パワフル商家令嬢と正義のヒーロー
すでに武器を構えているディオスピロスの構成員たち。トラップでの一掃は簡単だが、あまりに強力だと逃げられちまう。そこで俺が選択したのは魔物の召喚だ。
「出てこい、グリーンウルフ!」
シュシュシュシューーーーーーン!
「グリーンウルフの群れを瞬時に召喚しただと!?」
「気をつけろ、コイツは召喚士だ!」
俺たちを取り囲む連中を更に囲むように召喚してやった。数にして30体。Fランクの魔物とは言え、俺たちだけに集中はできなくなっただろう。
「おいお~い、ザコ犬にビビってんのかぁ? あたいに背中向けた奴ぁ即座にあの世行きだぜ!」
「ヒグッ――――」
「ヒィ!? 一撃で首を跳ねやがった! 何だこの女、コイツもただの獣人じゃねぇ!」
さっそく切り込み隊長のクーガが先陣を切る。そこへカルロスやロージアも加わり、構成員共の混乱は加速していく。
俺だってサボっちゃいないぞ? グリーンウルフに細かく指示を出してるからな。
そんな中でリーダー格と思われる婆さんはシュワユーズが相手をしていた。
「ったく、召喚士を同伴とは厄介なことをしてくれたねぇ? しかも腕の立つ獣人やドワーフもいるときた。そして娘っ子、お前さんの振るう剣も熟練者のそれだ。あんたら一体何者だい?」
「ただの冒険者だよ。ラーツガルフのディオスピロスを壊滅した極普通のね」
「フン。謙虚か嫌味か知らないが、闇ギルドを潰す輩を普通の冒険者とは言わないんだよ。大体にして村人への偽装は完璧だったはず。殺気も消したし不自然に目を合わさないよう注意した。それをお前さんは見破ったんだ」
「ああ、それね。だったら教えてあげる。洗濯物はね――」
バッキィィィン!
「しまっ――――ダガーが!?」
「日が落ちてから干さないんだよ」
何度か打ち合った末、婆さんのダガーを叩き壊したことで軍配はシュワユーズに上がる。闇ギルドとは言え、武器を壊されちゃどうにもならないだろう。
「お~し、こっちは終わったぜ~!」
「殆どはクーガが倒しましたがね」
周囲の構成員も全て倒し、ロージアたちが縛り上げていた。これで見える範囲では全員拘束したと思うが。
「……で、婆さんがこの村のリーダーだよな? 他に仲間は?」
「フッ、どうだかねぇ。知りたきゃ調べりゃいいさね」
「そうですよマサルさん。時間も惜しいことですし、後は騎士団に任せて私たちは引き上げましょう」
「フッ……」
なぜか余裕顔の婆さんが気に食わないが、俺には武術大会に出場するという目的がある。そうとなれば長居は無用――
「グルル……ウォンウォン!」
「ん? どうしたんだ?」
一体のグリーンウルフが教会に向かって吠え始めた。すると続けとばかりに他のウルフも次々と吠え出す有り様。
「教会にも敵が?」
「…………」
婆さんは何も答えない。いや、心なしか焦ってるようにも見える。
「カルロス、教会の扉を開けてくれ。グリーンウルフを突入させる」
「任せろ、扉ごと叩き壊してやるぞ!」
ドガァァァン!
