死人の村
冒険者ギルドのギルマス――デヴォンから依頼の斡旋を受けた俺たち。その内容はというと、ラーツガルフ魔王国とミリオネック商業連合国との間にある広大な大草原(平原と半々なため大平原と言われる事もある)にて危険なダンジョンが誕生したため、それを攻略して欲しいというものだった。
元々大草原にはヨム族という遊牧民が暮らしているのだが、その民族たちから救援要請が届いたらしいく、何名かの職員を引き連れたデヴォンが調査にあたっていたのだとか。
「報告書によると、ダンジョンが発見されたのは1ヶ月近く前の事で、狩猟をしていたヨム族の1人が地面に大きな洞穴を見つけたのが切っ掛けらしいですね。最初は動物の洞穴かと思ったようですが、探索を行ったメンバーの半数がアンデッドに襲われて落命しています」
「アンデッドって、ゾンビやスケルトンみたいな?」
「その通りです。マサルさんは見た事がないのですか?」
「うん、ないなぁ」
俺が見てきたのはゴブリンみたいなポピュラーなやつが中心だからな。自分のダンジョンにも召喚できるらしいがそんな気味悪いもんを彷徨かせる気はないし、余程の理由がない限りは召喚することはだろう。
「ならば今回が初遭遇となりますね。しばらくは馬車の旅になりそうですし、今のうちに予備知識を叩き込んでおきましょう」
「え~~~!? こちとら大学卒業したばっかなのに、今さら勉強しろとかないわ~。だいたいスケルトンやゾンビってFランクだろ? 大量に沸くゴブリンと思えば、大した事ないんじゃないか?」
「そう言って命を散らす冒険者も多いのです。特にアンデッドは昼より夜の方が強いので、その事実を知らない冒険者が足元を掬われ易いとか」
「……マジ?」(←足元を掬われ易い人)
思い返せば元の世界でも肝試しするなら夜だったもんなぁ。やっぱそういうのか関係あるって事か。
「マスター、ご安心を。低級のアンデッドならボクにでも充分対応できますので」
「ジャニオ様もご安心なさってくださいまし。低級のアンデッドならこのわたくしが焼き尽くして見せますわ」
「いや、ブローナ嬢が前に出るのは――」
「任せてください! 頼りないマサルに代わり、ジャニオ様のご尊顔は護り通して見せますわ!」
「ハ、ハハ……」
ダンジョンがアレな事になってるからこの二人も連れてきちまったんだよなぁ。お陰で総勢7人というパーティになったが、これはこれで楽できるら良いかもしれん。
ヒヒ~~~ン!
「お、馬車が急停止したな」
「何かあったのでしょうか?」
馬車から身を乗り出してみると、御者が商人のキャラバン隊と何やら話していた。いや、よく見るとキャラバンじゃない。大勢で移動中のヨム族のようだ。
彼らの代表と数分間話すと、再び馬車が動き出す。どうにも気になったクーガが、御者のオッサンを質問責めにし始める。
「オッサンオッサン、さっきの連中は何だったんだ? アンデッドがどうとか言ってなかったか?」
「ああ、村がアンデッドに占拠されたってんで、ラーツガルフに避難すんだとよ」
「え、そんだけ? 逃げずに戦ったりしないのかよ」
「それがな、どうもアンデッドの大半が元村人らしくてな、敵とはいえ元同胞を殺っちまうにゃ抵抗が有ったんだとさ」
「え……村人がアンデッドになったのか?」
「らしいぞ? 例の発見されたダンジョンもアンデッドが出るって聞くしよ、こりゃ偶然とは思えねぇよなぁ」
アンデッドと戦えるとみて喜ぶクーガを尻目に、俺たちは眉を潜める。
「村人がアンデッドに――って、そんな簡単にできるものなの~? 魔力の高い魔法士が時間をかけてようやく可能なレベルだって聞いた事あるけど」
「シュワユーズの疑問はもっともです。アンデッド化は時間がかかる上に戦闘の役には立たない場合が多いので、そこに費やす労力は無駄と言えます」
「けど実際にはやったって事だろう? 魔法士の目的は分からないけど」
「只の魔法士とは限りませんよカルロス。端から見れば非効率的であっても、特化した存在ならばその限りではない。例えば――」
「――ネクロマンサーであれば、死者を使役するとは得意かと」
ロージアの発言により馬車の中が一気に凍りつく。クーガ以外の皆が緊張した面持ちの中、俺は思っていた事を口に出した。
「俺の認識が正しければだが、ネクロマンサーってのは夜な夜な墓地を掘り起こしては使えそうな死体を持ち帰って眷属にするっていうアレの事か?」
「概ね正しいと思います。一点補足するのなら、眷属ではなく奴隷といった表現がピッタリでしょうね」
やっぱりアニメやゲームのまんまらしく、俺の中で陰気くさいジジイが夜な夜な詠唱しているイメージで固まっていく。
「うげぇ、そんなのと戦うかもしれないのかよ。不潔そうだし汚そうだし、何より素手で触りたくねぇ……」
「おいおいマサル、お前は怖くないのか?」
「そうですよマサルくん。もしかしたらネクロマンサーがダンマスかもしれないのに」
「頭にゴミでも詰まってるのではなくて?」
「いや、お前ら大げさ過ぎ。ていうかブローナはそろそろ黙れ」
俺からすりゃ奴隷となるアンデッドがいなきゃ何もできないヘタレ爺ぃにしか思えない。もちろん油断はしないけどな。
ヒヒ~~~ン!
