皇帝の隠し場所
「ク、クソォ……ミネルバ……さま」
ドサッ!
最後の1人が倒れ込み、この場の下っ端共は全て倒した。夢の翼がいたからあっという間だったな。
「へへ、大したことねぇ奴らだぜ!」
「荷馬車も無事だぜレックス。だけど御者の方は……」
「うへぇ、マジかよ……」
仲間の1人――アルバが村の一角を差す。どうやら村人の中に紛れているらしく、一緒に洗脳されているらしい。今のところ洗脳を解く方法はなく、レックスを始めとした夢の翼パーティは、どうやって御者を連れ出そうか頭を抱える。
「これはまた骨が折れそうですねぇ……。しかし連中は何者ですか? マサル殿を知っていたようですが」
「それなんだけどな――」
俺はここまでの経緯を簡単に説明した。
「マジかよ! 皇帝が誘拐されたって――」
「バカ! 声がでけぇ!」
慌ててレックスの口を塞ぐ。村人に聞かれたら面倒だし、何よりエーテルリッツの目がどこに有るかも分かりやしねぇ。
すると仲間の1人――エルフのユユが何かを感知し、皆に注意を促した。
「……気をつけて。あっちの方から凄い魔力を感じる。多分コイツらの親玉的な何か」
「ボクも同じです。どうやら荷馬車と御者を見つけるだけでは済まなそうですね」
仲間の1人――魔族のルークも得たいの知れない何を感じ、真剣な表情へと変わる。
「もしかしたら皇帝の件にも関わってるかもしれねぇ。詳しい場所は分かるか?」
「……うん。ついてきて」
ユユの案内で村はずれに走ると、大きな池が見えてきた。なんの変哲もない池に見えるものの、池の底から沸き上がる魔力は隠し切れていない。
「池の底か? これじゃ手が出せないぞ」
「慌てんなよレックス。こういう時は――」
「――落とし穴!」
落とし穴トラップを池の底まで広げると、底から更に下へと続く縦穴が出現した。
「すげぇ! これで突入できるぞ!」
レックスを先頭に何故か浸水してこない縦穴を滑るように降りていく。遥か下から光が漏れているな。そこに親玉が居るんだろう。
「お? 開けた場所に出るぜ――――っと!」
地下数百メートルに広がる謎の空間。光源となっていたのは地面に描かれた奇妙な魔法陣だった。
だがこの際魔法陣はどうでもいい。その上に寝かされていた人物が大問題なんだ。
「ああっ! あれってラーズグロム様じゃねぇか!」
レックスが叫ぶ。俺も一度だけ開会式で見たが、確かに皇帝その人だった。
急いで身柄を確保しに駆け寄るのと同時に、奥からエーテルリッツのローブを羽織った老人が姿を現す。
「このような場所に迷い人とは珍しい。どうやって侵入したのか興味深いが、大切なものを見られてしまってはのぅ。残念だが生かして帰すわけにはいかんぞぃ」
「大切なものってのは皇帝のことか? だったら寝床の一つでも用意してやるべきだったな。こんな雑に扱ってたんじゃ不敬罪は免れねぇよ。いや、そもそも俺が許さねぇ」
スチャ……
俺は殺意剥き出しで剣を構える。
「現皇帝に忠義を尽くす者か? 無惨にも捕らわれの身となってしまうほどじゃぞ? 護る価値すらないと思うがのぅ。それが分からぬようではまだまだ青二才と言ったところか」
「忠義とかじゃねぇ、武術大会を邪魔されたのが癪だっつってんだよぉ!」
ガキン!
