閑話:ダンジョンのある生活3
「ようこそ皆様。遠路遙々我がマスターのダンジョンへご来場いただき、誠にありがとう御座います。まだまだ若輩者の身では御座いますが、本日はこのジャニオがエスコートさせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します」
「「「よろしくお願いしま~す、ジャニオ様~!」」」
「まずは当ダンジョンをご案内しますよ。こちらへどうぞ~」
「「「は~い!」」」
執事服を着たジャニオに両目をハートマークにしてついていく女性たち。彼女たちは全員がダンマスもしくはその関係者で、前々から予定されていた【生ジャニオに会いに行こうツアー】のメンバーだ。
そんな彼女たちを尻目に、ロージアが何故か勝ち誇った笑みで見送る。いやいや、ロージアも普段からジャニオに歌わせたり踊らせたりしてるんだからな?
あ、そうそう、男も若干数いたりするんだが、そいつらはシュワユーズの部屋で剣舞を見学してるぜ。どうも女性たちの付き添いらしく、他にする事が無いんだとか。なんつ~か哀れになってきた……。
「あ、マサルさんこんにちは~。ジャニオ様ファンクラブ会長のユーリです」
「おぅ、ちわっす。しっかし凄い人数だなぁ女だけで30人近く居ないか?」
「正確には25人です。あ、あたしを含めたら26人でした」
そんな人数が大挙して押し寄せて来たから最初は新手の敵かと思ったけどな。でもよく聞いたら女性全員がジャニオコールしてんだもんよ。そらそういう理由かと見当つくわな。
「ところであの人はどうしたんですか?」
「あの人?」
「ほら、いつもジャニオ様とのひとときを邪魔してくる粗大ゴミ――じゃなかった、ブローナさんの事です。あの人が居ないのは不思議な感じです」
「ああ、あいつな。ブローナならまだ寝てるよ」
「あら、珍しい」
実は朝食に睡眠薬を仕込んでやったんだ。今は寝室でぐっすり――ってやつさ。
何故そんな事をするのかって? それはブローナに聞いてくれ。ジャニオを独占して他人といざこざを起こすのは何でかってな。いや、聞くまでもないが。
「お~いマサル~。今しがた通りすがった女性の群はなんなんだ~?」
「ほら、前に言ってたろ? ジャニオのファンが遊びに来るって。それが今日なんだよ」
「あ~、ジャニオのな~」
コアルームに入ってきたカルロスが、興味あり気にジャニオの女性ファンたちを眺めている。
比較的若い女が多いためか、どうしても目が行く気持ちは分かる。分かるが、絶対に手を出すなよ? 相手もダンマスなだけに、1000%面倒な事になるからな。
「あんたもジャニオのファンなのか?」
「あ、はいぃ、勿論です! 何と言ってもファンクラブの会長ですから!」
「会長だって!?」
何やらスイッチが入ったらしいカルロスが、ユーリの手を取り懇願を始める。
「ならオイラのファンクラブも立ち上げてくれ! この通りだ!」
「え?」
「会長なんだろ!? だったらファンクラブの1つや2つ、増えるのは何て事ないはずだ!」
「そ、それは……」
「そうすりゃモテないオイラだって選り取り見取りだ。酒池肉林も夢じゃない!」
「え"……」
「なぁ頼む、この通り――」
スチャ……
「その手を離してくださいませんかねぇ?」
「「ひっ!?」」
誰も居なかったはずのところに長身の男が立っており、手にしたダガーをカルロスの首に当てて来た。思わずカルロスと共に俺までビビっちまったぜ。
「え、え~と、あんたは……」
「おっと、自己紹介がまだでしたね。ボクの名前はルカーネロ。ユーリさんの眷属として働いております」
ユーリの眷属は闇ギルドか何かなのか? 気配も感じなかったし、おっそろしいな……。
「と、というかお前ぇ、自己紹介するくらいなら物騒なもん出すなよぉ! つ~か手をどけろぉ!」
「これは失礼。なにぶんドワーフの首は跳ねた事がないので、少々興奮してしまいました。貴方さえよければこのまま昇天と行きたいところですが――」
「良いわけあるかーーーっ!」
なんつ~か、身内にしちゃいけない奴を眷属にしてないか? とんでもなくサイコパスっぽいが……
「もぅルカーネロさんったら。あたしは大丈夫ですからダガーをしまってください。今日はゲストとして来たんですから、流血沙汰はダメですよ?」
「そうは言われましてもここへ来る途中で出会った盗賊共には逃げられてしまいましたからねぇ。獲物を逃した穴埋めには代わりの血が必須じゃありませんか。特に新鮮な血がねぇ。マスターもそうお思いでしょう?」
「思いません!」
おいおい、マジでサイコパスかよ。新鮮な人の血とか見たくねぇわ。
「それにここは嫌な臭いがします。言うなれば腐った魚を寄せ集めたような」
すまんな。シュールストレミングの臭いがまだ残ってんだ。コアルームが開封場所だったからな。
というか思い出させないでくれ。シュールストレミングの話題を出すと、クーガとロージア――特にロージアが苛立つからな。
「やはり嫌な臭いを断つには新たな香りが必要ではないですか。そこで新鮮な血液ですよ! あのブラッティな香りと鮮やかな赤色でこの場を彩るのです。最高じゃありませんか!」
この妙なプレゼンは何なんだ。コイツ他人ん家を血で染める気かよ……
「つまりはアレです。ボクとしても欲求不満なのですよ。それを解消せねば――」
「へぇ、欲求不満ねぇ……」
欲求不満というワードに反応したクーガがのっそりと姿を現した。
「よく見りゃ顔はそこそこ良いじゃないか。そんでもって腕っぷしは確かときた」
「そ、それはどうも」
目を細めてにじり寄るクーガにルカーネロは後ずさる。端から見れば完全に狩る者と狩られる者の関係だ。
「どうだアンタ、今からあたいと――」
ドン!
