別荘突撃
城や街の外に住む事。これは非常に危険な事であり、大半の住民は考えもしない事だと言われている。何せ外には魔物がいる上に野盗なんかも出るんだからな。一時的な野宿が精々だろう。
だが世の中には変わり者も居て、敢えて危険に身を晒した状態で過ごす者も居る。一方は貴族の道楽。そしてもう一方は武者修行の如く挑む者。
「言うなれば後者だったんですね~、デヴォンって人は。あたしも山で道場を開いてましたし、分かる気がしますよ。始めたのは祖父よりもっと前の代ですが」
鬱蒼と生い茂る木々に囲まれた中で存在感をアピールしているデヴォンの別荘。貴族の邸の如く御立派は建物を見上げ、どこか懐かしむようにシュワユーズは言う。
「そういやそうだったな。やっぱアレか? いつ魔物に襲撃されるか分からない緊張感が精神を鍛えるみたいな?」
「最初はそうだったみたいですね~。でも多くの門下生を抱えるようになってからは流石に全員にまで目が届く訳じゃなく、このままじゃ危険だって理由から結界を導入したようですけども」
そう。外に住み着くのなら結界を張るのが定石とも言えるらしいんだが、デヴォンの別荘にはそれが施されていないんだ。
「現状この建物に結界は張られていません。ギルマスと言えど留守中魔物に入り込まれるのを許すとは思えませんし、やはりネクロマンサーが解いたと考えるのが妥当でしょう」
「って事は……」
そう俺が言いかけたタイミングで邸の正門が勝手に開き、大量のゾンビがゾロゾロと出て来やがった。
「「「ヴァ"ァ"ァ"ァ"」」」
「おおぅ、大量大量♪ 久々に良い運動が出来そうだ!」
「バカ! 喜んでないで蹴散らすぞ」
「んだよアルバ~。ノリ悪ぃな~」
「レックス、ボクらはノリで戦ってるわけではありませんよ。それにボクにとっては祖国の危機ですので真面目に対処願いたいですね」
「……同感」
「へぃへぃ、悪ぅござんしたね」
溢れ出る大量のゾンビを前にしてもレックスたちは余裕綽々だ。それどころか正門に向かって突っ込んでくし。
「おいマサル!」
「分かってるよカルロス。俺たちも負けてらんねぇからな。トロくさいゾンビ共なんざ一気に蹴散らして――」
「マサルさん!」
例の蛍光灯を取り出したと同時に、ゾンビ共の隙間から何かが飛び出してきた。そして俺が手にした蛍光灯を口で食わせて走り去って行く。
「バゥバゥ!」
「――あ……のやろう!?」
「ゾンビ犬です人形のゾンビとは違い、動きが素早いので注意してください」
「ゾンビ犬までいんのかよ!」
あれが脅威だと気付きやがったか。もう一度召喚するのも癪だし、ダンジョントラップと剣だけで倒してやる!
「おっしゃ、入口到達――って、なんだありゃあ!?」
「スポナーです。それも只のスポナーじゃない、アレは無限スポナーです」
正門の先を見て驚きを露にするレックスとは対称的に、ルークが冷静口調で答えた。
無限スポナーとはその名の通り無限に沸き出てくるスポナーの事で、いくら倒しても枯渇する事がない厄介な仕掛けなんだとか。
そんなのが中庭の至るところに有るってんだから、面倒なこと極まりない。
「マジかよクソッ! そんな非道な仕掛けを施しやがって!」
「同感です。無駄に何度も甦らせるのは死者への冒涜。他者の命を弄ぶなんて言語道断です」
「ちげぇよロージア。俺が出来ない仕掛けを使ってるのが気に食わないんだよ。ったくふざけた野郎だせ」
「……感心して損をしました。慰謝料を請求します」
「いや、何で慰謝料やねん……」
「精神に負荷が生じたからです」
そう言いつつゾンビやスケルトンをバッタバッタと斬り倒してるがな。
けどまぁアレだ。最近は連日のように忙しくてまともに休んでなかったっけか。だったらこの機会に……
「じゃあこの戦いが終わったら可愛い服をプレゼントするよ」
「そこまでして死亡フラグを立たせたいのですか……。ですがその約束は魅力的です。是非ともマサルさんのセンスで選んでください」
「分かったよ」
ほい。死亡フラグ成立っと。もちろん俺に対してじゃないぜ? フラグが立ったのはネクロマンサーの方な。
「こらこらこら~! そこ2人でピンクな空間作らないでもらえます~!? お二人で逢い引きしてる間に、こっちはゾンビのお相手なんですけれど~!」
おっとシュワユーズがお怒りだ。
「すまんすまん。腐れネクロマンサーの首を手土産にするから許してくれ」
「いえ、そんなのもらっても……。それで手土産って事は、あたしたちは外でゾンビを引き付けるんだね?」
「ああ」
無限スポナーを壊さない限りアンデッドは永遠に召喚され続ける。庭だけじゃなく邸からも出てくるあたり、中にもスポナーが有るの確定だろう。
しかしこのスポナーの嫌らしいところは無限沸きするところではなく、光魔法による封印でしか壊せないところにある。
そこで俺とロージアはジャニオたちにその場を任せ、中に入ったレックスの後を追う事にした。
「マサルたちも来たか。見てみろ、通路やロビーにまでスポナーがビッシリだ」
片手間でゾンビを斬り捌きながら器用にスポナーを指すレックス。この様子だと二階三階も同じだろうな。
「ロージアさん、マサルさん、ここは手っ取り早く手分けして探しましょう。我々が上を捜索しますので、お二人は引き続き一階を」
「分かった」
ルークの提案に従い別行動に出る。彼らが上を引き受けたのは、偉い奴の大半は上の階にいるからだろう。
俺とロージアはゾンビの群を掻き分け、引き続き一階を探し回った。
「オラッ――と! こっちもそりゃ!」
「「「ヴヴヴァァァ!」」」
「だぁぁぁもぅ、またかよ!」
狭い屋内のため戦い難いのもあり、ゾンビ共との戦闘は避けられない。やっぱ蛍光灯を召喚していいかもな。
ロージアの方も徐々に苛立ってるようだし……
「しつこいですね――アイスジャベリン」
ガガガガガシュ!
