薬草? いや毒草です
雨に煽られる形でヨム族の村へと駆け込んだ俺たちは、そこの宿屋で族長の息子に手合わせを申し込まれたので俺が相手をすることに。結果は俺の勝ちに終わったものの、そいつは俺たちを見込んで依頼したい事があると言う。
そこで族長の息子――エマルガは、姿勢を正して真剣な表情へと変わった。
「ここから東に進んだところにミリオネックの連中が作った栽培所が有るんだけど、どうも栽培している物が毒草らしいんだ」
「毒草? 消毒液でも作ってんのか?」
「残念ながら逆だよ。奴らが栽培しているのはバドラクスっていう毒草で、用法によっては瞬殺も可能なほど強力な部類らしい」
そりゃまた物騒な話だ。恐らく流通先は闇ギルドや貴族連中なんだろう。
「なんとなく読めたぜ。その栽培所を潰すのに協力して欲しいんだな? いいぜ、協力してやるよ」
「ありがとう、とても助かるよ。規模が広くて俺1人じゃとても無理そうだったからさ」
「――って、お待ちください。拠点を潰すのにエマルガさんお一人ですか?」
「あ……うん……」
ロージアに指摘され、途端に縮こまるエマルガ。何か訳が有りそうだと思ったら案の定だった。
「少し前なんだけどネクロマンサーに共同墓地を荒らされて、アンデッドが大量発生しちまったんだ。お陰で近隣の村が幾つもやられちゃって、辛うじて残った村を救済するには男手が必要でさ。それで自警団候補の若い奴らが全員引き抜かれちゃって……」
ネクロマンサーか。確かナイトメア四天王のオルロフがやったんだったな。墓地の調査に乗り出した冒険者ギルドのギルマスも殺されたしで、こっちも散々だった。
「そういう訳でさ、駆り出されたメンバーはいつ戻るか分からない。けど奴らの拠点は早く潰したい。そこへマサルたちがやって来たんだ」
ヨム族にとっちゃとばっちりだな。オルロフの件は俺たちも関わってるし、ロージアも納得した顔をエマルガに向ける。
「承知しました。こうしてる間にも彼らは毒を抽出している事でしょうし、直ぐにでも向かいましょう」
善は急げ――じゃないんだが、久々戦闘になりそうだって事で雨の中をスイスイと進んでいく俺たち。いやほら、ここら辺って小動物みたいな魔物しか出なくてさ、みんな退屈してたんだよ(←特にクーガ)。そこへ来て戦闘にありつけるかもしれないとなりゃ足取りも軽いってもんさ。
でもって一時間ほどで現場に来てみりゃ紫の毒草がところ狭しと育ってるじゃないの。しかも高い柵で囲って簡単には侵入できないよう施してある。
「これ全部毒草なのか? まるで普通の畑と変わんない規模だぞ」
「バドラクスの栽培は殆どの国で禁止されてるからね。それにしっかりと日の光に当てなきゃならないし適度な風も必要だから、地下での栽培は絶対に不可能なんだ。その点この平原は全てをクリアーしているから、連中はそこに目をつけたんだと思う」
「でもミリオネック商業連合国の連中なんだよな?」
「使者を送ったけれど、向こうは把握してないって。だから煮るなり焼くなり好きにしろって返答が来たよ」
なら遠慮はいらないな。幸い雨は上がったようだし、悪の目――いや、毒草は摘み取ってやろう。
「畑の中心に簡素な建物が見えるだろ? あそこで寝泊まりしてるらしい。毒草の方は俺が焼き払っておくから、中の連中はマサルたちに任せるよ」
「分かった。けど畑は湿ってるぞ?」
「大丈夫。上手くやってやるさ」
そう言って軽快に走り出したエマルガは次々と火矢を放つ。矢に何らかの細工を施しているのか、瞬く間に燃え広がっていった。
「上手くやってるみたいだな」
「では私たちも踏み込みましょう」
「おっしゃ、任せろ!」
ドン!
