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法と政治の無知な批判者に告ぐ  作者: i/o


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二十五言目 戦前シリーズ「言論、出版、集会、結社臨時取締法」

s 今回は爆発物取締罰則とは違ってもう効力はない法律ですよね。


k あぁ、GHQの人権指令に基づき「ポツダム宣言ノ受諾ニ伴ヒ発スル命令ニ関スル件ニ基ク国防保安法廃止等ノ件」が施行され無力化した。当時、治安維持法で結社は取り締まれたがそれでも治安維持法に違反しなければ結社できたらしく(建前なのは言うまでもないが)その対処を行うためにこの法律が施行された。


付則だけ抜いて解説するよ。


「言論、出版、集會、結社等臨時取締法

第一條 本法ハ戰時ニ際シ言論、出版、集會、結社等ノ取締ヲ適正ナラシメ以テ安寧秩序ヲ保持スルコトヲ目的トス

第二條 政事ニ關スル結社ヲ組織セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ發起人ニ於テ行政官廳ノ許可ヲ受クベシ

第三條 政事ニ關シ集會ヲ開カントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ發起人ニ於テ行政官廳ノ許可ヲ受クベシ但シ法令ヲ以テ組織シタル議會ノ議員候補者タルベキ者ヲ銓衡スル爲ノ集會及選擧運動ノ爲ニスル集會竝ニ公衆ヲ會同セザル集會ハ命令ノ定ムル所ニ依リ發起人ニ於テ行政官廳ニ屆出ヅルヲ以テ足ル

第四條 公事ニ關スル結社又ハ集會ニシテ政事ニ關セザルモノト雖モ必要アル場合ニ於テハ命令ヲ以テ前二條ノ規定ニ依ラシムルコトヲ得

第五條 屋外ニ於テ公衆ヲ會同シ又ハ多衆運動セントスルトキハ命令ノ定ムル所ニ依リ發起人ニ於テ行政官廳ノ許可ヲ受クベシ但シ命令ヲ以テ定メタル場合ハ此ノ限ニ在ラズ

第六條 法令ヲ以テ組織シタル議會ノ議員議事準備ノ爲相團結スルモノニ付テハ第二條ノ規定ヲ、議事準備ノ爲相會同スルモノニ付テハ第三條ノ規定ヲ適用セズ

第七條 新聞紙法ニ依ル出版物ヲ發行セントスル者ハ命令ノ定ムル所ニ依リ行政官廳ノ許可ヲ受クベシ

第八條 行政官廳必要アリト認ムルトキハ第二條乃至第五條若ハ前條ノ規定ニ依ル許可ヲ取消シ又ハ第三條若ハ第四條ノ規定ニ依リ屆出デタル集會ノ禁止ヲ命ズルコトヲ得

第九條 出版物ノ發賣及頒布ノ禁止アリタル場合ニ於テ行政官廳必要アリト認ムルトキハ當該題號ノ出版物ノ以後ノ發行ヲ停止シ又ハ同一人若ハ同一社ノ發行ニ係ル他ノ出版物ノ發行ヲ停止スルコトヲ得

第十條 第七條ノ規定又ハ前條ノ規定ニ依ル停止ノ命令ニ違反シテ發賣又ハ頒布スルノ目的ヲ以テ印刷シタル出版物ハ行政官廳ニ於テ之ヲ差押フルコトヲ得

第十一條 第二條ノ規定(第四條ノ規定ニ基キ依ラシメタル場合ヲ含ム)ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス

第十二條 第三條ノ規定(第四條ノ規定ニ基キ依ラシメタル場合ヲ含ム)又ハ第五條ノ規定ニ違反シタル者ハ六月以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス

第十三條 第七條ノ規定ニ違反シタル者ハ一年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス

第十四條 第九條ノ規定ニ依ル停止ノ命令アリタル出版物ヲ發行シタル者ハ六月以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス

第十五條 第十條ノ規定ニ依ル差押處分ノ執行ヲ妨害シタル者ハ六月以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ五百圓以下ノ罰金ニ處ス

