パーティ完成
ラナたちをダンジョンで鍛え始めてから半月ほど経過した。ロクに武器を握れなかった初期と比べると、驚くほど上達したのが見てとれる。
例えばだが、シュワユーズが稽古をつけてるラナなんかは駆け出しの冒険者を大きく凌ぐ程の剣さばきが出来てるんだ。
「ふむふむ。ラナちゃんだいぶ様になったね~。もうゴブリン程度じゃ相手にならないでしょ?」
「そ、そうでしょうか? 自分ではシュワユーズさんには遠く及ばないのではと」
「アッハッハッ! そりゃ比較対象が間違ってるもん。これでもあたしは剣術道場の元師範だからね~。ゴブリンなんて相手じゃないよ~。寧ろマサルくんの方が現実的かな~?」
「ええっ!? さすがに冗談ですよね?」
「すまんなラナ。シュワユーズは笑えない冗談が好きなんだ」
「……半分は本当なんだけどな~」ボソッ
「何か言ったか?」
「何でもな~い」
ったく、余計なこと言ったらラナたちが不安がるだろうが。俺はラナたちにとって憧れなんだから、それを崩すような発言はいかん(←自分の方が不安がってる)。
「でもゴブリンなら片手で捻れるくらいは強くなったんだし、他の2人と冒険者パーティを組んだらいいんじゃないかな」
「そうだな。ちょっと呼んでくるか」
シュワユーズの提案を受けて、離れた場所で訓練中だったジェロとグラスを呼び寄せた。握力の強いジェロはタンク役としてカルロスに鍛えられており、魔力が高めだったグラスはロージアが魔法伝授を行っていたんだ。その2人もかなり上達したようだし、試しで連携させてみた。
ガキン!
「よし! グラス、今だ!」
「任せてくれ――アイスジャベリン!」
グサグサグサグサッ!
「グギャア!?」
「「ラナ姉ちゃん、トドメを!」」
「オッケ! 食らいなさい、師匠直伝の恩義――頭落天誅撃」
ドグチャッ!
見事な連携プレイによりゴブリンナイトが肉片へと変わる。この年齢層でEランクの魔物に圧倒できる奴らはそうそういないだろう。
俺たちが無意識に拍手を送ると、本人たちは照れくさそうに頬を掻いた。
「やるじゃん。これなら冒険者としてもやってけそうだな」
「ありがとう御座います!」
「でもあの技の名前はなんだ? シュワユーズが教えたのか?」
「あ、はい。どんなに硬い敵でもダメージを通せる大技だということで」
「ムッフ~ゥ、凄いでしょう!」エッヘン!
いや、人前で叫ぶのは恥ずかしいレベルなんだが……。俺が使うわけじゃないから構わんけども。
「それより今度は複数の相手を想定して行いましょう。今の彼らなら出来るはずです」
ロージアの宣言でゴブリンナイト以外にもゴブリンメイジやゴブリンアーチャー、更には通常のゴブリンを数体召喚した。ゴブリンたちがいわゆるパーティを組んでいる感じだ。
「ギャウギャウ!」
「グギャギャギャ!」
「「「「…………」」」」
ん? 3人とも動かなくなった?
「どうした? 怪我をしてもすぐに治療できるから大丈夫だぞ?」
「い、いえ、そういうのではなく……。そ、その……相手に隙がないと、どうにも踏み出せなくって……」
なるほど。膠着状態で睨み合いをしてると。
「そんなにムズいか? 俺ならさっさと仕掛けちまうが」
「そりゃマサルくんのはトラップ攻勢だもの。あんなの初見殺しに近いじゃない」
まぁ俺の専売特許みたいなもんだしな。逆に言うと、ダンジョントラップが使えなきゃもっと苦労してたはずだ。
「これは新たな課題ですね。今後は上手く連携できるようにしていきましょう。では訓練に戻ってください」
ロージアが手を叩きながら解散を促し、3人もそれぞれ散開していく。
「しかしなんだ。今の戦いを見てるとさ、何つ~かこう、遊び心が足りないよな」
「マサルさんにとって戦闘は遊びですか……」
「いや、そうじゃなくってさ。上手く言えないが、真面目過ぎて余裕がないって言えばいいか? 堂々とした戦いではあるんだけど、もっとこう、卑怯な手段を使ってもいいんじゃないかってな」
そう、そうなんだよ。周りのものを利用して敵の注意を逸らしたりっていう動きが足りないんだ。それこそ相手の心理を逆手にとったりできればもっと有利な展開に持っていけると思うんだが。
「あ、自分で言っててアレだが、卑怯ってフレーズであの時のクソガキを思い出したぞ」
「服を盗もうとした少年の事ですか?」
「ああ。せっかく見逃してやったんだし、犯罪から足を洗ってりゃいいんだが――」
いや、まてよ? 敵を撹乱するにはあのクソガキみたいな動きはうってつけだ。無駄に挑発能力も高そうだし、これは上手くハマるかも!
