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どらんくんモンチーズ!  作者: 猫渕珠子
第二幕. ふぉーがっとんモンチーズ!
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Chapter23: チャラ

 燃え尽きた灰になった僕に、敷島さんが語った総括そうかつはこうである。


 ――僕は帰宅途中に、泥酔でいすい混沌こんとん中の彼女を見つけてアパートに連れ帰った。そこまでは善意ぜんいだったが、濡れた体をふいているときに性的衝動がこみ上げ、それプラス、大学入学時から抱いていた悪感情の鬱憤うっぷんらしもあって、彼女を陵辱りょうじょく。その後、浴室で体を丸洗いにして証拠を隠滅いんめつ。僕の部屋着に着替えさせてからベッドへ寝かせた。


 ――朝起きたあとは、何も覚えていない彼女に、『泥酔しているところを助けた』という件だけを話す予定にしていた。もちろん、着替えや風呂などは、すべて彼女自身の意志で行っていたと誘導するようなストーリーをうまく捏造ねつぞうして。


 ――僕の誤算のひとつは、彼女のほうが早く起きてしまったことだった。それで、決定的証拠となるタオルを発見されてしまったのだ。タオルは、片付ける前に力尽きていたか、犯し終えたあとの高揚感こうようかんでたんに忘れているかしたのだろう。


 ――そして、最大の誤算だったのは……。


「起きたら栃内くんの記憶も失くなってましたって、ケッサクじゃない? 部屋に放置されてたひみつ道具でも勝手に使っちゃった?」


 座卓上の敷島さんは、本棚からコロコロと転がり落ちていた漫画を読みはじめている。


 僕は遠のいていた精神をどうにかひっぱり戻す。


「ベッドにあるタオルを一度僕に見せてもらえませんか?」


「被害者の私に詰問きつもんされて悪事をあばかれるなんて、とんだオマヌケさんだよね」


「聞いてますか、敷島さん!?」


 ドンッ、と漫画が卓上に叩きつけられる。


「取ってくるわけないじゃない。立ち上がったすきをついてサンドイッチから逃げ出すんでしょ。私の手から証拠のタオルを奪っちゃうのは目に見えてるの」


「そんなことしませんから。筋肉痛で体も思うように動かせませんし」


「それよりも、さっさと示談じだん交渉こうしょうをしましょう」


「示談……って、僕はやってないですってば!」


「やりましたって認めれば、この件はチャラにしてあげる、って言っても?」


「……どういうことです?」


 きょをつかれている僕に、敷島さんは口出しをしないようにと前置きをして語り始めた。


「まず大前提としてさ、あくまでも最初は善意で助けようとしたってことを強調してあげてたよね。それは私も、栃内くんがはなっから昏睡レイプする目的でお持ち帰りするような人間には見えないからなんだ」


「だから僕は――」


「黙ってる」


「……はい」


「酔いつぶれちゃってた私にも落ち度はあったわけじゃない? それに雨という不運な天候条件も重なり、濡れそぼった体を見て欲情しちゃうのも、童貞くんならしかたがないかなとも思ったわけですよ。でしょ?」


「僕は今だって童貞のままです!」


「というふうに、非童貞になったのに童貞と思い込んでる〝思い込み童貞〟で。いい思いしたのに丸っと忘れちゃってるみたいだしさ。そこのところも特別に加味かみしてあげる。――そういった諸々(もろもろ)の事情を考慮した結果、私はこのくらいが妥当だとうかなと判断したの」


 敷島さんは僕の眼前に、片手をパーにして突きつけた。


「……五十万」と、僕は息を飲む。


「そんなに払ってくれるの?」


「え?」


一桁ひとけた多いの。五万だよ、五万」


 ……これは予想外に低額。


 いや、そういうことじゃない。


「五万でもチャラとは言わないですよね?」

 

 おもむろに、赤ジャージの股間にしまい込まれてあった僕のスマホが取り出される。


 彼女の顔脇にかかげられた。


「きみのスマホなんだけど、私をアパートに運んだことによって雨で濡れて壊れちゃったことになるよね。そうするとさ、その時点では純粋な救助活動による損失になるわけで、過失は私にあると思うんだ。――で、いくらしたんだっけ?」


「……五万ですね」


「するとチャラになるでしょ。私が弁償したことにして示談金と差し引きゼロ」


「……いいんですか、それで?」


「いいんです。ほら、この上ない妥協案!」


「……それはそうですけど」


「じゃ、やったってことでいいよね?」


「いいえ、やってません」

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