時点では、まだ勝負の約束をしていないからだ。わたしが、彼との成績勝負を蒸し返したのは、USBが盗まれた後のことである。

「二つ目、テストで点を取るためにUSBを盗んだこと。USBが盗まれたことに野分先生が気づいたら、当然、先生はテストを新しく作り直す。テストの出題をあらかじめ知ることが目的なら、出題が流出したことを先生に知られてはいけないんだよ。松来くんがその可能性に気づかなかったとは思えない」

『なるほどね。フユちゃんが引っかかっていることが分かったよ』

「さすが、お姉ちゃん」

 姉はわたしの一枚も二枚も上手だ。わたしは、自分が姉に敵う未来が想像できない。

『愛する妹のために、ヒントをあげましょうか。えーとね、フユちゃんが話してくれた松来くんの性格の話、それは信じていいよ』

「……勝負に勝つためにズルをするという性格が、松来くんと合っていない。松来くんは勝負事でもカンニングや不正行為はしない。うん。お姉ちゃんが言うなら、信じる」

『それから、友達想い。……うん。だから、松来くんの動機をもう一度よく考えてみて。そうしたら、もう一つの期末テスト盗難事件が見えてくると思うから』

「どういうこと?」

 一瞬、はてなが浮かんで――すぐに消える。

「あ」

 わたしの中で、すべてが繋がって――

 そして何かが、プツンと切れた。

 電話越しで良かったと思う。もし対面なら、セツカはわたしの様子に気づいていただろうから。

『分かったみたいだね』

 わたしは目を瞑って。

「やっぱり、セツカちゃんには敵わないな」抱き枕を両脚で抱えたまま、寝返りを打つ。「ありがとう。その……夏休みは、いつ頃に帰ってくるの?」

『うん、夏祭りの前日に帰るよ。お盆のちょっと前くらい』

「楽しみにしてる。それじゃあ、またね」

『また会おうね。バイバイ』

 通話を切って、スマホをベッドに放り出す。

 わたしが報復する相手は、松来くんだけじゃなかった。いや、報復でさえないのかもしれない。ただの自己満足。それでもわたしは、これからしようとしていることを止められない。

 でも――

 わたしは少し迷って――

 後は、成績勝負の結果次第。


 翌日、教室を出た廊下の掲示板に、二年生のテストの成績順位が張り出されていた。

 

 一位 桜町春

 二位 柊木冬

 三位 松来秀太朗

 

 勝ってしまった――最後の砦が、崩れ去る。

 わたしの隣で、ハルは小さなガッツポーズをしていた。小さな声で「良し」と呟いたのが聞こえる。見えないところで、叫びたくなるほど努力しているはずなのに、周りの目を気にして、大袈裟に喜ばないところがハルらしい。

「ねえ、ハル。今回も安心して、勉強できた?」

「まあ、うん。頑張った結果が出て良かった」

 人だかりの先に、掲示板に背を向ける松来くんの姿を、わたしは見つけた。その場を去ろうとする彼を追いかける。人の気配がない廊下の角で、松来くんは壁にこぶしを打ちつけていた。

「わたしの勝ちだね、松来くん。当然、勝負の件は覚えてるよね」

 松来くんは、壁に打ちつけた手とわたしの顔を交互に見て、状況を悟ったらしい。真っ青な顔で、頭を抱える。

「あんなふうに啖呵を切っておいて、結局いつも通りでした。本当に……自信はあったんです。でもダメだった」

「今回のテスト、松来くんは本気だった? 本当に?」

「いつだって本気です。言い訳はしない」

「まあ、どっちでもいいけどね。約束さえ守ってもらえれば」

 わたしは振り返って、松来くんに言った。

「終業式の後、一本桜に来てほしい。そこで話をしよう」


 終業式の朝、わたしは用意していた手紙を靴箱に投函した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