二十言目 今更シリーズ、日本国憲法第三章(三十一章から)
s 前回は色々と省いて解説された気がしますが、今回のところはどういう感じで解説するつもりなんですか?
k 僕の気持ち次第で全部変わるから頼む。許してください。
s それは置いておいて、日本国憲法三十一条からはどんなものが登場しますっけ。
k 結構これは日常生活ではなかなかない分野だから分けて解説したかったんだ。そもそも逮捕や監禁は法律上禁止されている。それを国家権力で強制的に合法にする以上きわめて強力なブレーキが必要だ。国家による違法で不要な人権侵害を禁止するためにこの規定は存在する。まずは条文から読んでみよう。
「第三十一条 何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二条 何人も、裁判所において裁判を受ける権利を奪はれない。
第三十三条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となつてゐる犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。
第三十四条 何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。又、何人も、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十五条 何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
② 捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁ずる。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を有する。
② 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与へられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③ 刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
第三十八条 何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
② 強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
③ 何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九条 何人も、実行の時に適法であつた行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問はれない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問はれない。
第四十条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」
s こっちも長くて面倒くさいですね。読むのが。
k こっちの方はさらに重要だから僕自身で簡単に説明するね。
i/oフラット口語訳 日本国憲法第三十一条から四十条まで。
「第三十一条 誰であっても、法律の定める手続によらなければ、その生命もしくは自由を奪われ、又はその他の刑罰を科せられない。
第三十二条 誰であっても、裁判所において裁判を受ける権利を奪われない。
第三十三条 誰であっても、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する裁判官が発し理由となっている犯罪が書かれてある令状がなければ逮捕されない。
第三十四条 誰であっても、理由を直ちに告げられ、かつ、直ちに弁護人に依頼する権利を与えられなければ、抑留又は拘禁されない。又、誰であっても、正当な理由がなければ、拘禁されず、要求があれば、その理由は、直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。
第三十五条 誰であっても、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、裁判官の出した令状がある場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、かつ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。
② 捜索又は押収は、権限を有する裁判官が発する各別の令状により、これを行う。
第三十六条 公務員による拷問及び残虐な刑罰は、絶対にこれを禁止する。
第三十七条 すべて刑事事件においては、被告人は、公平な裁判所の迅速な公開裁判を受ける権利を持っている。
② 刑事被告人は、すべての証人に対して審問する機会を充分に与えられ、又、公費で自己のために強制的手続により証人を求める権利を有する。
③ 刑事被告人は、どんな時でも資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自ら弁護人を依頼することができないときは、国でこれを援助する。
第三十八条 誰も自己に不利益な供述を強要されない。
② 強制、拷問もしくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
③ 誰であっても、自分が刑を科されることになる唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。
第三十九条 何人も、実行の時に適法であった行為又は既に無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない。又、同一の犯罪について、重ねて刑事上の責任を問われない。
第四十条 何人も、抑留又は拘禁された後、無罪の裁判を受けたときは、法律の定めるところにより、国にその補償を求めることができる。」
s 口語訳と言っても分かりづらいですね。
k だからこれから解説したい。まず三十一条について。法律によるものでなければ生命、自由、その他刑罰を科せられないという条項は『罪刑法定主義』と言う法律の基礎となるものだ。法律に定められていない行為は罰してはならないのだ。ここが少し厄介なんだけどね。
s 厄介ってどういう意味?
k 逆説的に法律で定めたことであれば生命を奪えるということ。故に死刑は違法ではないという解釈ができる。でもここで待ったをかけなければならない。第三十六条の「公務員による拷問及び残虐な刑罰の絶対的禁止」に矛盾するんだ。だって残虐じゃない死刑なんてこの世にはない。死と言うほど生物にとって残虐なものはないんだ。だから死刑についての論争はよく教科書でもされるくらいには活発な議論になるんだ。
s 憲法同士でも矛盾しそうな部分はあるのですね。
k そこが改憲議論の難しいところだよね。話は戻して三十二条は「裁判を受ける権利」これは民事刑事関係なく適用されるよ。そして三十三条から三十五条は「令状主義」と言って司法官憲、要は裁判官の発する『正当な』令状でなければ許されない。正当と言うところが大事で、単に見せしめのためだけに逮捕することを裁判官は許可できない。ここが一番重要だから知っておいてほしい。逮捕はあくまで国による正当な監禁だから令状主義は忘れられてはならないんだよ。
s そう言えば現行犯とかは聞きますがたまに「緊急逮捕」と言う言葉を聞きますよ。それはどういったものなのでしょうか。
k それは結構例外で一定以上の刑が科される犯罪、例えば殺人など放っておいたらマジでヤバい犯罪を犯した人間が目の前にいて令状を取っていたら逃げられるというときは警察官が令状を取るまでの間逮捕できる規定だ。もちろん現行犯と違って民間人は緊急逮捕はできないから、指名手配犯がいたら取り押さえるよりはまず通報と言うことかな。もちろん令状が取れなければ即座に釈放しなければならない。あくまで臨時措置だからね。
s そういうことですか。第三十六条はさっき聞いたので第三十七条の公平で迅速な裁判を受ける権利と言うのはどういうものなのですか。
k 公平な裁判所と言うのはもちろんとして、迅速な裁判を受ける権利とは一体どういうことか分かる?