待ってましたとばかりにクーガが扉を蹴り開ける。その音に驚き、数人の男たちが奥から飛び出してきた。
「おぉう、ワスの居る拠点で騒いでいるのはどこのどいつじゃおりゃ~~~!」
「アニキ、入口に侵入者ですぜ!」
「さっさとやっつけちゃいましょう!」
上半身裸で黒いブーメランパンツを履いたマッチョ男と、その手下と思われるモブ男2人が俺たちの前に立ち塞がった。というかマッチョ男、ちょいと場違いな気がするんだが、まぁ気にしないでおこう。
「お前らが毒草を育ててるのは分かってる。悪いが拘束させてもらうぞ」
「ぬぅあにぃ!? 毒草だとぉぉぉう!? ワレェ、端正込めて育てている薬草を毒草呼ばわりとは実に遺憾! これでどれだけの命が救われるのか、貴様らには分からないのかぁ!」
「……は? 薬草?」
「おうとも! この土地なら質の良い薬草が作れるからと、警備も兼ねて栽培を頼まれておるのだぁぁぁ!」
おんやぁ? 何だか聞いた話と違うぞ~。
俺は不審に思いながらもロージアに視線を送ると、彼女は首を横に振り……
「いいえ、この目で確認しましたが、確かにあれらは毒草です。あれを薬草に変えるのは不可能と言ってよいでしょう」
いつの間にやらロージアはキチンと調べていたようだ。しかし連中――特にマッチョ俺は納得がいかないらしく、ポージングを決めながらも反論してきた。
「何をでたらめな! 確かに依頼人からは薬草だと聞いておる。それともまさか、依頼人が嘘を付いているとでも言うつもりか!?」
「私からするとそうなりますね」
「ガッテェェェム! そんなはずはない! あの依頼人は名前こそ名乗らなかったが、仕事がなくて困っていた我々に親切丁寧にこの仕事を紹介してくれたのだ! 恩人とも言える彼らを嘘つき呼ばわりするのなら、力でねじ伏せてくれようぞ!」
名前も名乗らない依頼人……ねぇ。その時点で怪しMAXなんだけどな。
「何で名前すら知らない奴の依頼を受けてんだよ……」
「おお、よくぞ聞いてくれた! 振り替えること1ヶ月。我々は所持金を騙しとられてその日食うのも困る有り様だった。事の始まりは――」
あ、なんか話が長くなるっぽい? 不安に駆られていると、手下の1人がソッと耳打ちしてきた。
「バーランのアニキは話し出すと長いんよ。だから簡単に説明しておくけど、ミリオネックの露店で品物を物色していた時に幾つかの売り物を壊しちまってさ、そんで高額な賠償金を吹っ掛けられて有り金を全部取られてちまったのさ」
「おいおい、それって壊れかけの物を使った詐欺じゃないのか?」
「俺らもそう助言したんだけど、壊した自分が全て悪いって言出して、結局有り金を全部渡すことで決着させちまったのさ。そんでもって明日からどうやって生活しようかって悩んでいると、金を巻き上げた商人が仕事を紹介してくれて今に至るってわけさ」
「お、おぅ……」
つまりこのマッチョ、とんだお人好しってことだ。
「――となればだ、当然ワスは人生を棒に振ってでも――」
「ちょい待った。ハッキリ言うがバーラン、あんたらは――いや、正確にはあんた1人だが、あんた悪徳商人に騙されてるぞ」
「むぐぐぐ……まだ言うか! ワレの恩人を侮辱する発言、見過ごすしはせんぞ!」
「だからそもそもが罠なんだって。壊れた商品だって元から壊れてたんだろうし、紹介された仕事だって犯罪者に加担するものだ。つまりは詐欺なんだよ」
「ガッディィィム! 違うと言うとろうが! その証拠に「これは詐欺ではない」と恩人が言っておったのだからな!」
