二十四言目 戦前シリーズ「爆発物取締罰則」(現役)
戦前シリーズですが、これだけはどうしても説明したかったので戦前の件含めて解説して戦前シリーズに含めます。この法律は現役なので実行すればマジで罰せられます。決してやらないよう(やらないでしょうけれども)
s これ、解説したがっていたのは「罰金等臨時措置法」からずっとだったって本当ですかい。
k 本当だよ。これは結構僕が解説したかった刑事法の一つなんだ。これ、現在でも有効な戦前から続く法律なんだ。それに加えて明治憲法ができるより前の法律でもあるからさらに珍しい。太政官令という内閣と言う形ができる前の政府から発せられたものだ。ものすごく珍しい。それは簡潔に言ってもそうだけど明治憲法時代に有効だった法律自体日本国憲法の制定で変わった法律が多いのに「爆発物取締罰則」は明治憲法ができるより前だからね。まあ、他にも太政官令で有効なものは多いけど有名なものではこれが主なものだ。
s どうして有名なのですか。
k 二年前くらいか。東アジア反日武装戦線で唯一逮捕歴のなかった全国重要指名手配犯だった「桐島聡」と言う男が罪に問われていた法律がそれなんだよ。
s 東アジア反日武装戦線?
k これは「極左暴力集団」の一つで日本の戦争責任を追及するためにできた組織で多くの民間人を巻き込んだテロ組織だ。東アジア反日武装戦線は、あさま山荘事件や山岳ベース事件で有名な「連合赤軍」と極めて縁が深く、日本赤軍とも縁が深い。日本赤軍メンバーが現在においても海外逃亡を続けている今、あさま山荘事件は未解決のまま六十年の時を超えようとしている。そんな組織が起こした事件の一つが、
「連続企業爆破事件」
大企業に爆発物を仕込み爆破させ大勢の死傷者を出させた。桐島聡はこの事件には関わってはいないものの、他の企業を爆破し負傷者を出しているから公安や警察が血眼になって探していた。桐島聡の人生の終わりはみんなよく知っているだろうが、それで問われていた罪。それが「爆発物取締罰則」だったんだ。
s 結構悪質なテロでしたよね。それにしても、刑法に存在する激発物破裂罪とは何が違うのでしょうか。
k 競合的観念にあるとされていて、例えば職質に来た警官にビンタかまして捕まったやつが公務執行妨害罪と傷害(程度によれば暴行)罪両方で罪に問われるのと同じで、目的や行為、実際の被害によってどちらが適用されるか判断される。だから爆発物取締罰則が優先されるべき際はこれが優先される。
そのなかで存在する爆発物取締罰則の罪状を調べてみよう。(カタカナは平仮名に直します)
「第一条 を以って爆発物を使用したる者及び人をしてこれを使用せしめたる者は死刑又は無期もしくは七年以上の拘禁刑に処す
第二条 前条の目的を以って爆発物を使用せんとするの際発覚したる者は無期又は五年以上の拘禁刑に処す
第三条 第一条の目的を以って爆発物もしくはその使用に供す可き器具を製造輸入所持し又は注文をなしたる者は三年以上十年以下の拘禁刑に処す
第四条 第一条の罪を犯さんとして脅迫教唆煽動に止る者及び共謀に止る者は三年以上十年以下の拘禁刑に処す
第五条 第一条に記載したる犯罪者の為め情を知って爆発物もしくはその使用に供す可き器具を製造輸入販売譲与寄蔵し及びその約束をなしたる者は三年以上十年以下の拘禁刑に処す
第六条 爆発物を製造輸入所持し又は注文をなしたる者第一条に記載したる犯罪の目的にあらさることを証明することを能はさる時(証明できないとき)は六月以上五年以下の拘禁刑に処す
第七条 爆発物を発見したる者は直ちに警察官吏に告知す可し違ふ者は百円以下の罰金に処す
第八条 第一条から第五条までの犯罪あることを認知したる時は直ちに警察官吏もしくは危害を被むらんとする人に告知す可し違ふ者は五年以下の拘禁刑に処す。
第九条 第一条から第五条の犯罪者を蔵匿しもしくは隠避せしめ又はその罪証を隠滅したる者は十年以下の拘禁刑に処す。
第十条 第一条から第六条の罪は刑法(明治四十年法律第四十五号)第四条の二の例に従う
第十一条 第一条に記載したる犯罪の予備陰謀をなしたる者と雖と未だその事を行はさる前において官に自首し因て危害を為すに至らさる時はその刑を免除す第五条に記載したる犯罪者も亦同し
第十二条 本則に記載したる犯罪刑法に照し仍ほ重き者は重きにて従て処断す」
定められている罪は以下の通り。
「第一条、爆発物使用罪。第二条、爆発物使用未遂罪。第三条、爆発物製造等罪。第四条、使用共謀罪。第五条、製造・輸入ほう助罪。第六条、立件不能の場合の処罰。第七条、爆発物発見者の告知義務違反。第八条、認知者の告知義務違反。第九条、犯人隠匿罪」
s これは言うまでもなく結構重い犯罪となっているのですね。共謀まで罰せられるのは意外でした。第六条の意味は何ですか?
