お礼と依頼
「改めて礼を言うよ。ありがとう、通りすがりの冒険者たち。キミたちが救援に来なければ、我が帝国は危機に直面していたと言ってよいだろう」
皇帝の言った通り、あの後すぐに使者が送られてきた。そこから帝都に帰還する途中でロージアたちとも合流し、レックスたちを含めた大所帯で玉座の前へ。どこか安堵した雰囲気が感じられる兵士たちに見守られながら、皇帝からのありがたいお言葉を貰ったわけだ。
「あ~でも礼ならマサルに言ってくれ――じゃなかった、言って下さい。俺たちは何にもできなかったんで。そもそも別の依頼を受けてただけだし……」
「私たちも同じです。時間稼ぎをするだけで終わってしまいましたので、討伐したマサルさんが一番の功労者でしょう」
レックスとロージアは謙遜している様子。そこで透かさず口を挟む。
「いや、レックスたちが居たからすぐに状況を理解できたんだよ。ロージアだって状況説明してくれたし。それに功労者って言うならアンジェラが一番かな? アイツに投げ飛ばされた先に首謀者が居たわけだし」
「そ、そうか、アンジェラ殿か。大量のカツ丼を消費されてしまったし、これ以上恩賞を与えるのは……う~む……」
お代わり自由とはいえ、どんだけ食ったんだアイツは……。
「ま、まぁアンジェラ殿のことは置いといてだ、ディオスピロスという闇ギルドを知っているだろう? 今回の騒動に関わった彼らを多数捕縛することに成功したのだが、その中のリーダー格である男がマサル殿と面会したいと言っているのだ」
「ディオスピロスの奴が? なんでまた……」
「それは分からん。そういうわけでリオン、説明を頼む」
「承知しました。詳しくはわたくしから説明させていただきます」
ここでディオスピロスの連中を尋問したらしい宮廷魔術師のリオンという人物にバトンタッチされた。
「彼ら――ディオスピロスが言うにはマサル殿とは幾度となく交戦してきた。間違いありませんか?」
「ええ、そりゃもう」
ラーツガルフの王都に巣くってた闇ギルドの次がディオスピロスみたいな感じだったもんな。いい加減面倒だとは思っていた。
「彼らが戦っていた理由にエンペラーの理というものが有るらしく、そのエンペラーという地位にいる者には逆らえないのだと述べていました。マサル殿との戦闘も命令の1つだったようです」
好きで戦ったわけじゃないってか? 今さら過ぎるけどな。
「もちろん我々としてもそれで許すつもりはありません。彼らには然るべき裁きを下すつもりです。しかしディオスピロスの背後にいるエーテルリッツという組織。その存在は不明のまま。不安材料を取り除くためにも、マサル殿には協力して欲しいのです」
また皇帝が狙われないとも限らないしな。俺が帝国側の人間なら同じように動くだろう。
「分かった。その男と話してみる」
「ご協力感謝します」
★★★★★
ここでレックスたちとは別れ、リオンさんの案内で地下牢に移動。独房でフテ寝している男の前までやって来た。
背を向けて寝ていた男がこちらに気付くと、ジャンピング土下座の勢いで俺たちを正座で出迎えた。
「おお、その顔は見覚えがあるぜ。アンタがマサルだろ? 俺はディオスピロスの地方幹部の1人さ」
「確かに俺がマサルだが、お前のことはこれっぽっちも知らないぞ?」