カルロスのハンマーで扉が全壊し、透かさずグリーンウルフが入り込む――が……
「クゥ~~~ン……」
「どうした――え、匂いが途切れた?」
「クゥン」
つまりは逃げられたってことか。大方マジックアイテムでどこかに転移しやがったんだろう。
「フフ、残念だったねぇ? お前さんらがもう少し賢かったら捕えてただろうに」
「さっきから失言が多いぞ婆さん。今のでリーダーが逃げたってのが丸分かりだ」
「フン……」
出来れば全員捕えたかったけどな。それでも20人近くも拘束したのは上出来か。そろそろ暗くなってきたし、今日のところは――っと、ロージアから念話だ。
『マサルさん、奥の懺悔室に転移装置を発見しました。起動すれば追跡可能です』
『ナイスロージア! で、どこに繋がってるか分かるのか?』
『行ってみないことには何とも。ですが行く先は1つだけなので、危険はないかと』
なら作戦続行だ。このままボスも捕まえてやろう。
「カルロス、シュワユーズ、ついでにクーガ、教会から先に進めるんだとさ」
「追跡するんだな。じゃあコイツらはどうするんだ?」
「グリーンウルフに見張らせるよ。あ、言っとくけど婆さん。逃げようとしたら食い殺すように命じてあるからな。長生きしたきゃ大人しくしとくんだぜ?」
「チッ、若造が……」
構成員たちを脅し付けた後に転移装置(←転移石を上下動左右に嵌め込んだ個室という単純な作りだが)を発動すると、どこかの小屋の中へと転移した。テーブルに棚と椅子だけという簡素な内装だ。調べてみたが特におかしな点は見つからない。とりあえず外に出てみると……
「どこかの山奥……か? さっきの村も山中だったし、そんなに離れちゃいないのかもな」
「それより見ろよマサル。あっちに複数のテントが見えるぜ? きっと冒険者パーティが野宿してやがんだ。一丁派手に襲ってみっか!」
「バカ言うなクーガ。そんなことすりゃ今度は俺たちが騎士団に追われる側だ」
「ハッ、冗談に決まってんだろ。あたいがザコ相手に奮闘してどうするよ」
コイツが言うと冗談には聞こえないんだよなぁ……。
「ま、本命はあっちさ。ほら、洞穴の前に兵士が立ってんだろ? ありゃダンジョンに違いないぜ」
クーガの言う通り、テントが集まっている反対側には山の斜面に口を開けている洞窟らしきものが見える。2人の兵士が見張っていることから、攻略中のダンジョンってことで間違いなさそうだ。
「ダンジョンか。追われてる奴が逃げ込むにはもってこいだな」
「他に手掛かりもありませんからね。捜索してみるのもよいかと」
「決まりだな。さっそく中に――」
「絶対に大丈夫やて、はよ行くで~~~!」
「お、おい待つんだサイゼリス!」
何だぁ? 若い男女が揉めながら洞窟に入ろうとしてるな?
「はよしぃやシゲル、ダンジョンは待ってはくれないんやで~!」
「いや、ダンジョンは逃げないじゃないか。それにボクたちだけで挑むのは危険だ。他の冒険者に同行を申し出るのが得策だろう」
「せやかてみ~んな断ってきたやろ? 夜は食って寝る時間だ言うてな。それともシゲル、まさか朝まで待て言うんやないやろなぁ?」
「そこは朝まで待つところだろう。キミはいったいいつ寝るんだい……」
「そんないつ寝る~なんて、シゲルは積極的やなぁ? ウチまだ心の準備が――」
「誤魔化すな~~~!」
う~む、痴話喧嘩なら他所でやって欲しいものだが。でも俺らには関係ないな。
「ほなシゲル、妥協案や。そこの冒険者パーティと同行しよや」
あ、なんか巻き込まれそう。ここは無視してさっさと進むのが――
「なぁなぁ、そこのごっつうイケメンな兄ちゃん。ダンジョン入るならウチらも連れてってくれへん?」
「おぅ、見る目あるじゃん。もちろんオッケーだぜ!」
「ホンマに? ありがと~う!」
めっちゃええ娘やん! それによく見ると美少女と言ってもいいくらいの顔立ちだし、美女美少女を護るのが男ってもんだろ。
