2・「我が名は(長い)」
「⋯⋯ん?」
目が覚めると、見慣れない天井だった。
――いや、見たな。あぁ、夢じゃなかったんだ。
(召喚って、魔王って⋯⋯。と言うか、骨格から創ったとか気持ち悪い事言ってたな)
くるりと寝返りをうつ――と、そこには“あの男”――もとい魔王がスヤスヤと寝息を立てている。
「ぎゃぁぁあ!!」
「んなっ!!なんだ敵襲か!?」
ガバリと起き上がる魔王。
窓の外でバサバサと鳥が飛び立った。
「待って待って!なんで一緒に寝てんの!!」
「⋯⋯む、エリーおはよう。大丈夫か」
「なんで一緒に寝てんの!?」
「今日も美しいな、我のエリー」
「ねえ聞いてる?」
「突然気を失ったのだ、心配した」
(あ、だめだ。聞いてない)
魔王は放置して、改めて自分の身体を見る。
手、胴体、足。普通の人間のように見える。
ふと何かが足りない気がして、心臓部分に手を当てた。
――鼓動が無い。
目を瞠り、呆然としてしまう。
その様子を見ていた魔王が、静かに口を開いた。
「心臓は魔石を加工している。鼓動はないが、血液は循環している」
「そう⋯⋯なんですね⋯⋯」
何とも言えない気持ちになる。自分は確かにここにいるのに、人間ではない。
心にぽっかりと穴が空いたようだ。
「これは、生きてるの⋯⋯?」
「⋯⋯ああっ!!エリー!!」
「⋯⋯ゴフッ!」
魔王が突然飛び付いてくる。そのまま頭に頬をグリグリされる。
「そんな寂しそうな顔をしないでくれ!!我が必ず幸せにするからな⋯⋯!!」
「むぐぐぐ⋯⋯!!」
「我が命はエリーの為にある」
「急に重い!!」
こうなったら腹を括るしかない。
一つ小さく息を吐いてから、口を開いた。
「⋯⋯魔王様、なんですよね?」
「そんな他人行儀はやめてくれエリー!!」
「じゃぁ魔王」
「なんだ」
「スンッてなるのやめて?」
腕から離れ、向き合うかたちで正座する。
軽く咳払いをし、真っ直ぐに紅の瞳を見る。
「では魔王、あなたのお名前を教えて下さい」
「我の名か。よし、良いだろう」
魔王は目を伏せる。
静寂が落ちて、低く重い声が響く。
「この混沌に舞い降りし魔族の頂点にして至宝――」
魔王は、すぅーっと大きく息を吸って、目を見開いた。
「我が名は!!デモニウス・アビス・インフェルノ・ゼロ・エターナル・カオス・ディザスター・オブ・ジ・エンド・オーバーロード・グランデュール・デスティニー・ドミネイター・ノクス・レクイエム・アルティメット・ルシフェリア・ヴォイド・マジェスティ―!!」
「長い!!そして自分でマジェスティ言うな!!」
「デモニウスだ」
「最初からそれでいい!!」
寝起きから凄く疲れる。額に手を当て、深いため息をつく。
そしてここまで来ると、どうしても聞きたいことがある。
「⋯⋯あの、一つ聞いてもいいですか?」
「うむ」
「14歳ですか?」
「立派な大人だ」
「ですよねー!!」
そのうち、封印されし右手が疼くとか言い出しそうだ。
思わずもう一度ため息が漏れる。――だが、先程までの寂しさは軽くなり、力が抜けた。
「名前長すぎですよ⋯⋯愛称で呼んでもいいですか?」
「何っ!?エリーが決めてくれるのか!?」
「デモくん!!」
「デモしか覚えてないだけだろう」
眉根を寄せ、かっこよくない⋯⋯とブツブツ拗ねる魔王。なんだか可笑しくて、思わず笑ってしまう。
「⋯⋯ふふっ」
「⋯⋯!!かっこよくはないが、エリーが笑ってくれるのならデモくんでもよい!!」
「デモくんでも!!!」
ダジャレにもうひと笑いする。
そんな私を見て、魔王は優しげに目を細め微笑んでいる。
なんだか、この人がいるならやって行けそうかも――と、そう思ってしまった。
一緒に寝るのはご遠慮願うが。




