死人の解放
「村の様子はどうだ?」
「予想通りの有り様だぜ? そこらじゅうにゾンビがウヨウヨしてやがる。中に入るにゃ強行突破しかないぜ?」
夜中に発生したゾンビの襲撃を退けた俺たちは、すっかり目が覚めてしまったのもあり、深夜のうちに強行移動を開始。本来の目的地であったダンジョンに一番近い村までやって来た。
やや離れた位置に身を潜めてクーガに偵察させたところ、村への侵入を拒むかのようにゾンビが入口を封鎖しているらしい。
「村ん中にネクロマンサーがいるのか?」
「どうでしょうか。ダンジョンマスターがネクロマンサーだと仮定すると、易々とダンジョンを空にはしないはずですが」
「それもそうか。けど本当にネクロマンサーがいたとしたら――」
「だぁ~~~もう、マスターもロージアもトロ過ぎだ! ゾンビを倒す、中を見る、居たら倒す、居なきゃ探す、それだけだろ!?」
そりゃそうだが……いや、
「でもそうか。結局のところ、俺らのやることは変わらんもんな、うん。よく言ったクーガ、偉いぞ」ナデナデ
「だぁ~~~もう、頭を撫でんな! あたいは先に行くぞ!」
照れ隠しか、顔を真っ赤にしたクーガが先陣を切った。それに続いて俺たちも突っ込む。
「ヴヴヴ……」
「ヴガァァァ……」
お~気持ち悪ぃ! 生き物の気配を感じたのか、フラフラと近付いて来やがった。つ~か1匹が反応したら他も同じく反応するとか、ゾンビのくせに面倒臭ぇ。
「どけぇ、ザコども! クーガ様の邪魔するやつぁ1匹たりとも逃さねぇぞ!」
「へっ、クーガだけにいいカッコさせるか。オイラのハンマーを食らえぇぇぇい!」
「はいは~い、打ち漏らしはあたしが片付けるよ~」
前衛の3人が道を切り開いて行く。数が多いだけの動く的なので、倒すのには労せず村の中心までやって来た。どうも中心部から集まって来てると感じたらだ。
すると予想は正しかったようで、赤黒いような淡い光が立ち上がっているのが見え、そこから続々とゾンビが沸き出ていた。
「魔方陣!? まさかスポナーがこんな場所に!」
「ロージア、スポナーって……」
「何らかの対象をスポーンさせる装置です。主に召喚士などが魔物をスポーンさせるのに用いられる事が多く、応用すれば川を作る事も可能です。しかし、アンデッドが沸き出ているのを見るに……」
件のネクロマンサーが仕掛けたに違いない――か。
「放置すれば永遠と沸き続けます。まずはスポナーを潰し、死人を解放してやりましょう」
「オッケィ。地球に優しい球体型蛍光灯を食らいやがれぇ!」
ピカーーーーーーッ!
「「「ヴヴヴァァァ……」」」
アンデッドに特効の蛍光灯を投げ込み(何気に便利だなこれ)、辺りのゾンビを一気に消し去る。
「合わせなさいブローナ、アイスジャベリン!」
「わたくしに命令しないでくださる!? ったく――フレイムキャノン!」
がら空きになった魔方陣に向けてロージアによる氷の槍が炸裂。立ち上がる光ごとガチガチに凍ったところへブローナの炎が直撃。氷と共に魔方陣を溶かしていく。
光が消え去るとゾンビは沸かなくなり、俺たちを囲むように群れていた残りは意思を失ったかのように右往左往と彷徨い始めた。
「あ、あれ? さっきまでの鬱陶しさが無くなったような……」
「魔方陣を失ったことにより、指揮系統が乱れたのでしょう。そんな事よりマサルさん、残りを掃討したらダンジョンに向かいますよ。そこにネクロマンサーが居るでしょうから」
バラバラに動くゾンビを手早く片付けると、丑三つ時の草原を颯爽と進む。
ダンジョンに着いたのはすっかり日が昇った頃で、誰が建てたのか分からない墓石みたいなのが大量に密集するところに、ダンジョンの入口が大きく口を開けていた。
「これは……墓……なのか?」
「何年も前にヨム族が使っていた墓地だったと記憶しています。土葬が習慣のために稀にゾンビとなって現れる事から、この場は放棄されたのではないかと」
