この獣人、例の如く先輩冒険者を張り倒す
やぁみんな、マサルだ。今日も仲間を連れて近くの森へとやって来た。木々の間から差し込む光、風に揺らめく名もなき草木、晴れの日の散歩はとても良いもんだ。
「う~ん、森林浴ってやつは素晴らしい! やっぱダンジョンに隠りっぱなしじゃ健康に悪いもんな。今日はとことん羽を伸ばして――」
「何を無理して明るく振る舞っているのです。まさかとは思いますが、自分が仕出かした事をお忘れですか?」
「いや、そういうわけじゃ……」
白けた様子のロージアから意味深な言葉を投げかけられ、他の仲間からは生暖かい目を向けられる。
それもそのはず。散歩しに来たなんて話は真っ赤な嘘。ダンジョンに居るだけでも大変な苦痛を伴うため、こうして外に出てきた訳だ。もう4、5日経つのに全然臭いが取れない。まさかたった1つのシュールストレミングでダンジョン崩壊危機が訪れようとは……。
「しっかし酷い臭いだ。我がゴルモン王国のスラムだってあんな臭いはしないぞ」
「同感ですわ。ラーツガルフに居ても、あのような臭いは初めてでしてよ」
「祖父の足より臭かったな~。っていうか、そんなのを召喚したマサルくんって……」
「やめろ、俺を汚物みないな目で見るな。一週間履き続けた靴の臭い嗅がすぞ」
「それはやめて」真顔
だいたい仕方なかったんだよ。ブラッティクーガーに襲われた時点で逃げるか徹底抗戦かの二択だったんだからな。
「お~いジャニオ、暇だから殴り合いしようぜ~」
「クーガとの殴り合いは命懸けですからね。遠慮しておきます」
「な~にぃ? 格下のくせに、あたいの言うことが聞けないってのかぁ?」
「ハハ、格下なのは認めますが、レディがはしたない言葉を使うべきじゃありませんよ」
「はしたないだぁ? テメェ、そうやって難しい言葉で誤魔化すつもりだろ!」
いや、難しくなから――というツッコミを心の中で入れつつクーガをよく観察する。
会話の内容でも分かる通りコイツは雌、つまり女の子である。一見するとピンクの髪を地面ギリギリまで伸ばした獣人にしか見えないが、それは人化という人に化けれるスキルを使っているせいだ。
「何、殴り合いだと? だったらクーガ、オイラと勝負しろ」
「へぇ、ドワーフのカルロスか。おもしれぇ、あたいの拳を受け止め――」
「但し、オイラが勝ったら恋人になってもらうからな!」
「…………」
「いや、いくらあたいでも相手くらい選ぶぜ?」
「何故だぁぁぁぁぁぁ!」
ま~たカルロスは敗北したのか。つ~か魔物相手にとか、いよいよ種族を問わなくなってきたな……。
でもまぁクーガの体型も出るとこ出てるし(←事実かなりの巨乳にみえる)、誘惑にかられるのも無理はないか。
「って事でジャニオ、あたいと勝負だ!」
「……コホン。マスター、1つ提案なのですが、彼女も冒険者ギルドに登録してはいかがでしょう? 退屈しのぎにはピッタリだと思いますよ」
「おいこら、あたいを無視すんな!」
「お、そうだな。今後も利用するし、今のうちに登録しとくか」
「だから無視すん――って冒険者ギルド? んなところで何する気だ?」
「クーガの身分証を作るんだよ。魔物討伐の依頼なんかもあるし、退屈はしないぞ」
「マジかよ! 今すぐ行くぞ!!」
善は急げと王都へ引き返し、冒険者ギルドにやって来た。最近じゃ短期間でのランクアップと先日のゴブリンキング討伐の影響で、俺の顔が多数の冒険者に覚えられてるらしい。
その証拠に新米冒険者からはアドバイスを求められたり、受付嬢からは食事のお誘い(←メインはジャニオだけどな)が数回あったぜ? 食事の方はロージアに睨まれたから見送ったがな。
「あ、マサルさんだ、お疲れ様ッス!」
「ゴブリンキングを倒したのってマサルさんですよね? 他の冒険者が言ってましたよ!」
「さすがマサルさんだ! シルビア王女の婚約者であるカルバーン様から指名依頼されるほどだもんなぁ。俺もマサルさんのパーティメンバーになりたかったぜ!」
「バ~カ。お前じゃ足引っ張るだけだろ」
頭を下げてくる他パーティに軽く手をあげクールに会釈。ゴブリンキングの討伐でEランクからDランクへと昇格したし、いよいよもって名声が高まってきた感じがするな。
「なんだぁ? 周りの連中、マスターにヘコヘコしてくるぞ」
「フフン、これが人徳ってやつだよ(←絶対に違います)。何せ俺のパーティは王都じゃ憧れの存在だかんな」
「ふ~ん? そうなのか。あ、分かった。マスターがダンマスだから――」
「うぉっっっとぉぉぉ!」
不意に飛び出た台詞により慌ててクーガの口を塞いだ。そういやコイツには話してなかったと思い出し、そっと耳打ちをしておく。
「な、なんだよマスター……」
「俺がダンマスなのは周囲には秘密だ」
「ふ~ん? 何かよく分かんねぇけど分かったよ」
おとなしく聞いてくれて助かった。安堵した俺はさっそく受付でクーガの登録を行う。
そこで出てきたカードが黒だった事から、更に周囲の注目を集めちまった(←カードの色については第14話を参照)。
「え……ふ、縁が……黒色!?」
「んん? 色がどうかしたのか?」
「どうかしたなんてものじゃありませんよ! 黒なんて勇者クラスでしかお目にかかれないほどレアなんです! つまりクーガさんは勇者に匹敵するくらい強いんですよ!」
「ふ~ん」
受付嬢が大声で話したため、周囲の冒険者にもハッキリと伝わってしまった。途端にざわめきが大きくなるのだが、クーガ本人はどこ吹く風。そんな素振りが気に食わなかったのか、隅にいた三人の中年男が絡んでくる。
「おいお前、女のくせに黒だと? しかもたった今登録したばかりじゃねぇか。んや奴が強いわきゃねぇ!」
「そのカードが本物だってんなら俺たちと勝負しやがれ!」
「もし実力を示せなけりゃ、テメェの有り金を全部いただくぜぇ!」
テンプレ的な展開だがクーガの実力を見た奴は皆無なため、ギャラリーの中でも「それもそうだ」と同調する者が現れる。こうなると事実を証明する以外はないだろう。
「なんか言ってるけどよ、コイツらブチのめしてもいいのか?」
「手加減するならいいぞ」
「っしゃあ、やってやるぜ!」
シュン!
