新参者
「いらっしゃいませマサル様。本日もジャニオ様は御一緒ではないのですね。どうしてこうも巡り合わせが悪いのでしょう……」
冒険者ギルドに着いて早々、ガックリと肩を落とす受付嬢。それ、普通に失礼だからね?
つ~かお前に会わせるために来てるわけじゃねぇ! 冒険者ランクを上げるために日々の依頼を受けに来てるんだ!
「ったく、いい加減ジャニオは諦めろ」
「その通り。ジャニオは見世物ではないのです。貴女は分を弁えなさい」
「は~い、すみませ~ん」
この受付嬢、何気に耐性ついてきたな。以前なら舌打ちしてきただろうに。
「それより用が無いのなら譲ってあげてください」
「ん? あ……」
受付嬢に言われて気付いた。俺たちの後ろに中学生くらいの女の子と、その子より幼い見た目の男児2人が並んでいることに。
「すまんな、先いいぞ」
「…………」ペコリ
年長と思われる女の子が会釈をし、受付嬢と会話を始めた。普段あまり見ない年齢層なだけに、悪いと思いつつも聞き耳を立ててみる。
するとどうやら彼ら、依頼者側ではなく受ける側――つまり、冒険者だというのだ。
俺とロージアは邪魔にならないようテーブル席へと場所を移した。
「あんな子供まで冒険者とは驚いたな。それともアレか? 魔族は人間より身体能力が高いから幼少の子でも強いとか?」
「そういったケースもあるでしょうが、あの子たちは違いますね。緊張してぎこちない動きですし、周囲への警戒も皆無。どこもかしこも隙だらけです」
なら受けられるのは採取依頼だろうな。まぁ命あっての物種だし、最初のうちは無理をしないこった。
なぁんて心の中でお節介を焼いていると、突然女の子が声を荒らげる。
「どうしてダメなんですか!?」
何事かとロビーにいる全員から注目が集まる。受付嬢は必死に宥めようとするも、女の子は止まらない。
「お、落ち着いて――」
「落ち着いてなんかいられません! 私たちにはお金が必要なんです! 採取依頼だけじゃ満足にお酒が買えないんです!」
「だから落ち着いて。そうやって冷静さを失うと、いざモンスターとの戦闘でも足元を掬われるわよ?」
「…………」
女の子は悔しそうに押し黙るが、受付嬢の言う事はもっともだ。まともに剣を振るった事もなさそうだし、あんなんじゃ生還はできないだろう。
「すまんロージア。ちょっと……」
「どうしたのですかマサルさん。まさかあの3人を助けようと考えてます?」
「う……うん、まぁね。酒が欲しいだけなら金で解決できると思ってさ」
俺は徐に席を立ち、項垂れている女の子へと声をかけた。
「どうした、その歳で酒にハマっちまったのか?」
「え……い、いえ、別にお酒が好きな訳ではなくって……。でもどうしても必要で……」
どうやら酒好きではなさそうだ。
「訳ありか。俺でよかったら話を聞くぞ? こう見えてもここらじゃ有名なんでな」
「そうそう。このお兄さん、最近知名度がうなぎ上りのマサルさんだよ」
「「「えっ!?」」」
受付嬢から名前を聞くや否や、子供たちの目がキラキラと輝き出した。そして嬉しそうに俺の手を取り……
「はじめましてマサルさん! 私は駆け出し冒険者のラナで、こっちの2人はジェロにグラスと言います!」
「お、おぅ……」
「あのカルバーン様から指名依頼を受け、見事達成したと聞き及んでおります! そんなマサルを見込んで相談したいのですが!」
「う、うん……」
おとなしそうな外見とは裏腹なラナに圧倒され、事の経緯を聞き出してみると……
「ふむふむ。キミたちが住んでいる貧民区にならず者が住み着いて、周囲の住民に無茶な要求を突き付けていると?」
「そうなんです。支給される食糧はもちろん、稼いだお金まで巻き上げられて、逆らうと暴力を振るうしで皆困っているんです。けれどお酒を飲んでいる時だけは上機嫌なので、何とかご機嫌取りをと……」
う~ん、それだと酒を要求される可能性が高まるだけで何にも解決はしないな。
「面倒そうな連中だな。親は何て言ってるんだ?」
「その……私たちに両親は……」
「あ~すまん! 俺が悪かった。じゃあアレだ、騎士団に通報して――」
「あんな連中でも先日発生したアンデッド騒動の功労者なんです。騎士団としても使える戦力を潰したくないようで……」
なぁなぁで済まされた――か。だったら最後の手段だ。
「ならず者のところへ案内してくれ。俺が叩き出してやる」
「ほ、本当ですか!?」
「ああ。何ならすぐにでも――」
「待ってください。それだけでは解決しませんよ」
さっそくブチのめしに掛かろうかというところでロージアに止められた。
「件のならず者を追い出したとしても、別の者が来る可能性があります。その度に我々が出向くのでは埒が明きません。それともマサルさんは騎士団の役割を毎回ボランティアで行うおつもりで?」
「そ、そうは言わないが……。でも放っては置けないだろ?」
「何も放置しろと言ってるのではありません。ならず者が近寄り難くなればいいのです」
「近寄り難く?」
「私に考えがあります」
つまりどういう事かって聞くと、なんとロージアは子供たちをダンジョンに連れて来ちまったんだ。
当然の如くいきなりで困惑する俺と子供たち。出迎えたジャニオも同様で、どういう意図かとロージアに尋ねる。
「お嬢、この子たちはいったい……」
「ここで彼らを育成します。ジャニオ、しばらくは貴方が面倒をみなさい」
「なるほど。ご命令とあらば」
念話で理由を聞いたらしいジャニオが笑顔で頷く。
「貴女たちも。よろしいですね? マサルさんもこのダンジョンで修行を積んだのですから、貴女たちも頑張りなさい」
「分かりました。いつかマサルさんに追い付けるように頑張ります!」
俺の名前を出した途端、件の3人も嬉しそうに頷いた。
その後すぐに3人はジャニオに連れられ、ダンジョンの奥へと消えて行く。やがて姿が見えなくなると、深くタメ息をついたロージアが俺へと向き直る。
「いいですかマサルさん。人助けをするなとは言いませんが、ある程度の計画性を持たなければすぐに破綻してしまいます。特に彼らのような社会的弱者は助けた後も見守る必要があるのです。安易な考えで助けるだけでは何も解決しませんよ?」
「う……」
ド正論過ぎて言い返せない。確かに安易に首を突っ込んじまったしな。つまり助けると決めた以上は責任持ってやれと。うん、当たり前すぎて余計に何も言えない……。
「すまんかった。次からは考えてから行動するようにする」
「よろしい。では次のミッションです。この後何をすべきか覚えてますか?」
「んん~? 何かあったっけ?」
「…………」
やべっ、体感温度が3度くらい下がった気がする。こりゃ重要な約束事だぞ。絶対零度になる前に思い出せ!
