12・湯気の向こう
しばらく空を進み城に着き、窓から直接、私室へ送り届けられた。
魔王は、部屋でメメリィを待つように、と言い残し、文句を言う隙もなく何処かへ行ってしまった。
手持ち無沙汰になり、ソファで本をひらく事にする。
――数刻経ち、ノックと共にメメリィが入って来た。
「お傍を離れてしまい、申し訳ございません」
メイド服のメメリィに戻っていた。
「大丈夫だよ!それより、さっきの人は大丈夫?」
「ええ、少々時間はかかるでしょうが、命に別状はありません」
ホッと、胸をなでおろす。
「メメリィ、半魔⋯⋯?って言ってたよね?」
「はい。言葉の通り、半分人間です。⋯⋯たまにいるのです。数はかなり少ないですが、魔国外にも魔族は存在しますから⋯⋯」
メメリィは、新しい紅茶を淹れてくれる。
華やかな香りに、心が落ち着いていくようだ。
そんな私を見て、一度頬を緩めた後――眉根を寄せ、ぽつりと言葉が落とされた。
「――ただ、あれは」
「メメリィ?」
「⋯⋯あれは、呪いの類いですね」
驚きに息を飲む。返事はすぐに出来なかった。
「呪い!?呪いで魔族になるの!?」
「あの呪いは特別でしょうね⋯⋯この後、魔王様からお話があると思いますよ」
「そんな⋯⋯」
そんな怖い呪いがあるのか――僅かに肩が強ばってしまう。
それに⋯⋯何となく、同じ存在のように感じているのかも知れない。
何か、自分にも出来れば良いのだが――
その時、ノックの音が響き、思考から引き戻される。
メメリィが扉を開けると、魔王が入ってきた。
「デモくん⋯⋯あの人大丈夫だったの?」
「ああ、大丈夫だ。落ち着いたようだ」
「良かった⋯⋯」
魔王が私の隣に腰を掛けると、メメリィがすぐに紅茶を出す。
それを一度口に運んでから、こちらを見詰め問う。
「エリー、吸血種は知っているか?」
「吸血種⋯⋯って、吸血鬼って事?」
「そう呼ぶ地域もあったな」
「⋯⋯と、言っても前の世界の知識しか無いし、空想の存在だったよ」
ふむ⋯⋯と、呟いてから、魔王はゆっくりと続ける。
「あれは、その血筋そのものに呪いが掛かっている。⋯⋯長男に産まれた者は、成人してから数年のうちに、吸血種へと変異する呪いだ」
「⋯⋯それは、いったい誰が?」
「魔女だな」
「魔女!?魔女、いるんだ⋯⋯」
吸血種に魔女。今日は驚くことばかりだ。
「うむ。まあ、簡単に言えば⋯⋯魔国に入らず、独自で暮らしている半魔族だな」
「なんだかややこしいね⋯⋯」
突然の情報過多に、思わず難しい顔になってしまう。
それを察したのか、魔王は私の頭をひと撫でして微笑み、小さく息を吐いた。
「あの家の昔の当主が、魔女の怒りを買ったのだ――確か、先々代の長男もここに来たのだったか。今はもう死んでしまったがな」
「⋯⋯そう、だったんだ。それで呪い⋯⋯」
――言葉がでない。
本人は何もしていないのに、突然人間でなくなるなんて。
俯き、カップの水面を見る。
湯気の向こうに浮かぶのは、青年の蹲った姿。
着ているローブも、汚れてボロボロだった。
ここに来るまで、辛かっただろう――
「――エリー」
静かに名を呼ばれ、顔を上げる。
その紅の瞳は、優しく細められていた。
「⋯⋯気になるなら、行くか?」
「えっ、いいの?」
「ああ。むしろちょうど良い。エリーに紹介したい奴も居るのだ」
「わかった!行きます!」
そう答えて、お互い微笑み合う――が、私はある事を思い出した。
「そう言えば、このネックレス⋯⋯デモくん呼べるんだね」
「ふ。呼ばれなくても行けるぞ」
「うん!そんな予感はしてたよね!!!!」
「ちなみに、一度着けたら外れない――」
「は!?!?!?」
「――ようにしたかったのだが、アスタに止められた」
「アスタ様!!」
後でお礼を言わなくては、と心に強く思う。
そうして三人で、青年のいる部屋へと向かった。




