4・はじめての魔法
その日の夕暮れ時――
メメリィと一緒に図書室へ行き、魔国について勉強していると、扉が勢いよく開き放たれた。
「我が愛しのエリー!!!」
「扉壊れるよ!」
「これを見ておくれエリー」
魔王が近くに来る。そして、パチンと指を鳴らすと、何も無い所から、ポンッと白い杖が出てくる。
「えっ⋯もう準備してくれたの?早過ぎない?」
「エリーの為ならば当たり前だ」
白く輝く杖。頭の方には大きくて丸い魔石が付いていて、さらにその中に、色付きの魔石がいくつか浮かんでいる。
「わあ、すごく綺麗!」
「そうだろう?君に相応しい杖だ」
「めっちゃ高そう」
「エリーの為ならば、金も命も何も惜しまん」
「惜しんで下さい」
手に持たせてもらうと、とても馴染む。同時に、身体に何かが巡っている感覚がする。――これが、魔力かな。
「いいか?エリー。まず、杖を立てて、両手で持つんだ」
「はい⋯こうかな?」
「ああ。次に、杖をほんの少し傾けて」
「はい」
「そして魔石を見上げてごらん。そう、集中して。じっと見詰めて⋯」
「はい」
何が起きるんだろう――と、はやる鼓動をおさえ、じっと魔石に集中する。
「⋯⋯あああ!そう!なんて美しい角度なんだ!!その澄んだ青き湖の如く輝く瞳に、魔石が映り込んでまるで宝石だ!いいや、宝石なんてもはや道端の石ころ――」
「期待させるな!!」
恥ずかしさに顔が熱くなる。ぐぎぎ⋯⋯と威嚇すると、そんな顔も可愛らしい!!と言われてしまう。
すると、メメリィが後ろから耳打ちしてくる。メメリィの言う通りに、体内の魔力を杖に集めるように集中し――
「⋯⋯スリープバブル」
――ぽわん。
遅れて、ふわりと大きいシャボン玉が魔王に向かう。
「すごい!すごいよメメリィ!出来たよ!!」
「ええ、素晴らしいです、エリー様!」
バタン。と見事に綺麗な音を立てて、魔王が倒れた。
「⋯⋯えっ!!ちょ、デモくん!?」
「これは睡眠の魔法です」
にっこり笑顔のメメリィ。仰向けに倒れた魔王に駆け寄ると、とても気持ち良さそうに寝落ちている。
「どどどどうしよう、思い切り後頭部からいったよね⋯」
「うふふ、このような事で怪我をしていたら、王ではありませんよ。ご安心ください、エリー様」
それでも心配で、魔王の顔を覗き込む。するとタイミング良く紅の瞳が開かれた。
「ああ⋯⋯ここは魔国だと言うのに、女神が⋯⋯」
「大丈夫?デモくん、ごめんね」
「エリーーィィッ!!」
「⋯⋯ゴフ!!」
もはや追突ハグは慣れつつある。勢いはあるが全く痛くない。
「そんな顔をさせてしまうなんて!だが!心配して貰えるなら毎日かけて欲しい!!」
「モゴモゴモゴ⋯⋯」
「さすが魔王様でいらっしゃいますね、わざとかかった上に、そんなに早く目覚めるとは」
「⋯⋯ブホッ、え?わざとかかったの?」
顔だけ離して魔王を見上げる。
「エリーの初めては全て我の物だ」
「怖い怖い怖い⋯!」
「まあ、意味深ですね、うふふ」
その時――
「魔王陛下!!やっと見つけましたよ!!」
バタバタと側近のアスタさんが図書室に入って来た。
その姿は、まさに代表的な悪魔そのままである。
「アスタ、見てくれ!!やはりこの杖で正解だったぞ!」
「ああもう、図書室で騒がないで下さい!あなたはエリー様の事になると本当に腑抜けになる⋯」
「アスタさん、すみません⋯」
配慮が足りなかった事を反省すると、アスタさんはフッ、と美しい笑みを向けてくれる。
「エリー様が謝る必要など何一つございません。そちらの杖、とても良くお似合いです。あなたの美しさを存分に引き立てております」
「⋯⋯アッ、アリガトウゴザイマス⋯」
「エリー!照れるな!この男を見たら駄目だ!エリーの美しい目が腐ってし――」
「はいはい、行きますよ。仕事して下さい」
ズルズルと魔王を引きずって図書室を出ていく。
「エリーーーイィィィ⋯ィィ⋯ィ⋯⋯」
魔王の声がまるでF-1のように遠ざかっていった。
――後で聞いたら、摩擦で少し焦げたらしい。