第十六條 前三條ノ罪ニハ刑法併合罪ノ規定ヲ適用セズ

第十七條 時局ニ關シ造言飛語ヲ爲シタル者ハ二年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ二千圓以下ノ罰金ニ處ス

第十八條 時局ニ關シ人心ヲ惑亂スベキ事項ヲ流布シタル者ハ一年以下ノ懲役若ハ禁錮又ハ千圓以下ノ罰金ニ處ス」


s 昭和十六年に改正された治安維持法よりかは短いですね。


k 治安警察法の特別法だからね。それに加えて戦時特別法でもあるから一種の例外規定的な感覚でもある。だから民法や刑法のような重厚感はないのが普通だったりする。

 ここからは一項目ずつ解説していく。

 第一条は目的が書いてある。前文が書かれている法律は結構少ないから第一条に目的を集約していたり目標を掲げていたりもする。その中でこの法律は「この法律は戦時に際して言論、出版、集会、結社等の取締を適正にするため、これをもって安寧秩序を保持することを目的とする」となっている。


s 安寧秩序と言うのは戦時下で政府の都合のいいことでも取り締まるつもりだったのですかね。


k プロパガンダって思っている以上に繊細だから言論等は政府としては極力制御下に置きたかったというのが主だろう。

 第二条は政治に関する結社を組織するときは発起人が行政官庁に許可を求めることを義務づけている。

 第三条は上記と同じで集会を開く際は許可が必要だが、例外として法令によって組織された議会の議員候補者を選考するための集会選挙運動のための集会、公衆を集めない集会は届け出だけで十分と定められている。


s 第三条は簡単に言えば衆議院選挙の際の集会は届け出で十分と言った感じですか。あるいは公園で集会をせず公民館内でチケットを持った人だけが入れる集会みたいなのも届け出だけで十分と。それでも届け出を以てして集会の様子は把握したかったのですね。


k その通りだ。続けて第四条は公事の結社、集会は基本届け出もいらないけど必要があれば二条と三条の規定を適用することができるようになっている。宗教儀式、それが神道であったとしても必要があれば許可を求めたり届け出を求めたりすることがあった。

 第五条は屋外で多くの人を集めて集会したり大衆運動をする際は許可が求められていた。ただし、命令を以てして行われるものは適用外。プロパガンダで一々こんなことをしていたら時間がもったいなかったからと言うのが大きい。

 第六条は法令の定める政治結社の議会の議員議事準備は適用されなかった。法令が定めるものって大政翼賛会ぐらいしかなかったのが一番大きいけど。

 第七条は新聞紙法の定める出版物を発行しようとする際は許可が必要だった。新聞紙法でも結構な規制を受けるのだろうから、当時の新聞がいかに民衆に与える影響が大きいか政府は理解していたのだろう。

 第八条は許可や届け出を取り消して禁止できる規定がある。一旦許可した結社が反政府の動きをするのを封じる策が講じられていた。

 第九条は出版社が出版禁止命令を喰らった場合、その後も発行を禁止させ続けることのできる旨が示されている。一度反政府的なことをいえば二度と出版させるつもりはなかったのだろう。

 第十条は出版禁止命令を喰らったのに販売等をした場合、行政官庁が接収できることが書かれてある。民衆への影響を最小限に抑える意図が見受けられる。

 ここまでは規制や禁止事項について語ったね。


s 治安維持法でもだいぶ取り締まられていたのにここまで封じられるともはや何がいいのか分からないですね。


k その時代、政府に都合の悪いこと(例えば戦争で家計が圧迫しているから戦争をとめてくれ)をいえば密告されて特高に拷問を受けて治安維持法違反で処罰される恐れがあったし、憲兵に見つかってものすごく殴られるみたいなことがあり得た時代だったから政府反対なんて論外で、赤紙を貰っていやがるそぶりをするのですら反政府運動と睨まれる可能性があった。みんながみんなそうだったわけではないにしても酷いよね。多分僕がこんなことをその時に言ったら拷問で死んでいてもおかしくないよ。