ガシィ!
「おいお~い、隙だらけだぜ?」
「な、なにぃ!? ――うわぁ!」
ダンッ!
素早い動きで1人の中年男を持ち上げたと思ったら、そのまま床に叩きつけた。速すぎたがために、他二人の男もギャラリーも言葉を失う。
しかし、これだけでは終わらない。
「おらおらぁ、そんな実力であたいに喧嘩売るなんざ100億年は早ぇんだよぉ!」
ガゴン!
「ングッ!?」
もう1人の中年男にキレイなアッパーカットを見舞うと、天井に頭をぶつけて床に落下。顎が砕けたのか口から血を垂らして悶絶する。
つか手加減してこれとか、さすがはBランクの魔物だな。さて、残るは1人だ。
「こ、このやろう、覚えてやがれ!」
なんと、ここで最後の1人は捨て台詞を吐いて逃走を開始。だが暇をもて余しているクーガが見逃すはずもなく……
「待てコルァ! 逃げんな卑怯者め――うりゃぁぁぁ!」
ボギッ!
「ゲホッ!?」
逃走しようとした中年男は背中から飛び蹴りを受け、入口の扉を突き破って外へと転がっていった。骨が折れるような音が聴こえた気がするし、しばらくは立ち上がれないだろう。
「へん、口ほどにもない奴らめ。あたいを倒したきゃドラゴンでも連れてきな! けどシュールストレミングだけは勘弁な!」
「「「おおおっ!」」」
惨めな中年男とは真逆に、ファイティングポーズでキメ台詞を放つクーガは拍手喝采を浴びる事に。
「す、すげぇ、この強さは本物だ!」
「アイツらって確かCランクの冒険者だろ? それってベテランの部類に入る連中だぜ!」
「マジ!? だとしたら凄いじゃない、もうこの人たちのパーティには誰も敵わないわ!」
そうそう、クーガは俺のパーティメンバーだからな。分かってるねぇ最後の人。
「こりゃアレだな。この人たちなら例の大草原にあるダンジョンを攻略できちまうかもな」
「ああ、比較的新しいダンジョンで、ダンマスが周囲に喧嘩吹っ掛けてるやつか?」
「そうそう。危険だから退治してほしいって依頼がヨム族から出てたな」
大草原のダンジョン? しかも新しいと来た。キャシュマーの一件から他人のダンジョンには良い印象がないんだよなぁ。何気に命の危機だったし、知り合いのダンマスじゃないんだったら早いうちに潰しておきたい。
そんな風に複雑な顔をしていると、ギルドの二階からガッチリ体型のオッサンが大きな拍手をしながら降りてきた。
パチッパチッパチッパチッ!
「なかなか豪快なお嬢さんだ。しかもマサルくんの新たなパーティメンバーかね? これは頼もしいパーティになりそうだ」
「んあ? 誰だオッサン」
「おっと失礼。私の名はデブォン。ここ王都の冒険者ギルドでギルドマスターを任されてる者だ」
このオッサンがギルマスか。何気に初めて見るな。しかも一方的に俺たちを知っているようだ。でもシルビアやカルバーンのような権力者が絡んでるなら知られていてもおかしくはないのかもな。
「マスター、このオッサンと知り合いか?」
「いや、会ったのは今日が初めてだが」
「しばらく王都を離れていたからね。職員から話だけは聞いていたよ。何でもシルビア王女に協力してブローナの謀反を止めたそうじゃないか。これは勲章ものの活躍だよ」
勲章は受け取らなかったけどな。代わりに報酬はたんまりと貰ったし、俺としては言う事ないなぁ――って、おいブローナ。あからさまに不機嫌そうな顔を作るな!
「そこでだ。キミたちの実力を見込んでお願いがあるのだが……」
「大草原にあるダンジョンの攻略ですか?」
「その通りだよロージアくん。詳しい話は上でするよ」
ダンジョンの攻略か。またしばらくは退屈せずに済みそうだな。




