二十二言目 刑の厳罰性と更生の在り方
久々に刑事法を語ります。
s 最近はトクリュウ(匿名流動型犯罪グループ)による犯罪が増加していますね。その中でやはり多くの少年が加害者として裁かれることが増えてきてしまっていますね。そうなってくるとやはり刑の厳罰化は避けられないのでしょうか。
k それが国民の意見だとすれば避けられない運命とは思う。ただ、刑を重くしたからと言って更生につながるわけではないことを知ってほしい。そもそも少年は何故闇バイトに手を染めてしまうと思う?
s 学校で教えてくれないからですか?
k その通り。最近の若者はやはりテレビや新聞を見ないこともあって闇バイトの実態を詳しく知らないものも多い。法律に関することをいっそのこと必修にでもしないと闇バイトの存在は分からなくなってしまう。それ以外にも家庭環境や人間関係が犯罪に手を染めさせる原因にもなる。いずれにせよ、無知は罪と言う言葉を胸に刻みつけるのが重要だと僕は思っている。
s 最近思うのはやはり少年法は刑が軽く感じます。少年法の回で語ったことを聞いたとはいえ、被害者の声はどう移り変わっていったのでしょうか。
k 有名な話だと神戸小学生〇人事件でおきた少年による犯罪は世間を揺るがしたよね。その時は刑法上十六歳からが責任年齢で十六歳未満は触法少年(刑法犯とは別の扱い)だから刑務所ではなく少年院に連れて行かれたんだ。ただ、あまりに事件が悲惨且つ衝撃を与えたのもあり少年法や刑法における責任年齢の上限が下げられた。これは、やはり少年だから更生が期待できるという甘さを正そうという動きだったのかもしれない。
s ただ厳罰にするだけではだめなのですね。
k 例えば窃盗だと初犯だと警察に罰金を払って終わりというのが大半で少年法がなければそれで対処は終わり。それを思うと少年法が保護観察の規定を入れていたり家裁に審判させていたりすることがあれば将来的に犯罪グループに加わらずに済んだり、本人の深い反省を得られると考える。だからこそ少年法には大きな意義があると思う。
物を壊したにしてもその原因が家庭内暴力であったら、少年法がない場合刑務所に入って作業して前科付いて終わり。それだと根本的な解決には至らないから少年法が介入し、更生を図るアドバイスや矯正を行うんだ。そういう意味では日本の治安の良さは少年法の存在があると言える。
それでも、少年法があるから大丈夫と言う意味ではない。十四歳以上であれば逆送(家裁から検察に戻され刑事罰の審判が行われる)を喰らって牢獄生活という可能性は十分在り得る。そうなると前科が付くから一生経歴に傷がつく。何より被害者は失ったものを取り返すのは極めて困難なんだ。犯罪は決して軽くない。その前提で少年法を語らせてもらったよ。
s それを思うと世間も大きな力があるのですね。
k もちろん刑が重くなったと言うだけで被害者は救われるわけではない。それでも大きく前に進む一歩は刑の重さに少なからずはあると思う。
そういう話でいうとかつては酒を飲んで車を運転してひき殺しても故意でなければ、最高でだ。
「禁錮(現在は拘禁刑)五年」
業務上過失致死と重過失致死はそういう裁量であった。
s 人の命をそんなことで奪ってたったの五年なのですか……なんだか実感がわかないほど軽い気がします。
k これ、二十~三十年前まではこういう規定だった。でも実際にそういう悲惨な事故(東名高速で飲酒運転のトラックが乗用車に衝突し二人が命を落とした事故)が起きてから厳罰化を求める声が上がった。禁錮五年で二人の命を償えるものか。世間が揺れ動いた。被害者が頑張って署名を集めて動いたからこそ現在の
「危険運転致死傷罪」
が制定された。人が亡くなる事故であれば一年以上の有期刑が下される。自動車と言う鉄の箱を動かしている重みを理解させる世間の空気が厳罰化に突き動かした。だから、飲酒運転に対する世間の目が厳しくなった。これは本当に重い歴史だ。
