ディオスピロス再び
ヨム族の大平原を抜けた俺たちはミリオネック商業連合国へと足を踏み入れ、一番近くの街――シーロスへと立ち寄った。小さな街だし主だった観光名所も無いらしいからそのまま素通りしてもよかったんだが、毒草の栽培を指示していた連中を拘束してるからな。ソイツらを引き渡さなきゃならなかったんだ。
でだ、引き渡した時の騎士団なんだが……
「確認したところ、最近この街を拠点にして毒物を流通させていた一味だったよ。ではな。もう帰っていいぞ」
「あ、ああ……」
……とまぁ見事なまでの塩対応だった。
いや、もっと労えとか言うつもりはないぞ? でも何かあるだろう、なんつ~かこう……「協力に感謝する。少ないが報酬を受け取ってほしい」とかさ。
――って、そういや報酬貰ってねぇぞ? あの騎士野郎騙しやがったな!?(←別に騙してはいない)
「あ~思い出したらムカついてきたぞ~」
「マ、マサルさんどちらへ?」
「さっきの詰所だよ。誠意は言葉じゃなく金だって事を教えてやる!」
「あたいも賛成! おもいっきりふんだくってやろうぜ!」
「クーガまで……」
呆れるロージアを他所に、俺とクーガは詰所へと引き返す。ヤレヤレとタメ息をついたロージアは『宿屋を探しておきます』と念話を送り、シュワユーズとカルロスを連れて先に行ってしまった。
「さぁて、俺に塩対応した事を後悔させなきゃな。扉の開閉トラップで顔に直撃させてやろうか、それとも床を沈ませてスッ転ばせてやろうか」
「あまいあまい。そこは吊り天井を落下させて全員串刺しの刑だろ」
「そこまではしないっての……」
俺としちゃ困った顔を拝んでスカッとしたいだけだしな。さてさて、まずは中の様子を確認して――って、扉越しに覗いてちゃ俺が不審者やんけ。ここは堂々と入って――
「しかし困った。増援を送りたいが、こちらも放置はできん」
「そうですね。ダンジョンの方は冒険者ギルドに任せて、我々はディオスピロスの根絶やしを優先――」
「ディオスピロスだって!?」
「「「!?」」」ビクッ!
気になるワードに思わず声をあげてしまい、中にいた騎士たちが一斉にこちらへ振り向く。
「お、お前たちは先ほどの」
「わりぃ、盗み聞きするつもりじゃなかったんだが(←覗き見はしていたけどな)ディオスピロスって聞こえちまってさ」
「ディオスピロスを知っているのか?」
「ああ。けっこう大きめな闇ギルドだろ? 奴らはラーツガルフの王都に乗り込んで来たから壊滅させたんだ。ボスの死体も確認したから間違いないと思うんだが」
やったのはビガロだけどな。名前を出すとややこしくなるからここでは伏せるけど。
「壊滅……か。おめでとうとは言っておくが、ディオスピロスの活動範囲は1つの国だけじゃない。ここミリオネックやアレクシス王国にまで及んでいる」
「そ、そんな広範囲に!? じゃあ俺たちが壊滅させたのは……」
「活動拠点の内の1つ。言うならばラーツガルフ支部――と言ったところではないか?」
「マジか……」
闇ギルドを甘く見ていたな。ミリオネックは大平原の東でアレクシス王国は南だ。そこまで巨大ならいずれまたラーツガルフに現れるかもしれない。
「そう言えばキミ、どこかで聞いた名前だと思ったら、ラーツガルフで活躍しているあのマサルではないか? なんでもナイトメアという巨大悪魔を討伐したと噂になっているが」
「え……もう他国にまで広まってるのか!?」
「何驚いてんだよマサル。プラーガ帝国から手紙貰ったばっかじゃん」
そういやそうだった。しかし噂が広がるのは早いもんだとつくづく実感するねぇ。
「そうだ、もし良ければだがマサル殿、ディオスピロスの排除に協力してもらえないだろうか? 実績のある貴殿になら安心して任せられるのだが……どうだろう?」
「そういう事なら任せてくれ。連中の息の根をバッチリ止めてきてやるぜ!」
「それはありがたい! 奴らの潜伏化は判明しているが大勢で乗り込むと逃げられてしまうのでな。かといって少数だと返り討ちで困っていたのだよ」
「なぁに、俺に任せろって!」
★★★★★
「――で、安請け合いしたと。いいように使われてますね」
宿で合流したら、またロージアに呆れられた。
「俺が言うのもなんだが、マサルは猪突猛進すぎないか?」
「だよね~。本来の目的を忘れるところとかね~」
「いや、忘れちゃいないぞ? 優先順位はプラーガ帝国で武術大会に出場することだ」
「ではたった数日でディオスピロスを壊滅させると?」
「あ~~~」
「厳しい……か?」
