3・フォービドゥン・フルーツ・オブ・エターナル・アビス
「⋯⋯ん?」
目が覚めると、見慣れない天井だった。
――いや、これ二回やったわ。
恐る恐る隣に視線を動かす。
「あ、良かった。今日はいないや」
昨日は起きた後、魔王城を案内してもらった。
私が行ってもいい場所はそれ程多くはないが、あまりにも大きいお城のため、移動に疲れて早めに休んだのだった。
コンコン、と寝室の扉が叩かれる。
「どうぞ!!」
「失礼いたします。おはようございます、エリー様」
「おはよう、メメリィ」
メメリィは魔王が付けてくれた侍女兼護衛。
フワフワの髪の毛に羊の角がある。大らかな性格で、すぐに仲良くなった。
「さぁ、ご準備しましょうね」
「うん、ありがとう!」
顔を洗ってから鏡台の前に座り、己の姿をまじまじと見る。
大きな薄青色の瞳。鼻と口は小さく、腰まである白金の髪は絹のよう。紛うことなき美少女だ。
「アートドールみたいだなぁ」
「あーとどぉる⋯⋯ですか?」
「ああ、うん、前の世界にあった人形と似てるなって」
「うふふ、エリー様と似ているお人形があったのですね」
「⋯⋯まあ、現に今、人形みたいなものだし」
“創った身体”となれば、人形だろう。
見た目も人形のような人間で、種族としては魔族⋯⋯うん、ややこしい。
メメリィに手伝って貰いながら着替えを済まし、朝食室へ向かう。
そこにはすでに魔王が待っていた。
「おはようエリー。今日も君は、まるで闇の深淵に咲く一輪の白薔薇のように美しい」
「おはようデモくん。闇の深淵見た事あるの?」
「エリーが望むのならば、今すぐに作ろう」
「遠慮します」
魔国のご飯は、人間が食べる物とそれ程変わらない。
「デモくん、このフルーツなに?」
「ああ、それは、フォービドゥン・フルーツ・オブ・エターナル・アビスだ」
「永遠の深淵の禁断の果実!!」
「食べると舌が赤くなる」
「それはちょっと楽しいけど!!」
「エリー様、魔国産の林檎ですよ」
メメリィが後ろから教えてくれる。
「えっ?中身真っ赤だよ?」
「はい。魔国の土地と空気は、とても魔力が多いので変異するのです」
「すごいね、不思議」
綺麗にカットされた林檎を一口食べてみる。
人間界の林檎よりも、とても甘く瑞々しい。
「おいしい!!⋯⋯なんだか身体があったかい⋯⋯?」
「フォービドゥン・フルーツ・オブ・――」
「魔国産の林檎」
「魔国産の林檎に含まれる魔力のせいだな。人間界で言うポーションのようなものだ」
「へぇ、人間界に売ったら売れそうだね」
「うむ。たまに人間の商人が来て、取り引きしているぞ」
「そうなんだ。言っておいてなんだけど、人間が食べても平気なんだね」
「一口以上は致死量だ」
「⋯⋯えっ」
――今二口目なんですけど?私は大丈夫だよね?
「⋯⋯ふっ。安心しろエリー。我が創りし肉体は完璧であるからな。エリーは1日1.58個までなら大丈夫だ」
「細かいけどありがとう!!」
人間の致死量は雑だが、私には細かい。複雑だけど――自分の為に決められた数字が、ほんの少し嬉しい。
⋯⋯ん?嬉しい?
いや、絆されるな。気持ち悪い、だ。
魔王が大事なのはこの肉体で、中身はどうでも良いんだから。
「デモくん、朝食後は執務室でお仕事だよね?」
「ああ、そうだな。仕事など捨てて、ずっとエリーを見ていたいのに」
「駄目だよ王でしょ」
うーん⋯⋯と少し逡巡した後に、一つ提案をする。
「ねぇデモくん、私にも魔法って使えるかな?」
「ふむ。使えるようには創ってある。魔力量も平均よりはあるが、センスは別だな」
「是非、試してみたいです!!」
「そうか。それならエリーに似合いそうな、美しくそれでいて使いやすい杖を用意しておこう」
「ありがとうデモくん!!」
せっかく魔法のある世界に来たのだ。練習してみる他ないだろう。
ご機嫌になった私は危うく――フォービドゥン・フルーツ・オブ・エターナル・アビス――魔国産の林檎を1.58個以上食べてしまう所で、魔王とメメリィに止められたのである。
⋯⋯あと一口で限界だったらしい。