ダメだこりゃ……。
「すまんロージア、俺はちょっと目眩がしてきた……」
「私は頭痛がしてきました」
「なんだお主ら、体調が優れぬのか? ならば栽培している薬草を分けてやってもよいが」
「「余計悪化するわ(します)!」」
何だろう、普通に戦うより疲労感が半端ないのは。根は善人なだけに叩きのめすのも抵抗がある。
「しかしなんだ、せっかく来てくれたところを申し訳ないのだが、見知らぬ輩が訪ねて来たら生かして帰すなと恩人から言われていてな、残念だがお主らにはここに留まってもらうぞ」
「一応聞くけど留まってどうするんだ?」
「ここに居る限りは殺さずに済むのだ。すまないが我慢してくれ」
「…………」
恐らくだが心優しいバーランが考え抜いた末、先の答えにたどり着いたんだろう。ホントどうしようもねぇお人好しだ。
しかしアホな上に頑固となれば話し合いでの解決は無理。仕方なくバーランたちを拘束しようとしたところ、俺たちの後ろから威圧的な声が聴こえてきた。
「おいテメェら、大人しくしなきゃこのガキが真っ先に昇天しちまうぜぇ?」
振り向けば目付きの悪い数人の男が入口に立っており、手前には首にナイフを当てられたエマルガの姿も。
「エマルガ!」
「ゴメンよマサル。火をつけるのに夢中になってて、コイツらに気付かなかったんだ」
「そういう訳だ。分かったら武器を捨てるこったなぁ!」
それなら仕方ない。ここは大人しく武器を捨てる――フリをしてトラップで片付けようとしたところ、意外な人物が先に動いた。
「ガッディィィム! 恩人よ、人質を取るとは何事ぞ! 彼らは侵入者なれど、対話を試みた優しき民ぞ!」
「はぁ? ま~だそんな事を言っとるんか。ここに来たって事は毒草の栽培がバレてるって事だ。なら口封じするしかないだろう」
なるほど。今喋ってる男にバーランは騙されたのか。
「気でも狂ったか恩人よ! 我々が育てているのは薬草に他ならぬ!」
「ちょ、ちょっと待て。まさかお前、本気で薬草だと思ってたのか?」
「無論だ! それを毒草などと戯言を! ワスの鉄拳が唸るぞ~~~ぃ!」
ボグッ!
「ほげぇ!?」
バーランのラリアットが炸裂し、恩人の男は数メートル先まで飛ばされた。バーランの腕力が強いだけに、男は白目を向いて気絶する。その隙に呆気に取られていた残りの連中を俺たちで拘束していく。
「協力に感謝するぜバーラン。アンタのお陰で無駄な血を流さずにすんだ」
「ぬぅ……しかし恩人を手に掛けてしまった。金の無いワスらはまた路頭に迷うことになったぞぃ。すまんなお前たち」
「何言ってるんすか水臭ぇ」
「そうですよ。例えどんなに生活が苦しくても俺たちゃアニキについていきますって」
「お前たち……」
感動的なシーンを演出してるようだが、元はと言えばバーランが詐欺られたせいじゃないか? 気にしてないならいいけども。
しかし捨てる神あれば拾う神ありとも言うべきか、事情を察したエマルガが声をかけた。
「なぁアンタら、仕事を探してるなら俺の自警団に加わらないか? 俺としては助けてもらった恩があるし、見回りとか家畜の世話とか地味な仕事でよければだけど」
「何と! それはまことか少年よ!?」
「うん。報酬も出すし、普通に生活するだけなら問題ないと思うよ」
「ならばこのバーラン、命尽きるまでお主に忠誠を誓わん!」
「いや、そんな大袈裟な……」
よく分からんうちに解決したっぽい。栽培所も機能しなくなるだろうし、プラーガ帝国に行くついでにミリオネックまで拘束した連中を運んでくか。