「着きやしたぜ皆さん」
数日かけて到着したのはヨム族の小さな集落だった。雑貨屋とか宿屋なんてものはなく、簡素な民家だけが幾つか建てられているだけだ。
デヴォンから聞いてた村より小規模のような気がするなという俺の感覚は正しかったらしく、地図を広げたロージアが御者に尋ねた。
「失礼ですが、目的の村とはだいぶ違うように思うのですが」
「お嬢さん、勘弁してくださいや。目的の村はアンデッドがうようよしてるんでさぁ」
「え!? ではアンデッドに占拠された村というのは……」
「お察しの通りでさぁ。先日すれ違ったヨム族の一行が居たで御座いましょ? 彼らの村がやられちまったんでさぁ」
本当はダンジョンに一番近い村までの予定だったが、肝心の村がゾンビ村じゃ危険と思われても仕方がないか。それにギルマスのデヴォンが手配した御者だし、あまり文句を言うのもな。
やむ無く俺たちは御者のオッサンに別れを告げ、集落の片隅で野宿を。明日の朝一でダンジョンに向かう――
――という計画中に、大きな狂いが生じてしまった。それは……
「マサルさん、起きてください。アンデッドが現れました」
「ふぁぁぁ…………あんだっで?」
「あんだっでじゃありません、アンデッドです! 他のみんなは既に出撃しました。寝ぼけてないで迎え撃ってください」
「お、おぅ」
慌ててテントから這い出ると、集落の外で大量のゾンビと戦闘を繰り広げているジャニオたちの姿が。
「へっ、ウスノロなゾンビめ。オイラのハンマーで砕いてやる!」
ドガン!
「ヴッ!?」
「へへ、一丁あがりぃ!」
「カルロスさん、自分よりトロい相手がいて良かったねぇ」
「うるさいぞシュワユーズ。そういうお前はどうなんだ?」
「フフ~ン、しからばお見せしましょう。トランジェス流の剣技でアンデッドを――」
「ファイヤーストーム!」
ゴゴゴゴォォォォォォ!
「「うわっっっちちちち!」」
「フフ、どうですジャニオ様。わたくしの魔法にかかればアンデッドなど――ってあら、そこに居ては危ないですわよ?」
「「危ないのはお前だ~~~っ!」」
うん、大量って聞いてたけど、大丈夫そうだな。
「マスター、ご無事でしたか」
「まだ集落には入り込んでなかったからな。それよりジャニオ、戦況はどうだ?」
「各自善戦していますが暗くて遠くが見通せず、残りの数がまったく分からない状況です。できる事ならマスターの力を拝借したいのですが」
今夜は生憎の曇り空で、少しでも集落から離れると真っ暗闇。嗅覚を頼りに駆け回っているクーガは別として、他は苦労してそうだ。
「おっし! そういう事なら…………ロージア、召喚だ!」
「はい――これを!」
ポンッ!
ロージアに召喚させたボーリング玉サイズの球体を夜空に向かって放りなげた。
すると球体はまばゆい光りを放ちつつ、真下のゾンビ共を溶かしていく。
「「「オオォォォォ……」」」
数分も経たないうちにゾンビ消滅。ジャニオたちだけじゃなく、集落のヨム族からも驚きの声が上がった。
「す、凄いぞ、あんなにいたアンデッドが一瞬で……」
「きっと名のある冒険者に違いない」
「彼らだったら例のダンジョンを攻略してくれそうね!」
ダンジョンは攻略するぜ? まぁ低級のゾンビを差し向けるしか脳のない奴には負けないしな。
「それにしても凄いですねマスター、魔力もまったく感じませんでしたし、いったい何を召喚したのです?」
「アレか? 球体型の蛍光灯だよ。光量を最大にして投げてやったのさ」
「その蛍光灯とやらは初耳ですが、対アンデッド用のマジックアイテムなのですね」
意図してアンデッド用に開発された訳じゃないだろうけどな。でもこの世界の聖水よりかは効率的だろう。
「う~ん、しかし妙ですね」
「何だよジャニオ。俺のやり方にケチつける気か?」
「いえ、生者を求めてやって来たにしては動きに疑問が残るのです。集落に向かうのが目的ではなく、我々を試すかのような感じでした。考えすぎかもしれませんが」
そんなバカな。とは思うがネクロマンサーは狡猾だろうと考えれば頷けるというもの。
もし前もって俺たちが来る事を分かっていれば、刺客として差し向けるのは充分にありだ。
そして後日、死者の村へと変貌した第一目標の村に着き、ジャニオの予想が的中することに。