善は急げとさっそく冒険者ギルドにやって来た。俺の言葉を真に受けてるなら冒険者になっていると思ったからだ。
透かさず受付嬢に聞いてみると……
「ハァ……またジャニオ様はいらっしゃらないのですか。いつになったらお連れになられるんです?」
「そんなに見たきゃ明日にでも連れて来てやる」
「ホ、ホントですか!? 嘘じゃありませんよね!? 嘘だったら毒針一升瓶飲ませますからね!」
「ああ。それより最近になって、こんくらいの背丈の少年が冒険者登録に来なかったか? 銀髪で目付きの鋭い感じの奴なんだが」
「ベルガくんですかね? だったらもうそろそろ来る時間帯だと思いますよ」
それっぽい奴はいるらしい。後は本人かどうか確認するだけだ。
「あ、ほら、あの子ですよ」
ちょうど入口の扉が開き、あの時のクソガキが入ってきたところだった。向こうも俺に気付き、ノッシノッシと近寄ってきて……
「おい! アンタが冒険者になれって言うからなったけど、罰金で金貨3枚が丸々フッ飛んじまったじゃないか!」
「罰金?」
「そうだよ! 元々は他人から金品をくすねて生活してたんだから、それを清算しなきゃダメって言われたんだぞ! お陰で極貧生活真っ只中だ、ったく……」
「ああ、そういう事」
この世界では割と常識的な事なんだが、犯罪者のギルドカードは赤く発光する仕組みになっている。つまり、冒険者として登録した直後に犯罪がバレたってわけだ。
「あのまま犯罪者として生活するよかマシだろ。寧ろ心機一転で行けるじゃねぇか。金貨だって元は俺のなんだし、お前は何一つ損しちゃいねぇよ」
「……ふん」
言い返せなくてソッポを向きやがった。でも更正できたんだから無駄じゃなかったって事なんだよな。
って、そんな事を言いたいんじゃない。もっと大切な事を伝えに来たんだ。
「親切ついでの誘いなんだがベルガ、お前すぐにでも強くなりたいと思わないか?」
「すぐにでも? そりゃできるんだったらそうしたいさ。けどそんな上手い話があるわけねぇ。バカな夢見てないで地道に頑張れとか説教したいんだろ? んなことぁ言われなくても分かってるっつ~の」
「フフ~ン♪」
「な、なんだよ気色悪い……」
俺は鼻歌交じりに一呼吸置くと、肩に手を置いて尋ねてみた。
「有るとしたら……どうする?」
「……え?」
結局は誘惑駆られたベルガを連れ、我がダンジョンへと戻ってきた。コイツを強化してラナたちとパーティを組ませるためだ。
ベルガにはダンジョンを口外しない代わりに無償で鍛えてやると約束させ、訓練させるためのコーチを誰にするか考える事に。
ここで大いに迷ったんだが適任者が1人しか居なかった。そう、性格に難がありそうなアイツだ。
「フフ、いいですとも。ボクが責任を持って教育致しましょう。クククク……」
「よ、よろしく……」
たじろぐベルガを上から下まで舐めるように眺めるのは、ジャニオのファンクラブ会長を勤めるユーリの眷属であるルカーネロだ。
ベルガをシーフとして育成するにはコイツの協力が必要不可欠だろう。
「ああ、そんなに緊張せずとも大丈夫ですよ。今からキミはボクの言う通りに動くだけ。それだけで一流の暗殺者になれるのですから」
「あ、暗殺者?」
おいおいおいおい、ベルガが固まってるじゃないか。それに暗殺者ってお前……
「落ち着けルカーネロ。ベルガは暗殺者じゃなくてシーフとしてだな――」
「何を言うのです!」
「うぉっ!?」
「シーフなんて只の通過点です! 盗みや罠解の解除なんて雑用がやることです! 肉を斬りつつ骨も断つ。これが戦闘での重要項目! 存分に敵を切り裂き、己のダガーを血で染める。最後にたどり着くのは暗殺者――ザ・ジェノサイダーなのです!」
「お、おぅ……」
興奮覚め止まぬルカーネロを見て人選を間違えたかと不安に駆られる。大丈夫なんかなこれ……。
「さぁベルガくん、ボクと一緒に頂上を目指しましょう。そして血の契約を交わすのです!」
「よ、よく分かんないけどお願いします」
ベルガはルカーネロに連れられ、ダンジョンの奥へと消えていった。そんな哀れな少年の背中を見送り……
「強く生きろよ、ベルガ……」(←見捨てた)
だが数日後。ベルガがルカーネロによって鍛えられている中、ラナたち3人組はトラウマとも言える相手と対峙しようとしていた。