「チッ、障壁か」
「その通り。伊達にマジシャンと呼ばれてはおらぬでな、ワシの魔力を上回る者でもなければ破ることはできぬじゃろう。できるか? お主に? 無理であろうのぅ、フェッフェッフェッフェッ!」
俺の剣はダンジョンマジックで守備低下のバフがかかったものだ。それでもキズ1つ付けられねぇとは、コイツ只者じゃないな。
「どけマサル! 俺たちに任せろ!」
「ああ、パーティプレイを見せてやろうぜ!」
レックスたちの加勢だ。前衛2人が剣で斬りかかり、後衛2人が魔法での破壊を試みる。
――が。
「クッ、とんでもねぇ頑固オヤジ(←守備力の高い敵に対する蔑称のようなもの)だ。まともに刃が入らねぇぞ」
「レベルの上がったボクたちですらキズを付けられないとは……」
手慣れのレックスたちでもダメか。
「なら取って置きだ。俺も伊達にトラップマスターを名乗っちゃいねぇって事を教えてやる――剣山!」
キキキキン!
「そんな! プリーステスならこれで一撃だったはず……」
「フェッフェッフェッ。ワシの魔力をプリーステスと一緒にされては困るぞぃ。ワシが展開する障壁は万単位で重なっておるのじゃ。お主らの低レベルな攻撃ではビクともせんわぃ」
爺ぃの言ってることは事実なんだろう。つまり障壁を突破するには一気に破壊する必要がある。
「そんなら別の取って置きだ。加齢臭まみれのくっせぇ障壁、まとめてブッ壊してやる――発破ぁ!」
いっそ肉片になっちまえって勢いでダイナマイトを使用した。これでどうだ?
ピキ……ピキキキ……
「なんと、ワシの障壁にヒビが!」
近代兵器の威力でレックスたちも驚きの表情。一応俺もな。
「頼みの綱も無敵じゃないらしいな? 今度は威力を倍増させて一気に壊す!」
「それは困った。障壁を破壊されてはかなわんからのぅ。こうならば奥の手を出すとしよう。ワシの魔力に抵抗できるなら足掻いてみぃ」
ボフゥ!
「この爺ぃ、妙な煙を炊きやがって!」
恐らくは状態異常だろうと察し、必需品であるサングラスを掛ける。素早い対応により、異常を受けずに済んだ。
「よし、これでいい。――あ、レックスたちは!?」
振り向いた瞬間、嫌な汗が流れてきた。彼ら4人は白目を向いていたからだ。
「おい、レックス!」
「フェッフェッフェッ。無駄じゃよ。ここへ来たのなら外の村人を見たじゃろう? ワシの術に掛かった者はワシにしか解けぬ。お主ができるのは命懸けで脱出を試みることだけじゃ」
正に四面楚歌。ここで逃げ出したら皇帝がどうなるか分かったもんじゃない。とはいえレックスたちを殺すのは絶対にダメだ。
「さて、覚悟はよいかのぅ?」
「いや、覚悟するのはテメェだよ――転移!」
シュシュシュシュン!
「なんと! お主、仲間をどこへ隠した!?」
「なぁに、ちょいと地上に戻しただけさ。転移トラップでな」
「転移トラップ……じゃと? ワシのテリトリーで好き勝手に発動できるはずが――いや、特殊なダンジョンマスターだという噂のフールな或いは――ハッ!? ま、ま、まさか……」
「そういやエーテルリッツでは俺の事をフールとかいう名前で呼んでるんだっけか」
「お、お主があのフールだと申すか!」
今さら気付いても遅い。俺や仲間の命を脅かした時点でコイツは抹消すべき対象だ。
「そんじゃ皇帝も返してもらったし、俺も引き上げるぜ。ちょっとした置き土産も残してな。そんじゃあ~ばよ~♪」
「ま、待て――」
ゴゴゴゴォォォ……
転移直後、地下で大規模な爆発が起こる。障壁の中だけじゃなく外にも召喚してやったからな。仮に生きていたとしても生き埋めになってるだろう。
「う……あ、あれ? ここは……」
「確か俺たち、あの爺さんの魔法で……」
「おぅ、その爺ぃなんだけどな――」
レックスたちが正気に戻ったようだ。そこで俺はあの後に爺さんを倒したことを告げる。
「そっか。またマサルに助けられたな」