「え、え~と……確か買い出しに行く――だったか?」
「そうですね。それで何を買う予定でしたか?」
「予定……予定予定……」
~~~~~
「じゃあこの戦いが終わったら可愛い服をプレゼントするよ」
「そこまでして死亡フラグを立たせたいのですか……。ですがその約束は魅力的です。是非ともマサルさんのセンスで選んでください」
「分かったよ」
そうか、ギルマスの別荘で口走ったこれか!
~~~~~
「遅くなってすまん。ロージアに似合う可愛い服を買いに行かなきゃな!」
「……今思い出しましたね?」
「い、いや……」
「ですがマサルさんにしては上出来です。日が暮れる前に出掛けましょう」
「おぅ!」
すんでのところでロージアの怒りが爆発するのを退け、王都で富裕層が集まるという噂の服屋で選びに選びに抜いた一点を選択。自信満々にプレゼンした。
「この水色のワンピースなんか良いんじゃないか? 爽やかで夏らしいし、これからの季節にピッタリだ。それに何より通気性が良さそうな点もバッチリだろ?」
「フフ、口が上手いですね。もちろんありがたく使わせてもらいます。ですが……」
「な、何か?」
「夏にピッタリという事は、秋になったら別の服を選んでいただけるのですよね?」
「う……も、もちろん」
「ありがとう御座います。その時が来たらまたお願いしますね」
こうして秋物の服も約束させられたわけだが、俺よりもロージアの方が数段口が上手いんじゃなかろうか? つ~か間違いないよな。
「さてと。服も買ったことだし、どこかで昼飯でも食って――」
「ちょいとゴメンよ!」
ドン!
「うぉっと!? ――って気を付けろ! せっかくのプレゼントが――」
って、抱えてたはずの荷物が無い!? 見れば走り去るクソガキの手にしっかりと掴まれてやがる!
「おいこら、テメェ!」
「へへ~んだ。買い物後によそ見してるやつが悪いんだよ~だ!」
「くぅ……待ちやがれクソガキーーーッ!」
パクッたクソガキを視界に留めてたのが幸いし、即座に追跡する事ができた。ガキの足は速いがダンジョントラップを応用した俺たちから逃げ切れるはずもなく、やがて袋小路に追い込むことに成功する。
「残念だったな。日頃の行いが悪いからこうなるんだよ」
「…………」
「分かったらさっさと返せ。今なら見逃してやらんでもない」
「……ちぇ」
観念したらしいガキが荷物を手渡して――
スルッ!
「「なっ!?」」
「へへっ、誰が返すかバ~カ!」
渡すフリをしてそのまま脇をすり抜けやがった!
「てんめぇぇぇ!」
「お待ちなさい、クソガキが!」
思わずロージアの口まで悪くなる。いや、あのフリは敵ながら見事だったと言わざるを得ない。初見じゃ誰だって騙されるだろう。現にロージアも騙されたしな。
でも本気になった俺たちから逃げられるはずもなく、その後にあっさりと捕まえたけどな。
「ハァ……ハァ……。くっそ~、百戦錬磨のオイラがこんな間抜けな奴らに掴まるなんて……」
「間抜けで悪かったな。それでお前の処遇だが……」
「うっ……」
「本来なら騎士団に突き出してやるところだが、今日は気分がいいからな。特別に見逃してやる。ほら、この金で食料でも買え」
「えっ!?」
俺は金貨数枚を投げ渡した。クソガキは目を丸くしてそれを受け取る。
「お前くらいの身のこなしなら冒険者にでもなれるだろ。その金が無くなる前に頑張って依頼をこなせ。じゃあな」
呆然と立ち尽くすガキを尻目に、俺たちはその場を後にした。
「見逃してよかったのですか?」
「俺なりに考えた結果だよ。処罰するのは簡単でもあいつのその後は変わんないんじゃないかと思ってさ」
冒険者ギルドで関わった3人を思い出しながらそう告げる。
しかしこの後、奇妙な縁で再会することになる。