s そういう意味だと厳罰化すれば事件を犯さないようにしようと感じて予防はできるという側面はありますね。
k そうだね。知床で起きた転覆事故では業務上過失致死の件で禁錮五年(拘禁刑に変わる前の事件の為禁錮となっている)の判断がされたけど、厳罰化したいのであれば僕らが動かなければ変わらない。煽り運転で起きた事件は世間が本気で動いた。だから煽り運転も厳罰化されて意識化につながった。その事を踏まえて刑は重くしていきたいと考えているよ。
s 刑は重くする風潮があるのですかね……それはやはり国民の声そのものなのでしょうか。
k 大きく話は逸れるけど、麻薬の使用に関する犯罪は減刑させていくべきとの声が上がっている。
s 何故ですか?犯罪は犯罪と思いますが。
k 麻薬依存症って言ったら本当に精神を病む病気と言う感覚に近くて、刑罰を受けて治るものではない。そうなるとやはり精神病院へ行きしっかりとした治療を受けないと依存症から脱却するのは不可能と言っていい。骨折を自力で治せば変な方向にくっ付きかねないのと同じで麻薬依存もしっかりとした治療でなければ大きな反動(麻薬に頼りたいという衝動)がくる場合がある。
精神疾患を自力で寛解させるというのは「骨折を自力で治す」と言っているのと同じと言われているぐらい無茶苦茶なことで、専門知識もない人にただ薬を絶たせるだけでは数十年たっても治らない。と言うかそういう系の精神治療ってスピードが重要で早くやらないと寛解しないわけではないけどものすごく手間暇がかかる。それなのに裁判やら刑務所やらで時間をつぶしていると本当に時間がもったいない。
麻薬をやる人って結局好奇心もあるけど、自分にとても大きな不安を抱え込んでいる人間がやってしまうもの。それで手を染めて犯罪者にして刑務所へ連れて行き社会と絶たせる。そうなったら絶ったはずの薬に何度も頼らざるを得なくなるんだよ。
気合でどうにかしろという人がいるけど、本人からすれば食欲を絶てと強要しているのと全く変わらないからね。
s そう言えば、そもそもトー横でよく言われているオーバードーズも麻薬扱いではありませんよね。第一類医薬品(薬剤師にしか売れないが市販できる)は保護者がいなけれが未成年に対して売ることはできないみたいなルールを決めている店舗ができているとはいえ後を絶ちませんよね。それでいえば確かに薬を使ったからただ処罰するというのは効果が薄いでしょうね。
k 本当にその通りで、むしろ逆効果だと思う。オーバードーズって本当に危険(本当に下手したら命を落としたり後遺症が残る場合がある)だしやっちゃいけないけどそこまでしてやらざるを得なくなった環境を改善しなければ刑を科すだけで解決しないんだよ。刑罰があるからやらないみたいな空気ではなくて、薬に頼らなくても生きていける社会の空気を作らなければ麻薬を使用する系の犯罪に効果は薄いと感じるよ。
s 逆に違法薬物を売りさばく側は徹底的に裁いてほしいですが。
k そこだよね、それがなければ元も子もないのだから。だから麻薬はダメ!ゼッタイ。というスローガンは忘れることはしてはいけない前提で、どうやって麻薬と依存してしまっている患者と付き合うか。考え続けなければならないと思うんだ。
それをもってして刑罰の減刑や麻薬使用の処罰を撤廃する意見が出ている(もちろん刑罰を科さないだけで違法性は残しておきたいが)。これも国民として共に考え続けるテーマだと思う。非犯罪化した場合麻薬使用者が増加するリスクも踏まえたうえでこのことは考えたい。だから刑を軽くしたり無くしたりするにはそういった事情も考えて動かなければならない。
刑罰は重くすれば防止できる。でもそれだけで解決はしない。だからこそみんなで見守っていく温かい社会が本当に必要とされていると感じる。犯罪なき社会は到来せずとも、それと向き合い続ける社会はできていってほしい。
刑の重さってやっぱり簡単に語り切れないと実感しましたね……