「仕方ねぇって。あいつはエーテルリッツの魔力特化らしいからさ。」
それでも最初から全力で来られたら危なかったかもな。いつかビガロとも再戦するだろうし、強くなる方法を考えるか。
「う……」
「あ、ラーズグロム皇帝が目を覚ましたぜ」
皇帝も目を覚ましたらしく、上体を起こしてキョロキョロと周りを見渡し始める。こっちにも説明しとかないとな。
「ここはいったい……」
「実はカクカクシカジカで――」
「そうであったか。ふむ……」
皇帝が目を瞑って何かを後悔してる? いや、違うな。何かを念じてるような感じか。
やがて顔を上げると……
「ありがとう、命の恩人たち。キミたちがいなければプラーガ帝国は危機に直面していただろう。今しがた部下には念話で伝えたので、すぐに使いの者が来るだろう」
「念話で!?」
「何かおかしいかな?」
「い、いえ……」
皇族って念話が使えるものなのか? こりゃ下手なこと喋らん方がいいな。
★★★★★
「あ~ららっと、これはまた無惨にやられたものねぇ。途中で反応が消えたからもしかして~とは思ってたけれど~」
「「…………」」
皇帝を隠している場所が襲撃にあっているという知らせを受け、ボクとハーミット、それからエンプレスの3名で急行した。ボク自身は別の任務にあたっていたが最重要項目だと言われれば向かわないわけにはいかない。
しかして、現場に到着したボクらが目にしたのは……
「敵影は無し。ラーズグロムの姿もない。代わりに何らかの肉片が散らばっている。恐らくはマジシャン。油断した上に命を落としたか」
過疎地の村なら早々見つかるまいと考え、ここで皇帝を軟禁するはずだった。それがどうだ、即席で作った地下施設は水没し、土と泥を取り除けば、死んだのはマジシャンだけ。
「フフ、やるじゃないフール。お姉さん少し熱くなってきちゃったわ~」
「ハーミット。熱くなるのは勝手だが、余計な真似はしてくれるなよ? フールは我の獲物だ、誰の指図も受けんし手助けも不要」
「も~ぅせっかちねぇ、もっと楽しくいきましょうよ~。とりあえずマジシャンの死はミネルバ様に報告しとかなきゃね――」
どこか楽しげなハーミットが念話に切り替えた。ミネルバ様の判断を仰ぐのだろう。そこで不意に思った台詞が口から滑り落ちる。
「なぜハーミットは平然としてるのだろう。仲間が殺られたというのに」
「仲間であって仲間ではない、そういう事なのだろう。何せプリーステスを見殺しにするくらいだ、自分に危機が及ばん限りは微動だにせんのだろうな」
マジシャンは他人を見下す傾向はあった。だがそれでも仲間には違いない。失った悲しみを感じるのが普通ではないのか。
「はぁ…………」
いかんな、どうもモヤモヤが収まらない。これがもしフールなら捨て身で救済に入ったのではないか、そう思えて仕方がないのだ。
「んん? ザ・サンったら、な~んか辛気臭い顔してな~い?」
「……何でもない。少し考え事をしていただけだ。それよりミネルバ様はなんて?」
「私とエンプレスで共闘しろって。これ以上仲間を失うのは避けたいみたいよ? あ、でも貴方は例のタワーの捜索ね。それじゃ行きましょエンプレス」
「まて、お前の助けは不要だと――」
ハーミットとエンプレスがこの場から転移していった。残されたボクは再び思考の海に沈む。
「(プリーステスに続いてマジシャンまで殺られた。これは想定外と言っていいだろう。過去に遡ればデビルも殺られている。今更ながらミネルバ様が警戒していた理由が分かってきた。だが残念なことにワールドはフールへの警戒を解いたらしい。せめてワールドと敵対してくれればフールは消滅しただろうが、これにはもう期待できない。なぜならワールドはフールに対して手を差し伸べたから。こうなるとフールを消し去るのは無謀というもの。下手をすれば我々がワールドと敵対しかねん。これは1度ミネルバ様に談判した方が良いのかもしれん」