「マサルさん、貴方という方は……」
「なんで呆れてるん?」
「そりゃアレだ。マサルが下心丸出しだからだろ。あたいも引くくらいに」
「いやいや、困った時はお互い様じゃないか。それに2人だけでダンジョンに挑もうなんて、何か事情があるに違いない。そうだろ?」
「せや。ウチらにはおっきな野望があってやな――」
下心を誤魔化すため強引に話を進めた。軽く自己紹介をした後にダンジョンに足を踏み入れ、詳しく事情を聞くことに。
この少女――クリスティーナの実家はミリオネック商業連合国の商家であり、名声を上げて貴族入りするのを目標としているのだという。
ここで出てきた貴族入りというフレーズ。一般人が簡単には成れないはずだが、どうもミリオネックは普通の国とは違うらしく、商売を成功した者が貴族を名乗れるという変わった風習があるそうだ。
まぁそれは置いといて、クリスティーナも貴族入りを果たすため、付人であるシゲルを伴ってダンジョンにやって来た。
「――という感じやな。どや、凄いやろ?」
「おぅ、よく噛まずに長文を読み上げたな」
「そこじゃないっちゅうねん!」
「ハハッ、冗談だよ」
「それよりクリスティーナさん。ダンジョンと商売がどのように結び付くのか、私には分からないのですが?」
「お、さっすがロージアはん、目の付け所がマサルとは大違いやないか。ま、バレちゃあしゃ~ないわな。実はウチには特殊スキルっちゅ~もんが有ってやな、お宝が近いと匂ってくるんよ」
そりゃ随分と便利な鼻を持っているな。商人なんかより冒険者の方が合ってそうな気もするぞ。
「ウチのスキルでお宝ゲット。更にそれらを高値で売れば、あっちゅう間に大金持ちや」
「それでダンジョンに。しかし2人だけだと危険では?」
「大丈夫やろ。なんでもこのダンジョンは攻略のために多くの冒険者が詰めかけてるさかいな。騎士団も攻略に乗り出してるらしいけど、なんや芳しくないって話やで」
「他力本願ですか……」
「利用できるもんは何でも利用する。商売人の鉄則や。現にマサルたちが手伝ってくれてるやん。もしウチらが貴族入りしたら専属で雇ってもええで!」
「フフ、それはお断りします」
「チェ! ロージアはん、優しそうな見た目でキッチリしてんなぁ――――あ、さっそくお宝の匂いや!」
スキルが発動したようで、目をキラキラさせたクリスティーナが突然走り出す。
「クリス、走ってはダメだ! 足音を聞いて魔物が集まってくる!」
「っておい、シゲルまで走ってんじゃん!」
さっそく素人らしさを炸裂させたかと思い俺たちも2人を追った。
「「「ギ、ギギギギ」」」
「ちょ、こっちくんなやバケモノ! シッシッシッシッ!」
クリスティーナはすぐに見つかった。脇道に逸れたところでジェルスラッグという巨大ナメクジに追い込まれていて、シゲルが彼女を庇っている。
「ったく世話がやける。待ってろ、すぐに助け――」
「変――――身! と~~~~~~ぅ!」
「は――――え?」
シゲルの全身が光ったかと思えば、何とも言えない変な仮面をつけた全身青の戦隊ヒーロー? に変身した。
「モンスターよ、ボクが相手だ――てゃ!」
「ギギッ!?」
「次っ!」
「ギギェェェ!」
「これで最後!」
「ギシェ!」
どうやらそこそこ強いらしく、Eランクの魔物をあっという間に蹴散らしてしまった。
「ああ~ん! シゲル~~~、怖かった~~~!」
「ふぅ、だから危ないと言っただろう。ここから先は絶対にボクから離れないように。いいね?」
「うん……」
そしてヒシッと抱き合う2人。端から見てもお似合いの2人だと思った。
「あの~、どうして私たちは2人のラブロマンスに付き合っているのでしょう?」
「さぁ? でもロージアってこういうの好きそうじゃん」
「いいえ。目の前でかまされるとムカついてきます」
「……確かに」
いや、いつまで見てればいいんですかね?




