14・優しい怪物
「魔王陛下。助けて下さり、ありがとうございます。お陰様で随分と回復しました」
青年はフラウシスに支えられながら寝台を降り、臣下の礼をとる。
「顔を上げよ。礼ならこの二人に言うといい」
魔王はそう告げると、私とエリーを見た。
「えっ、い、いえ!!私は何もしてませんので⋯⋯!!」
「当然の事をしたまでです。お気なさらないで下さい」
青年は一度目を瞠り、困ったように微笑んだ。
「――して、お前、名は?」
「申し遅れました。私はルシアンと申します。元はラヴェール国の公爵家におりましたが⋯⋯」
「ああ。発症して除籍されたか」
青年――ルシアンは、眉根を寄せ目を伏せる。
「はい。先々代の手記を見て、こちらに参った次第です」
「わかった。とりあえず今は、回復に専念する事だ」
「っ、よ、よろしいのですか⋯⋯!?」
「ああ。フラウシスが良いと言うまで、ここで大人しくしていろ」
「⋯⋯っ、ありがとうございます」
深く頭を下げたルシアンの声は震えていた。
そして、あまり長居したら休めないからと研究室を後にする。
「ねぇデモくん、かっこよかったよ!!」
執務室へと帰る途中、素直な気持ちを伝える。
魔王は勢い良くこちらを見る。その頬は僅かに薄紅色に染まっていた。
「⋯⋯ほ、ほんとか!?」
「うん。回復したら、どうするの?」
「ふむ。あいつがどうしたいかだが⋯⋯人間界には戻れんだろうな」
「そしたら、住む所とか仕事、必要だよね」
「そうだな。いくつか見繕っておく」
それが当たり前だと言わんばかりに言い切る魔王に、思わず言葉が口をつく。
「⋯⋯デモくん、優しいね」
「あいつの曽祖父を知っているからな。まあ、変な事をしたら消すだけだ」
「そう言う所は魔王だね!!」
「魔王だが」
執務室につくと、魔王と別れ、私とメメリィは日課の魔法の練習へと向かう。
今日は良い気分で練習できそうだ。
青々と澄み渡る空を見上げ、気合いを入れたのだった。
***
「――おや。陛下。また来た」
絵画の扉が開くと、本を見ていたフラウシスが顔を向けた。デモニウスは、執務室前でエリー達を見送ってすぐ、研究室に引き返してきたのだ。
扉が閉まった事を確認してから、重い唇を開く。
「フラウシス、エリーの事なのだが」
「うん、なに」
デモニウスは、エリーが聖魔法を使った事、自分が調べても異常は無かった事を告げた。
するとフラウシスは、手で顎を掴み唸る。
「う〜ん。融合出来ていない事は、考えられない」
「では、なぜだ」
「見てみないとわからない。けど、何かあるとすれば、魂のほう。元々の魂に、聖魔法の適性があったとか」
「しかし、エリーが生きた世界には魔法がなかったぞ。そんな事有り得るのか?」
フラウシスに相談する前に、自分で解決したかった。
だが、いくら調べても問題はないのだ。
(――何事もなく聖魔法が使えるとは、やはり思えん)
「わからない。とりあえず、調べよう」
「ああ。⋯⋯お前に頼むのも嫌なのだがな」
「酷い言いよう」
「当たり前だ。ここに閉じ込めた理由を忘れたのか」
ここはフラウシス専用の研究棟だ。そして、棟全体に強い結界を張っている。
外からの侵入を防ぐためではない。
先程、エリーはフラウシスに好意的だったが、それは、フラウシスの上辺だけを見たからだ。
「⋯⋯どれだっけ。その辺の死体?」
「人間界で人間の死体を持ってきたからだ!!」
「死体、素材」
「倫理を学べ」
確かに、人間界よりは倫理は緩い。だが、フラウシスは欠落し過ぎている。
「殺してはいない。転がってた」
「これだから、我の大事なエリーを近付けたくないのだ⋯⋯だいたい、国家間の問題になる事だぞ」
「もうしない」
「墓荒らしは?」
「⋯⋯しない」
「その間はなんだ!!」
とにかく、こんな変人でも腕は確かだ。世界一と言ってもいい程に。
(早く、原因を見付けねば⋯⋯)
焦りと不安を抑えるように、強く手を握った。