それだと他に移っても変わらないのではと思ったが、アンデッド化しやすい場所とそうでない場所があるらしく、ここが前者だったために手離したんだろうというロージアの考え。
つまり……
「ネクロマンサーにとって理想の活動拠点ってわけだ」
「すでに我々が村を解放した事に気付いているかもしれません。次の手を打たれる前に攻略してしまいましょう」
「そうだな」
「っしゃあ! あたいが一番乗りだ!」
「ってクーガ、勢いで突っ込むとダンジョンの罠に――ってもう居ねぇや」
相変わらずなクーガに呆れつつ俺たちも後を追う。墓荒らしをしてるみたいな嫌な気分を押し殺し、意外にも綺麗に整った石レンガの通路を慎重に進んで行く。ところどころにゾンビの死骸が放置されてたり、血痕がこびりついてたりしてたけどな。
だが棺桶とかは一切ない。その代わりと言えばいいのか、時おり現れる脇道の先に小部屋があり、中には何体ものゾンビやスケルトンの死骸が散乱していた。
「通路にも、小部屋も死骸だらけだ。きったねぇな~」
「ちょいマサルくん、おもいっきり骨踏んでるよ~」
「んげっ! それを早く言ってくれよ!」
「だから言ったじゃん……」
エンガチョしながら足を外して部屋を見渡す。これで3つ目の小部屋だが死骸の他には何も無さそうだ。
「さっきから似たような部屋ばかり。いったいこの部屋は何なんですの? おまけに死骸だらけで汚ならしい限りですわ!」
ブローナが叫んだ通り、結局何も見つからないし分からない。諦めて部屋を出ようとしたところ、今度は通路の先からの叫び声が届く。
「あ"~~~もぅ、どこもかしこも死骸だらけじゃねぇか! 全然暴れ足りねぇぞーーーっ!」
その台詞で俺は首を傾げる。これまでに見た死骸はクーガのやったものじゃなかったのかと。
疑問を抱えつつ4つ目の小部屋にいたクーガと合流し、率直に聞いてみた。
「お前、散々暴れて死骸の山を築いたじゃないか」
「ちげぇよ。ここの死骸は最初からああなってやがったんだ。あたいは何もしちゃいねぇ」
「……どういう事だ?」
「こっちが聞きてぇよ。ったく、せっかく爪を研いだってのに……」
やはりクーガの仕業じゃないらしい。
「もしかして別の冒険者がやったのか?」
「そうかもしれません。それにこの状況、少し違和感がありますね……」
俺の予想に同意しつつも、ロージアは何か腑に落ちないといった感じで考え込む。その傍らでカルロスが松明片手に軽くアクビをしているのを見て、ふと感じ取った疑問を呟いた。
「そういえばこのダンジョン、最初から真っ暗だったような? 普通侵入者を迎え入れるなら灯りは付けると思うんだが」
「そうかもしれませんね。しかし、そこはダンマスの考え方次第です。侵入を拒むのなら灯りを落としておくのが良いとも言えます」
「そういう考えもあるか。あ、でもさ……」
ロージアの言葉に納得しつつも次の疑問が沸いてくる。
「ダンジョンって死骸を吸収するよな? なんでそのままになってるんだ?」
「それは…………ハッ!? まさか!」
何かに気付いたロージアが再度死骸を調べ始める。それからやや間を置いて顔を上げると……
「見てください、ギルドカードです!」
「「「!?」」」
俺以外のみんながギョッとした表情を見せる。いまいち分かっていない俺に向け、ロージアが説明を続けた。
「死体がダンジョンに吸収されるとギルドカードも消え去るのです。それがここにあるという事は、ダンジョンに侵入してからアンデッド化した――つまり、ダンマスの眷属ではないという事です」
そこまで聞いて、ようやく合点がいった。要するにだ。ダンマスが侵入者を放置してるって事だ。
「しかし妙ですね。せっかくの獲物をDPに変えないなんて、ここのダンマスはいったい何を考えて――――っ!」
ザッ!