「当たり前です! そもそも活躍拠点が1ヵ所だけとは限らないじゃありませんか。武術大会まで約20日。移動時間を含めると絶望的と言わざるを得ません」
「うぐ……。で、でもクーガも賛成してくれたし――」
「何も考えていないクーガを引き合いに出してはいけません」
「はい……」
名が知られてると思ってつい舞い上がっちまった。断ると悪評が流れちまうし、こりゃ困ったぞ……。
「マサルさん、何をボサッとしているのです? 時間は限られているのですから、今すぐ討伐に向かいますよ」
「え……」
「皆さんもよろしいですね?」
「もちろんだ。俺のハンマーが唸るってもんだぞ!」
「ん~、夜更かしとか美容に良くないと思うんだけど~。ま、修行だと思って割り切りますか~」
「行くんなら早くしようぜ? クーガ様にかかりゃ晩飯前だぜ!」
おお、いいなこれ~。これぞ助け合いの精神ってやつだ。我ながら良い仲間を持ったもんだ。
「よっしゃ。そんじゃ俺の名誉のためにも気合い入れて行くか~!」
「いいえ。マサルさんは少し反省してください。でなければクーガの事をとやかく言えませんよ?」
「はい……」
「ん? あたいがどうかしたか?」
「何も考えずに行動する姿は愚かで素晴らしいと言ったのです」
「おお、そっかそっか!」
「(相変わらずバカですね)」
★★★★★
ロージアの辛辣な反応にめげず、シーロスから少し離れた山奥の村へとやって来た。騎士団の話だと村の住人に成り済ましているらしいんだが、爺さん婆さんバッカリでそれっぽい連中の欠片も見えない。
「っかし~な~。騎士団に騙されたか?」
「それだと何のメリットも騎士団にはありません。もう少し探ってみましょう」
「そうするか」
「も~、2人共そんな身構えないで、堂々と聞いてみたらいいじゃない」
「ちょ、シュワユーズ!?」
そう言ってシュワユーズが洗濯物を干している老婆に近付いていく。
「ハロー、お婆さん。この村って若い人たちは居ないのかな~?」
「おや旅の人たち。見ての通り過疎化が進んだ村での。若い衆はみ~んなシーロスの街へ越して行ったで」
「でもあそこに酒場があるし、雑貨屋もあるじゃない。それに何より教会。過疎ってるなら教会なんて利用しなくない?」
「ハッハッハッ、昔の名残だよ。私も若い頃は金を稼ぐのに使っていたがの」
んん? 教会で金を稼ぐ? それに過疎ってても利用者は居そうなもんだが。
「シュワユーズ、今のってどういう意味だ?」
「そりゃもちろん――って、あ~なるほど。マサルくんは知らないんだね。教会って言うのは裏の顔があって、若い女の子が夜のお相手をするのに使われてるんだよ。つまりエッチィやつね。都会とは違ってそういう店は田舎には無いから、代わりに教会が使われるようになったのが始まりらしいよ」
「ほほぅ」
面白い知識が増えた。これからは過疎地の教会をめぐるのも悪くはな――
「……マサルさん。あわよくば自分も利用したい等と考えてませんか?」
「…………」ギクッ!
相変わらずなんて鋭いんだロージアは。しかのこの凍てつくような視線。ここは上手く誤魔化さなければ。
「そ、そんな事はないぞ? むしろ神に対して罰当たりだと憤っていたところだ。――おい婆さん、隠し事をしても無駄だぜ? この村に裏稼業の連中が潜伏してるのは分かってんだからな!」
「ホッホッホッ! ならば気の済むまで調べてみるがいいさね。どうせな~んも見つかりゃせんわぃ」
「言われなくても――」
「待って、マサルくん」
教会へ踏み込もうとしたらシュワユーズに止められた。
「中を見る必要はないよ」
「へ? じゃあどうやって……」
「フフ、こうするんだよ――そりゃ!」
「っ!」
シュッ!
「これ娘っ子、なんばすっとね!?」
「シュワユーズ、お前いきなり婆さんに斬りかかるなんて――」
「でもほら、このお婆さんってばあんな鋭い斬撃を回避しちゃったよ? 常人に不可能だと思わない?」
言われて気付いた。至近距離での抜刀に反応できる婆様なんざ、常人には居ないってな。
「おい婆さん、アンタまさか!」
「チッ! これだから感鋭い魔族は嫌いなんだ。お前たち、さっさと出てきな!」
ザザザザッ!
今の今まで俺たちを監視していたらしく、茂みや物陰からダガーを持った男女が周囲に出現。予期せず囲まれる形になってしまった。
「そうか。つまり村全体がディオスピロスのアジトってわけだ」
「ハッ、そこまで調べたのかい。なら仕方ないねぇ。藪をつついた代償はアンタらの命で払ってもらおうかねぇ!」