k 第五条の犯罪は第一条の目的をもって行うときに罰するものだから、爆発させようとする意図を立証できなかった場合、爆発物を持っていても罰せられるようにこういう規定を作ってある。
s 第九条の犯人隠匿って刑法にもありませんでしたっけ。
k あるよ。但し刑法は「罰金以上の物を隠匿逃避隠滅した場合、三年以下の拘禁刑又は三十万円以下の罰金(親族の場合は免除される)」なのに対して爆発物取締罰則は「第一条から五条までの犯罪の犯罪を隠匿逃避隠滅した場合、十年以下の拘禁刑」となっている。親族にも適用されるからいかにこの爆発物が社会に与える影響が大きいか理解できるよね。
s 爆発物取締罰則違反って本当に想像以上に重い犯罪ですね。
k 例えば農業用肥料を原料に火薬を作ったらその時点で犯罪。爆取(爆発物取締罰則の略)の対象だ。
s 最高刑が死刑なのもうなずけます。人を殺す意図がなくとも死刑が成立するのは当然ですかね。
k 制定当時は自由民権運動の過激化によって多くの爆発物による犯罪が相次いだことによりこの罰則ができた。その後治安維持法によってその効力は完全に消えたと言っても過言ではなくなった。しかし、治安維持法の廃止により「治安を妨け又は人の身体財産を害せんとするの目的」というのを使ってどうにかして治安を維持しようとした。それほど当時は重宝されていたんだよ。爆発物って危険物取扱者試験や火薬類取扱保安責任者試験で勉強すればわかるけどものすごく身近で危険なものが多い。だから当時は爆発物取締罰則の存在は日本の治安維持そのものを表していた
殺意がなくとも爆発物を使って死者が出れば死刑が適用される恐れがある。当時の過激化した学生運動を鎮める手段だったのだ。
ちなみに火炎瓶は爆発物ではないという解釈が裁判所の判例で示されたため火炎瓶処罰法を制定して取り締まるようにしたよ。
s 桐島聡は逃亡していましたが捕まっていたら……
k 死刑ではなく数年の懲役だったと思う。桐島聡が関わった事件では死者は出ていない。その事を考えても塀の外には出られるくらいだったはずだ。逃げずに罪を償えば最後まで警察に怯えることはなかったはずだ。
s 本人は後悔していると言っていましたがもしかしたらそういう意味なのかもしれませんね。
k そうだね。犯罪を犯さないことが大前提だけど、その罪と向き合うのも重要なことだ。
もし、友人が罪を犯したなら、警察に言うか自首を進めるかどっちかだ。身の危険があるからむやみに説得しようとしなくていい。でも、自首は刑を少なくすることだけではなく、罪を犯した本人がその罪を受け入れて償う覚悟を作らせる一手になるはずだ。
桐島聡の死亡で「連続企業爆破事件」について知った人は多いのではないのでしょうか。決して風化させてはならない事件で、地下鉄サリン事件と同じく大量殺人を起こした許されざる事件。これは本当に忘れてほしくないです。