s さっさと結果が分かりたいからですか?
k 惜しい。迅速でなければその間はずっと被告人。確定判決が出るまでは無罪扱いとはいえ被告は相当な心労をかけ体力を奪われる。そんなものを十数年喰らったらたまったものではないでしょう。それに裁判が長引けば証拠は劣化するし証言は曖昧になる。それによる冤罪防止の意味合いも持っているのだ。
s でもよく考えたら三年かかる裁判とか普通にありますよね。
k 程度によるよね。高田事件は十五年間待たされて裁判所で迅速な裁判を受ける権利を奪われたと判断され無罪になった件がある(この一件だけだが)。
s 十五年は……想像したくないですね。
k そういうことだ。続きに行こう。三十七条二項及び三項は、それぞれ証人を公費で強制的に呼ばせることのできる権利と弁護士を呼べる権利、金がなければ国が負担して弁護士を呼べる権利があることを書いている。貧富の差によって証拠が出せず判決が変わることを防ぐためだ。
s 貧富の差で判決が分かれるのはこれも想像したくないですね。金があれば出せた証拠や弁護士みたいなのはあってほしくないですね。
k 当然のことだよね。三十八条は自白に関する権利だ。拷問や長期にわたる拘禁によって出された自白は証拠とならない。そして自分が有罪にされるかもしれないという自白がその犯罪を証明する唯一の物だったら証拠にはならない。
s 刑事法では証拠は大事とは聞きますが何故ここまで『自白』は証拠として扱いづらいのですか。
k もし自白だけで犯罪が成立すれば思想犯罪が取り締まれる。戦前の治安維持法とかその代表格で政府打倒の意思を口から吐かせれば刑を科させられるから自白だけで犯罪が成り立ったんだ。考えているだけで刑を科すのは思想良心の自由の権利の侵害だ。その反省から成り立っている。
s それが分かると自白って確かに慎重に扱うべきですね。
k 後、自白って簡単に取れる証拠の一つだか、圧をかければ、被告はこの地獄を抜け出せると思って魔が差して自分がやってもいないのに吐く自白が有罪の証拠になることがある。それは絶対に許されないからね。何もやっていないのに無期懲役とかはなくとも社会的信頼は完全に失墜する。そんなことが絶対にないように憲法で規定されている。
ここまでだいぶ進んだな。最後になってきたぞ。憲法第三十九条には一事不再理の原則、遡及処罰の禁止が規定されてる。
s 一事不再理と遡及処罰の禁止とは?
k 一事不再理を簡単に言えば一度無罪が確定すればまた同じ罪で裁判にかけることはできないということ。一度無罪になったのに有罪扱いしてもう一度裁判したら三審制の原則に違反するし、何よりずっとその人は有罪扱いされる恐怖を無罪なのに味わう羽目になる。その為一回確定した判決はもう一度審理と言うことにはできないのだ。もちろん再審のような被告にとって有利なものは制限する意味がないから一事不再理の対象にはならないよ。
遡及処罰の禁止はその時合法だったのに後から違法になった場合、その違法の根拠となる法律で裁くことはできないということ。後出しじゃんけんみたいだから被告には不利過ぎる。国が違法と思ったら後付けで違法にできたらバンバン犯罪者としてしょっ引けるからね。
s 確かにそういわれると国に有利過ぎますか。最後の拘禁されたのちの国に対する補償は当然と言えば当然か。
k 被告として拘置所に入れられていた間もそれに含まれるから範囲はだいぶ大きいよ。国による人権侵害が無罪人に対して起こしたならば絶対に補償をしないといけない。賠償に近いけどそれとは違って、無条件で無罪であれば支給する義務があるからそこは勘違いしないようにね。
s 本当に前回と違ってものすごく丁寧に説明してくれましたね。
k その件は本当にごめんなさい!
この規定は人権を守るもの。そして国家による人権侵害を最小限に食いとめ無罪の人間を罰しないようにするためだ。真犯人を見逃し目先の利益のためだけに根拠ない人間を有罪にすることは決して許されない。この権利は無罪になる人の為だけではない。無罪の人間を罰し、真犯人を放置する世界から被害者を守るためにもある。
無実の人間を罰する。これは同時に、真実を覆い隠す重罪であることを捜査機関は肝に銘じる義務がある。
どうか、冤罪によって真実が分からないことが起きる社会が消えますように。
今更シリーズはここで終わらせてください。結構しんどいのでここで終了させていただきます。これからも応援をよろしくお願いいたします。




