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どらんくんモンチーズ!  作者: 猫渕珠子
第三幕. りめんばーどモンチーズ!
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Chapter30: 続・現場再現

 現場再現はつづく。


「こうやって抱えたまま部屋まできて、ベッドに寝かせました」


「で、栃内とちないくんの忍耐も限界がきて、体をふくといつわってのペッティン――」


「違います!」


 敷島さんの体にタオルをかけて覆いつくして放置しておき、浴室に脱ぎっぱなしになっていた彼女の衣服を洗濯した。ナイトモードで回っている間、ずぶ濡れになったスマホをバラして水分を拭き取ったりして卓上に置き、あとは膝をかかえて途方とほうれていた。


「といいつつ、風呂場ではよく見えなかった部分を多角的角度から観察することに――」


「してません!」


 洗濯が終わり、ハンガーラックに干しはじめた。敷島さんがくしゃみをして、このままでは風邪をひくだろうとも思った。しかしどうすることもできず、眠気も極まり、朝まで放置する方針を固め、壁にもたれかかって寝落ち寸前になる。


「でもそこでハッとして僕は飛び起きたんです」


「『まだ着せ替え人形にして遊んでない!』って?」


「服を着せたのはそういう目的ではないですから! 起きたときに敷島さんの記憶が失くなっていたら、って怖くなったんです。何も知らずに、裸で男の部屋のベッドにいるって史上最悪の状況を想定したんです」


「実際に失くなっちゃたのは栃内くんのほうだけどね」


「……笑わないでくださいよ」


「まあけど言いたいことはわかるよ。私の記憶が失くなっていたら、いくらでも話は作れるし。服さえ着てれば、用意してもらったやつを自分で着替えて寝ちゃったとか言えるから。――で、栃内くんはそうする予定だったんだ?」


「……白状するとそうですけど。たとえそういう未来に分岐ぶんきしていたとしても、結局本当のことを言わざるを得なくなって、それが真実か嘘かと、ああだこうだやってたような気がします、今では」


「同感だね」


 と、ベッドに腰をおろしていた敷島さんがくすくす笑い、横向きに寝そべった。「それでどうやって着替えさせたの?」と尋ねられ、飛び起きたとこまでを再現していた僕は、壁際から向かっていき、ベッドサイドに立ってジャスチャーを交えて説明をする。


「仰向けでタオルを掛けた状態のまま慎重に、」


「えぇ~、そこに至ってもタオル掛けたままってさぁ」と、彼女が引き気味の表情を浮かべる。「とっとと丸裸にして、ちゃっちゃと着替えさせればいいだけでしょうに」


「……そうしていたら僕に見られちゃうってたわけなんですけど?」


「私が花も恥らう乙女に見える? そこまで気にしないって。状況が状況だし、しょうがないなって割り切るよ。っていうか、きみは風呂場ですでに見てるわけじゃない? 誰も見てないのにさ、もはや隠す必要がなないでしょう。それをモタモタいつまでも手間取って着替えさせてたら、そっちのほうが気色悪いって」


「…………」


「あとさ、マジで濡れたまま服着せちゃったのね。しれっと紳士に拭いとこうよ、そこは。起きたとき、蒸れてて相当気持ち悪かったんだからね。いらない勘違いをしてヒヤッとしたじゃん。――ちょっと、聞いてる栃内くん?」


「……再現は以上です」


 僕は前夜のように崩れ落ち、枕元のベッド壁に背をあずけ、足を投げ出して座った。


 あれこれと煩悶はんもんした葛藤かっとうはなんだったのか。


 すべて水泡すいほうした気分だ。


「けどさ、実際のところどうなのよ」


 と、興味ありげに響いてきた彼女の声で、脱力していた僕は首を後方にまわす。


 寝仏像ねぼとけぞうになっている敷島さんの顔が、枕元でこちらを向いている。


「友達の前とかじゃ言えないけど、この際だから言うんだけど、私は外見的にはまあまあ整ってるほうでしょ。きみが『好みじゃない』って言ってたことに関してもさ、恋人にするには、っていうニュアンスに感じたんだけどな。――性的魅力はあったんだよね? ちょっとぐらい、って思わなかった?」


 僕はズボンからスマホを取り出して眺めたあと、枕元に載せ置いた。


「五万円、弁償する気あります?」


「なんのことでしょう?」と白々しくトボケてくる。


「……やっぱりそうなりますよね」


「あぁ~」と、彼女が納得。「きっと私は弁償してくれない、それならいっそ、その分を体で払ってもらっちゃおう、とか、スマホを口実にして、致そうと思ってたなぁ? それとも思ってただけではなく実行に――」


「移してませんよ。やめましたよ」


「どうしてぇ?」


「ピーッ、ピーッ、ピーッですよ」


「はあ?」


「洗濯終了の音が鳴ったんです。それで、ハッとして、洗濯物を干さなきゃって取りに行ったんです」


「なにそれ、洗濯機に踏みとどめられたの?」


「そうなりますね……」


「アホくさっ。そんなこと私は知らないんだから、もっと論理的にいいくるめるようなこと言えばいいのに!」


 笑壺えつぼに入った敷島さんがベッドをバンバン叩き出す。


 散々なまでのディスられようだったけれど、僕も、なんでこんなアホなことしてるんだろうかと楯突たてつく気力もなくなり、ほうけたように座りつづけた。


 寝落ちする前にもうひとつしそうになっていたことも思い出すが、それは自分だけの秘密にした。

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