「「「ヴヴヴァァァ!」」」
「あ~~もぅまたですか! アイスジャベリン!」
ザザザザザシュ!
「な、なぁロージア、さっきから魔法を連発してるけど、MPは大丈夫なのか? それから少し落ち着いた方が……」
「問題ありません。戦闘に集中してるので話しかけないでください」
「はい、すんません……」
めっちゃキレてるやん……。人間味が感じられて良い反面すんげぇ怖いんだが。
こりゃゾンビよりもロージアを宥める方が先決だな。何か方法は――――ん?
チカッ、チカッ
「奥の部屋から不自然な光が漏れてやがる。あの光は…………あ!」
「どうしたのですかマサルさん。驚いてる隙があるのなら手を動かして――ってマサルさん!?」
何か直感めいたものを感じ取り、光が漏れてる部屋へと駆け出す。扉を開けると中はキッチンになっており、蛍光灯を咥えたゾンビ犬が干からびた状態で横たわっていた。
「やっぱ蛍光灯だったか。苦し紛れに発光させといて良かったぜ」
へっ、ゾンビ犬ザマァだな。俺から物を盗ん罰が当たったんだろう。
「マサルさん、急に駆け出したと思ったら蛍光灯を取り戻したのですね」
「ああ、これでゾンビ共は近寄ってこれないし、少し休憩しようぜ」
「その意見に賛成です。せっかくキッチンにいるのですからお茶でも入れましょうか」
「え"!?」
「冗談ですよ。いくらなんでもゾンビが彷徨いている家の物を口に入れたくはありません」
「――だよな」
「それに休憩するのはダンジョンを攻略してからの方が良いでしょうし」
「ダンジョン?」
疑問符を打つ俺を見て、ロージアは静かに戸棚を指す。そして横に動かすようジェスチャーしてきた。
高価で重そうな戸棚だが、ダンジョン機能なら問題なく動かせる。
「平行移動」
ズズズズ……
「あ、隠し通路か!」
穴の開いた床に入ると、上の邸とは明らかに変わったのを感じる。
具体的に言えば、脳裏にダンジョンバトルを申し込めるコマンドが現れたところだな。
そう、俺とロージアはダンジョンに入った事になる。相手は十中八九ネクロマンサーだろう。
「すぐそこがボス部屋である事から、即席で作ったのが伺えます」
「なら速攻で攻略してやろうぜ? これ以上は無駄な抵抗だと教えてやらないとな」
ギギギギ――――バタン!
レックスたちを呼ぶ間も惜しいと考え、俺とロージアでボス部屋へと突入した。そこに居たのはやはりネクロマンサーで、いかにも面白く無さそうな顔を向けてくる。
「クソゥ、もう早ここがバレてしまうとは」
「観念しやがれ。俺たちが来た時点でテメェの勝ち筋は完全に消えたんだからな」
「はっ、消えた――だと? バカめ、貴様らの知るギルマスが何故死んだのかを知らぬようだ。いでよ、我の忠実なる戦士よ!」
シューーーーーーン!
激しい光が放たれた後に、トゲトゲしい鎧(世紀末のモヒカン共が着てるようなやつ)を身に纏った青年が姿を現した。
鎧の隙間からは学生服のようなものも見える。まさかコイツ、転生者か転移者?
