11・半分の存在
「エリー様、こちらへ座りましょう」
「うん、ありがとう」
いくつかお店を周り、屋台で飲み物を買って広場のベンチで一息つく。
中央には噴水があり、小さい魔鳥達が水浴びをしている。
「ここの広場いいね。風が気持ちいい〜」
「もうすぐ夕方なので、人通りも減ってきましたね」
もうそんな時間か――と、残念な気持ちになる。
それほど今日は楽しかった。
心に燻っていた不安も、忘れられていた。
「メメリィ、今日はありがとう!!⋯⋯また一緒にお出掛けしてくれる⋯⋯?」
「もちろん!!いつでも喜んで!!」
空を仰ぐと、夕暮れに微かにまたたく星。
静かな満足感が胸を満たしていた。
その時――ドサドサ、と何かが落ちる音がした。
音の方を見ると、少し離れた所で黒いローブの魔族が地面に蹲っていた。
「!!」
反射的に立ち上がり、そちらへ走り寄る。
「エリー様!!」
メメリィが追ってくるのを背中で感じた。
蹲っている魔族の前に着き、屈む。
フードを被り俯いているため、顔が見えない。
ただ、あまりにも呼吸が荒い。
「大丈夫ですか!?」
「⋯⋯ぐっ⋯⋯す、すみませんっ⋯⋯」
ゆっくりと顔が上げられ、視線が絡む。
銀髪で碧眼の青年――顔は青白く、酷く具合が悪そうだ。
「エリー様!!下がってください!!」
気付けば、メメリィの後ろに庇われていた。
「っ、メメリィ、この人具合が悪そうだよ⋯⋯!!」
返事は無かった。
青年の荒い呼吸だけが響く。
「⋯⋯人間⋯⋯いえ、半魔ですか」
メメリィの低い声が、沈黙に重く落ちる。
青年の肩が僅かに震えた。
「⋯⋯っえ、ええ⋯⋯。そう、です」
「そんな状態でどこへ?」
何が何だかわからない――が、メメリィが強い殺気を放っている事だけは、ありありとわかった。
「⋯⋯魔王城です。どうか、助けて頂きたく、っ⋯⋯」
青年の頬を、ひとすじの汗が伝う。
それほど辛いのに、言葉は丁寧で、暴れ出す様子もない。
少し間をおき、メメリィは殺気を解く。
そして、こちらを振り向き、耳元で囁いた。
「エリー様、これを保護します」
「っ、う、うん。突然走ってごめんね⋯⋯ありがとうメメリィ」
⋯⋯私は、魔王が創った物。
だから、私に何かあれば、メメリィが責められてしまうかもしれない。
軽率な行動は慎むべきだったと、内省する。
「大丈夫ですよ、エリー様。気にしないで下さいね」
「今度から気を付ける。ありがとう」
メメリィは優しい笑みで首肯した。
それからまた、視線を青年に向ける。
「あなた、立てますか?私達の馬車で魔王城へお連れします」
「⋯⋯っ!!あ、ありがとうございます⋯⋯!!」
青年は涙ぐみ、声を震わせ頭を下げる。
その美しい所作に、一瞬目を奪われた。
メメリィは小さく息を吐いた後、私へと向き直る。
「さて、エリー様。そのネックレスの薔薇に、軽く魔力を流してみて下さい」
「⋯⋯えっ?これに?⋯⋯うん、わかった」
片手で薔薇の魔石を握り、目を瞑り集中する。
――一拍おいて、ふわり、と周囲の風が揺れた。
次の瞬間、後ろから優しく抱き寄せられる。
嗅ぎ慣れた香水のかおりに、驚きよりも先に安堵した。
目を開け軽く振り向くと、そこには変装をした魔王がいた。
思わず目を瞠る。
「デモくん⋯⋯!?その格好⋯⋯髪の毛短いし、色が⋯⋯⋯!」
「王子様風だろう。ちなみにこの髪色はエリーとお揃いだ」
「⋯⋯⋯⋯」
ポンポンと、私の頭を撫でた後、メメリィと青年を見やる。
青年は驚いていたが、すぐに顔を顰め、苦しそうに唸る。
「⋯⋯なるほど。理解した。メメリィ、この男を頼むぞ」
「畏まりました。到着次第、医務室へ運びます」
一言二言会話をした後、魔王は私を抱き上げた。
「っ、うわ!!びっくりした⋯⋯ちょっと、こんな所でなに⋯⋯!」
「エリー、しっかり掴まっててくれ」
「⋯⋯えっ」
「舌、噛むぞ?」
黒薔薇が舞うほどの、無駄に美しい笑顔を向けられる。
嫌な予感がした。
――それはすぐに当たる。
魔王はそのまま飛んだ。空を。
その高さとスピードに、思わず叫びそうになる。
そのかわりに、思い切り魔王の首もとに抱きついた。
「ふは、エリー。そんなに強く抱き締めるほど寂しかったのか⋯⋯もう大丈夫だ。離れないからな」
――違う!!
帰ったら絶対文句言ってやる!!
涙目になりながら、口の中だけで絶叫したのだった。