s 日本国憲法の保障する言論、表現の自由がものすごくありがたく感じますね。


k ここからはその罰則について解説しよう。第十一条は第二条や四条の特例(政治結社の許可)に違反した場合は、「一年以下の懲役もしくは禁錮又は千円以下の罰金」だ。


s 当時の千円はどのくらいの価値でしょうか。


k 当時の罰金刑を指標に換算すると最低でも五十万円は超えてくる。洒落にならない金額だから結構厳罰だが、治安維持法に罰金の規定がほとんどなかったことを踏まえるとまだ軽いものかもしれない。

 続きに行こう。第十二条は集会の許可や屋外で会同して大衆運動を無許可で行った場合(第四条の特例含む)に「六月以下の懲役もしくは禁錮又は五百円以下の罰金」

 第十三条は第七条の定める新聞紙の出版を無許可で行った場合「一年以下の懲役もしくは禁錮又は千円以下の罰金」

 第十四条は第九条で語った、出版禁止中に出版した場合「一年以下の懲役もしくは禁錮又は千円以下の罰金」

 第十五条は出版の差し押さえの妨害を行った場合は「六月以下の懲役もしくは禁錮又は五百円以下の罰金」

 第十六条は十三条から十五条までの犯罪を、刑法の併合罪規定を適用しない旨が書かれている。

 第十七条は時事ごとで造言飛語を流布したら「二年以下の懲役もしくは禁錮又は二千円以下の罰金」

 第十八条も似た感じで惑亂する(人を惑わす)ようなことを言えば「一年以下の懲役もしくは禁錮又は千円以下の罰金」だ。


s 十七条と十八条の「造言飛語」と「惑亂」することの違いはどういう違いがあるのでしょうか。


k 造言飛語は根拠のない噂やデマを言いふらすことに近い。惑亂はあくまで人を惑わすというところにとどまるということから少しだけ軽くなっている。


s 言論の自由はそこの条文で完全に縛られていたのですね。


k 流言飛語とも言うが結局は国に都合の悪いことだから、たとえ真実(艦船が沈没した数を正確に言うなど)を言ったとしても国民を惑わしているのだから犯罪として取り締まる根拠にはなった。


s 日本国憲法で保証されていた知る自由もこういった形で制限されていたのですね。


k 昔は天気予報も軍事機密扱いで台風のこともわからず死者が出たこともある。言論の自由の制限は同時に知る権利を奪っていたことでもあったのだ。


s 改めてこれを見ると治安維持法だけが縛っていたのではなく多くの法律が複雑に絡み合っていたことを示しているのですね。


k 現在の日本国憲法では基本的人権の尊重という中に知る権利も含まれる。この法律や治安維持法はそれを塞ぐ大きな足かせで、GHQが廃止させるまでは民主化が完全になったとは言えなかった(連合国の間接統治下で多くの検閲はあったが)。進駐軍が日本を去ってようやく手に入れた知る権利、言論の自由、出版の自由、集会の自由、結社の自由は本当に世界に誇れるものとなった。もちろんそれが国家機密、とくに防衛機密に関しては知る権利が制限されるのは致し方がない側面もあるがその適用範囲の是非はこれからも慎重に考え続ける必要がある。







 こういった権利は本当に尊い。多くの先人が努力して勝ち取った権利を濫用(SNSでの誹謗中傷等)してはならないにしても、その自由はまた奪って良いものではないと考える。


 こういった権利というものは一度失ってしまえばもう二度と手に入らないということを覚悟したうえでどこまで個人の自由として認めるべきか。


 全体主義の苦い経験を繰り返すことはあってはならない。個人は個人。みんな違ってみんな良い。その事がわかりあえない世界に希望が欲しい。それが僕の願いであり、多くの人に日本国憲法を見習ってほしいと考える。


 この世界が汚く穢れていたとしても、愛し続けたい。

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