話の途中でジャニオが身構える。それを合図にロージアとシュワユーズも通路の奥に剣を向けた。
シ~ンと静まり返ったことで「ザッザッ」という軽い足音が通路に響き、その音は徐々に大きくなっていく。
少なくともゾンビではない。しかし敵である可能性が高いため、松明を強く握りしめて通路の奥を注視する。
やがて相手が見えるか否かというところに差し掛かると……
「よぉ、あんたらもダンジョンの攻略に来たのか?」
なんてことはない、他の冒険者パーティだった。理解した瞬間一気に場の空気が軽くなり、練り固まった緊張が解けていく。
「んだよ、脅かさないでくれよ……」
「わりぃわりぃ、脅かすつもりはなかったんだ。てっきり気付いてるもんだと思ってさ」
「だ~か~ら~、遠くからでも声かけようぜって言っただろ。ったく、相変わらずレックスは……」
「待ちたまえアルバ。進言したのはこのボクだ。キミもレックス同様聞き入れなかったじゃないか」
「ちょっと待てよ、俺はアルバからもルークからも聞いてないぞ。だいたいそう思ったならルークが叫べばよかったじゃないか!」
「…………」
何でかよ~わからんが喧嘩が始まってしまった。そこへ黙って見ていたエルフの女の子がこちらに歩み寄り……
「……騒がしくてゴメンね。いつもあんな感じでマイペースだから気にしないで」
「お、おぅ……」
ホントによ~わからんがいつも通りらしい。
しかし、らしいと思いつつもロージアから予想外の台詞が飛び出す。
「あら? どこかで見たと思ったら、皆さんは冒険者パーティ【夢の翼】ではありませんか」
「えっ、知り合い?」
まさかこんなところでと思ったが、相手パーティも気付いたようだ。
「あ、よく見たらロージアじゃん! こんなところで奇遇だな」
「よ、久しぶり」
「半年振り――ってところでしょうかね。彼らはパーティメンバーですか? 7人構成とは羨ましい」
「……元気そうだね」
久々の再会のようで楽しそうに話し込む。そこでリーダーらしき獣人の青年レックスが、本命はどれよ? まさか女の方じゃないよな? などと口走り、ロージアと仲間から袋叩きにされていた。
フッ、だったら教えてやる。本命は俺。他は有り得ん!
多分……。
「ところでさ、ロージアたちもダンジョン攻略に来たんだよな? 残念だけど、ここはハズレさ。ダンマスが居なけりゃダンジョンコアもなかったんだからな」
「……ええっ!?」
レックスの言葉に思わず声に出しちまったが、ロージアはウンウンと頷いている。
「なるほど。やはりそうでしたか」
「なるほど――って、気付いてたのか?」
「半信半疑でしたが。しかし、これで死骸を吸収していない理由が分かりました。このダンジョンにネクロマンサーは居ない。ダンジョンコアもない事から、ここを放棄してどこかへ移動したのでしょう」
つまり完全に無駄足だったと。こんな事なら依頼を引き受けるんじゃなかったぜ。
「「「はぁ……」」」
一同揃ってため息をつく。徹夜してまで移動した時間を返せと言いたい。仕方なく回れ右をして出口に向かおうとしたところで、アルバの懐からプレートのようなものが落ちた。
ポトッ……
「ん? 何だそれ?」
「ああ、ギルドカードだよ。稀に運良くダンジョンに吸収されずに残る事があってさ、冒険者ギルドに行くついでに届けてやろうと思ったんだよ。コアルーム前のボス部屋に落ちてたから、そこで殺されたんだろうな」
恐らく行方不明として貼り出されてる冒険者なのかもしれないって話だった。
こんなアンデッドだらけなダンジョンじゃ成仏できいだろうなぁなどと思いながら名前が目に入ってくる。
しかし名前を観た瞬間、思わず声を上げてしまった。
「デヴォン・デルピエルってギルマスの名前じゃねぇか!」
「「「えええっ!?」」」
益々分からなくなってきた。この名前は間違いなくラーツガルフの王都にある冒険者ギルドのギルマスのだ。なんだってここに!?
いろんな情報がグルグルと駆け巡る中、ロージアが恐ろしい可能性を述べた。
「マサルさん。王都のギルマスは……」
「偽者かもしれません……」