「やらないか?」ぬぎっ!
その場の全員が衝撃を受けた。ルカーネロを壁際に追い詰めたクーガが上半身をはだけさせ、壁ドンをかましたんだ。
「ちょ……おま……なんてカッコ――」
「ダメですマサルさんは見てはいけません!」
「あ……う……あ……」
「ああ、ルカーネロさんしっかり! というか貴女は何なんです!? 他人の眷属を誘惑しないでください!」
「あ? 恋愛は自由だろ。あたいの邪魔しようってんならテメェからやっちまうぞ!?」
「ちょ、ちょっと止めてください、暴力反対です! そんな性格だと将来結婚できませんよ!?」
「るせーーーっ! あたいはコイツに孕ませてもらうんだ! 優秀な遺伝子ゲットだぜ!」
「こら二人共、止めなさい!」
「…………」マジマジ
そこからは修羅場だった。
ユーリとクーガの取っ組み合いが始まり、その下でブルブルと震えているルカーネロ(コイツ、女性の裸に耐性ないのか?)。
そのやり取りをガン見しているカルロス(多分クーガの胸を凝視してやがったな?)に、俺の目を隠しながら二人を止めようとするロージアという図だ。
「落ち着きなさい貴女たち」
「これが落ち着いてられますか! あたしの眷属が襲われたんですよ!?」
「襲ったんじゃねぇ、寝取ろうとしてんだ」
「同じです!」
「だから貴女たち――」
「だいたい貧相な身体で偉そうに仕切ろうとしないでください」
「そ~だそ~だ。貧乳ロージアは引っ込んでろ~」
「…………」
「……あ"?」
後の事は記憶が曖昧だ。気付けば騒ぎが収まってたんだからな。
ただ1つ確かな事は、何かをやり遂げたという清々しい表情で、ロージアが茶を啜ってた事だろう。
「ユーリ様、今から1曲披露するのでスタジオに――って、これはいったい……」
ジャニオが見たものは、テーブルで向かい合ってお茶をする俺とロージア。それと無造作に置かれた4つの氷像だ。
「コアルームで暴れたのでペナルティを受けてもらいました。自然解凍が終わったらスタジオに向かわせますよ」
「そそ……そう、ですか……」
冷や汗を拭いながらジャニオは足早に去って行った。ロージアが怒りを解放したと理解したんだろう。
ちなみにクーガとユーリのみならずカルロスとルカーネロまで氷像になった理由だが、カルロスは……まぁアレだ。女性の身体を凝視するもんじゃないと言いたかったんだろう。
一方のルカーネロだが、シュールストレミングというフレーズが癇に障ったらしい。そもそも自分が住んでいるダンジョンを嫌な臭いと言われていい気分じゃないしな。
「皆様、本日は実に楽しいひとときでした。またのご来場をお待ちしておりますよ」マエバキラ~ン
「「「は~い、また来ま~す!」」」
ジャニオのリサイタルは無事終了し、9割の来客は帰路につく。残りの1割はというと……
「――という訳で、本日からこのダンジョンでお世話になります。ジャニオ様のファンクラブ会長としてこのユーリを、何卒宜しくお願い致します!」
「「「……はい?」」」
これには全員がクエスチョンマークを上げる。
「いやいやいや、ちょっと待ってほしい。何がどうしてそうなったのかが全く分からないんだが?」
「だって、ここに来るにはダンジョンを畳むしかなかったんですから、仕方ないじゃないですか」
「だから待てっての。ダンジョンを空にできないのは分かるが、それなら無理して来なくても――」
「何言ってるんですか! それだとファンクラブ会長としての面子が立たないし、何より生ジャニオ様を一生拝めないじゃないですか! ジャニオ様とダンジョンとどっちが大事だと思ってるんです!?」
そこはダンジョンじゃないのかよ……
「とにかく、あたしには帰る場所がないんですから、ここに住むのは決定です!」
「だからな、決定する前に決定権のある俺を説得するのが道理だろ。俺の許可なく住み着く事はできないぞ」
鼻息荒く腕組みをする俺とウンウンと頷くロージア。
しかし、こっそりと耳打ちしてきた内容は実に魅力的な話であり……
「後で可愛い女の子を紹介してあげます」コソコソ
「マ、マジで?」コソコソ
「大マジです。あたしと同じく魔法少女のコスプレが似合うスタイル抜群な子ですよ。何ならサービスで他の3人もつけちゃいます」コソコソ
「おっし。交渉成立」コソコソ
「……オッホン!」
「マサルさん?」
「今日からユーリもダンジョンの一員とする!」
ズテ~~~ン!
盛大にずっこけるロージアたちとは裏腹に、俺とユーリの目は輝いていた。