「そりゃ知らなくて当然だろうさ。俺だってイメージ投影でしか見たことがねぇ。直接対面するのはこれが初めてさ」
「イメージ投影?」
「エーテルリッツにゃリーダー名乗ってるミネルバって女が居てな、そいつが俺たちの脳裏に直接流し込んでくるのさ。どこを襲えだとか誰を狙えだとかな」
特殊スキルか。多分シゲルが言っていた秘密結社のミネルバと同一人物なんだろう。
「そのミネルバって奴がいる限り俺を狙い続ける気か? そんなもん無視すりゃいいだけだろう」
「ところがどっこいそうもいかねぇ。ディオスピロスの大半はエーテルリッツに侵食されちまってよ、俺みたいに半洗脳状態な奴が溢れてんのさ。1度洗脳されちまったら最後、身体が勝手に反応しちまって、無意識な奴隷の出来上がりってわけさ。あのミネルバって奴ぁ相当エグいぜ」
当面の敵はミネルバか。話を聞く限り自ら従いたいとは思えないがな。
リュウイチ。お前、本当にそれでいいのか? 場合によってはユキノを襲えとか命令されかねないぞ? それにユキノを含めて仲間を襲うんなら、例えリュウイチでも殺さなきゃならなくなる。
――と言ったところでこればっかりは本人しだいか。
「まぁミネルバってのがヤバいのは分かった。それで俺に頼みたい事って何だ? 言っとくが刑を軽くしろってのは論外だぞ?」
「んなこたぁ言わねぇさ。ミネルバが生きてる限り、ここに留まってた方がよっぽど安全ってもんだ。ただ飯にありつけるんなら言うこたぁねぇ。俺が言いたいのは、エーテルリッツの本部はアレクシス王国にあるって事さ」
アレクシス王国。アイリが住むダンジョンの西側に位置する大国だ。
「詳しい場所は分からねぇが、しらみ潰しに探せばいつかは見つかるだろ」
「……で、何でわざわざ教えてくれるんだ? お前にメリットなんてないだろ?」
「そうでもねぇさ。エーテルリッツにとっちゃ俺たちなんざ捨て駒以下の存在だろうがな、いつまでもいいように使われてるだけじゃねぇって事を思い知らせてやりたくてよ、こうしてアンタにバラしたってわけさ。ま、ささやかな抵抗ってやつ? いずれはミネルバを始末してくれりゃ万々歳ってな」
「なるほどな。俺を利用してミネルバを消し去りたいと」
「そうしないと他の下っ端共は永遠とアンタを襲い続けるぜ? アンタにとってもメリットは大きいだろう。別に期限を設けるつもりはない。いつか葬ってくれればそれでいいさ」
そう言って男は大きなアクビをし、再び寝転び背を向けた。
「アレクシス王国か」
武術大会も終わっちまったし、次の目的地はアレクシス王国にするか。そう考え城を出ようとしたところで、リオンさんに止められた。
「お待ち下さい。すぐに出立なさるのですか?」
「え? そりゃあ早い方がいいし」
「ふむ……」
しばし考え込むリオンさん。理由が分からず首を傾げていると……
「言おうか言うまいか迷っておりましたが、やはり伝えた方がよいのでしょう。マサル殿、貴方はエルフから恨みを買っておられますね?」
「エルフ……」
心当たりはある。エーテルリッツの1人――プリーステスはエルフだった。アイツに親族がいれば恨まれても仕方ないだろう。
「プリーステスを殺しちまったんですよ。けど俺としちゃ他のエルフと争う気はないんですけどね」
「ええ、貴族街での出来事は把握しております。マサル殿とロージア殿がこっそり立ち去ったことも」
「「…………」」ギクッ!