「フッ、驚いたか? こやつは私が作り上げた中でも最高傑作の一体。選りすぐりの肉体を重ね合わせた究極のアンデッド。その名も――」
「――デッドスイープアサシンだ!」
名前だけは凄そうだが……って事でロージアに視線を送ると、驚愕の答えが返ってきた。
「気をつけてください。あの魔物はアンデッドでありながらも身体能力はズバ抜けています。ランクにしてBランク。まともに相手をするのは危険です」
「Bランク!」
クーガと同じだってのか!? いや、だからこそギルマスのデヴォンが殺られたんだ。
「クッハッハッハッ! 例え騎士団が束になろうともこやつは倒せん。さぁ殺れ、デッドスイープアサシン!」
「…………」
静かに剣を抜いたデッドスイープアサシンが一歩ずつ近付いて来る。纏うオーラはドス黒くて禍々しく、視界に居るだけで膝の笑いが止まらない。
「……フッ」
「!!!」
ザッ!
一瞬笑ったような気がした次の瞬間、奴は俺の真上から剣を振り下ろしていた。
尋常じゃないくらい速い! 俺は反射的に目を瞑り、来るであろう斬撃から身を守る――
――という行動を取っていただろう。過去の俺ならな。
だが今は違う!
ガッ――――シャシャシャシャシャシャ!
「クッ!?」
突如として現れた鉄の壁が斬撃を弾き、更に地面から撃ち出された光の矢が奴の胴体を射貫いていく。堪らず奴は、よろめきながらも大きく後方に飛び退いた。
「バ、バカな……私の最高傑作だぞ? 初見でこやつの剣を止められるはずは……」
「言ったはずだぜ? テメェの勝ち筋は消えたってな」
実のところクーガが襲ってきた時よりも余裕が有ったから対処できたようなもんだ。
あの時とは違って自分のダンジョンに転移できるし、時間を稼げばレックスたちの到着も待てる。更に俺の切り札――決戦の舞台も残ってるからな。
まぁ今回はダンジョントラップだけで退けれてやったが。
「ええぃ何をしている! たかが一度だ、防がれただけで怯むな! 私の眷属として死ぬまで戦えぃ!」
「…………」
「どうした、なぜ言う通りにせん!?」
「…………」
「貴様、聞いてる――」
「ああウゼェ」
「「……はい?」」
「ウゼェって言ったんだよ。胡散臭ぇクソオヤジが」
思わずネクロマンサーとハモっちまった。いや、それだけ衝撃だったんだって。まさか意志が無くなってるはずの奴が生々しい声を出すなんてさ。
そんな俺の心情を無視するかのように、奴は不満を吐き出していく。
「黙って聞いてりゃ最高傑作だぁ? はっ、テメェごときが俺を作り上げたと本気で思ってんのか? ったく、これだからヒッキーなネクロマンサーは嫌なんだよなぁ」
「な……き、貴様、眷属のくせになんて生意気な――」
「一応言っとくけどな、俺はテメェの眷属なんかじゃねぇ。俺は主様の命令でテメェを監視してたのさ」
「か、監視……だと?」
「そうさ。そして主様は酷くお怒りだ。時間を掛けた末にラーツガルフを支配下に置くのに失敗しやがったんだからな。キャシュマーが殺られたのは知っていたはずだろ? それがこんな体たらくとはな」
いや、お前も俺に屈してるがな。
つ~か……
「おい、テメェいったい何もんだ? そいつに作られたんじゃないのか?」
「あん? んなもんお前、主様の計らいで送り込まれたに決まってんだろ。計画通りに進めてるかどうかってな。けどまぁ、計画は失敗するわお前は予想外に強いわでどうにもなんねぇよなぁ。ホント使えねぇぜ」
「じゃあどうする? 諦めて俺にトドメを刺されるか?」
「おおっと、そいつは勘弁だぜ。俺にはやらなきゃならない仕事があるんでな」
「アンデッドのくせに仕事だと?」
「そうさ。失敗した奴にはペナルティが必要だろ?」
ズバッ!
「ふぐぉ!?」
そう言ってネクロマンサーの首を跳ねやがった。
「ま、ダンジョンコアは利用価値があるからな。これさえ回収しちまえば後は用なしさ。んじゃな!」
「おい待て、テメェは転生者じゃないのか? あるいは転移者とか……」
「んだよしつけぇ。以前は転移者だったが今は転生者。生前は高遠順一って名前だったが今は主様の片腕さ」
「高遠順一……」
「じゃあ今度こそアバよ」
ダルそうに喋った後、高遠は霧のように消えていった。
「お見事でした、マサルさん。危険な相手でしたがよく退けましたね」
「ああ。けど奴の言う主ってのが気になるな。いったい何者なのか……」
「かなり大きな組織でしょうか。どちらにしろネクロマンサーは討伐されました。皆と合流して城に戻りましょう」
多少のモヤモヤが残ったが本来の目的は達成した。現時点ではキャシュマーやネクロマンサーの情報は殆ど無いし、今は記憶の隅に留めておこう。