何でバレてんの~!? いやこの際そんなもんはどうだっていいじゃないか(←失礼)。
「や、やっぱ弁償とかした方がいいです?」
「気になさらなくて大丈夫ですよ。発端である本人は最終的に死亡しているのですから」
ロージアと2人で顔を見合せ、ホッと胸を撫で下ろす。これ以上面倒事は抱えたくないからな。
「それより今はプリーステスの親族に注意すべきです。とても激しい怒りを精霊たちから向けられていますので」
そういやエルフって精霊との交信が得意なんだっけ? 魔法を使う際も精霊の力で威力マシマシになったりするってロージアから教わったなぁ。
「精霊か……。リオンさんは精霊を感知できるんですか?」
「はい。わたくしもエルフですので。と言っても……」
そう言いつつリオンさんがフードを外した。
「ダークエルフ?」
「はい。あまり人前には現れないことで有名ですけれどね。それでも精霊の感知能力は同等です。今この瞬間も精霊たちの怒りをヒシヒシと感じますので、早めに対処した方がよいでしょう」
対処つってもできる事は限られている。精霊にそう仕向けている奴を倒すしかない。
「マサル殿、お時間を頂けるのなら良い方法が御座います」
「良い方法? それって……」
「誘き出しましょう。不穏分子を」
★★★★★
かくしてしばらくの間、帝都の城で過ごすことになった俺たち。精霊の怒りは日に日に増しているようで、いつ破裂してもおかしくない状態だという。
なら破裂したらどうなるのか。その場合は「精霊が暴走する」とリオンが一言だけ。
大丈夫か? マジで大丈夫なのか? そう不安を感じつつも、城から離れていく俺にロージアから念話が届く。
『大丈夫ですかマサルさん? 戦闘になったらすぐに駆けつけますので、それまでは耐えて下さい』
『大丈夫だ。別に倒しちまっても構わないんだろう?』
『それでも構いませんが、無理はなさらないで下さいね』
『分かってるよ』
改めて状況を整理する。今俺は敵を誘き出すため1人で城を出て、リオンさんに指定された位置まで移動している最中だ。指定された場所が襲撃に適しているそうで、間違いなく襲撃されるだろうとのこと。
そのため他の仲間は離れた位置から俺を見守っている状態だ。
「そろそろか」
指定の場所とは帝都内部で植林を進めている地域で、パッと見は森に見えるくらい深緑と言っていい場所だ。
但し外とは違って魔物は居らず、動物だけが生息しているから極めて安全だとか。
だが今夜に関しては治安が著しく低下することだろう。多分もうすぐ……
ザザザザッ!
「!?」
突風により木々が大きく揺れるのを見て、その場で足を止めた。ただの通行人だったら特に気にも止めなかっただろう。
だが隠しきれていない殺気がグサグサと突き刺さるんだ。
「居るのは分かっている。姿を現せ!」
ギラッ!
「チッ、いきなりか!」
街灯に照らされた刃物が暗闇に光る。1つじゃない、複数の刃物が俺に向けて飛ばされてきた。
タッ――タタッ――タタタタッ!
避けた刃物がリズミカルに地面へと突き刺さっていく。投げ返してやりたいが先ずは様子見、回避に専念する。
「狙いに寸分の狂いもなし。殺す気満々ってやつか」
俺のいた場所を正確に狙ってやがるんだ。絶対に逃さないって信念が伝わってくる。
やがて刃物が途切れると、今度は真上から射貫くような殺気が。
「上かぁぁぁ!」
ガキィィィィィィ!
見上げれば豪華な鎧を着た女エルフ。握っているハルバードをロッドに変えればプリーステスにそっくりな感じもしてくる。
つ~か手が痛ぇ。どんだけ馬鹿力なんだコイツ!
接近戦はマズイと察し、大きく飛び退くのと同時に周辺の木々の隙間に球体蛍光灯を幾つか投げ込む。これだけ照らせば暗闇からの奇襲は難しいだろう。
「なるほどな。剣の腕もそこそこで、特殊なアイテムをも使いこなすと。プリーステスが殺られたのも頷ける」
「って事はアンタもプリーステスの親族か」
「いかにも。プリーステスは我が妹。唯一生き残った肉親であった。それを貴様は奪ったのだ、覚悟は出来ているのだろうな?」
「フッ、覚悟ねぇ。こっちは仲間を狙われたんだ。正当防衛を主張するぜ」
言ったところで今さらだ。以降はお互い無言になり、しばしのにらみ合いが続く。
1分程経っただろうか。不意に女エルフがハルバードを回転させた。注意深く観察していると、突然周囲が暗くなる。
バキィン!
「なっ、蛍光灯が!?」
球体蛍光灯が一気に壊され、再び周囲が闇に包まれた。
「このエンプレスに小細工は効かぬ。――妹の仇、今ここで討つ!」




