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どらんくんモンチーズ!  作者: 猫渕珠子
第二幕. ふぉーがっとんモンチーズ!
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Chapter24: ホラーなホラ

「気が変わったら教えて」


 敷島しきしまさんはそう口にしたあと、漫画読書にてっしてしまった。卓上にあぐらを組み、ペラペラと紙面をめくっては、ときおりひざをたたいてケラケラ笑っている。僕が話しかければ、「気が変わった?」と、村人Aのように同じことをくりかえす一本調子っぷりで、てんで取り合ってくれない。


 いわく、示談の成立――つまり、やったことを認めれば、スマホを代償として、それで僕はサンドイッチゾンビ状態から開放され、彼女はアパートから立ち去ってくれるらしい。


 無論、この件は二者間の絶対秘匿(ひとく)となり、表沙汰おもてざたになることはなくなるということ。


 ……なにかおかしい。ぜったいに裏がある……。


 強姦の示談金など知るよしもないが、だいたいにしてハイエンドモデルでもないスマホ一台分の提示額はないだろう。おまけに相殺にしてくれるときた。こちら側に都合が良すぎる。あからさまな迷惑メール並に怪しい。


 証拠というタオルだって、見せろとせがんでも一向に見せてはもらえないままだ。身動きが取れないようにしているのは、接近させないよう遠ざける目的もあるに違いない。


 手に取られたら嘘っぱちだとバレるからだ。


 敷島さんの様子にしたって、あまりにあっけらかんとしているではないか。彼女の主張どおりならば、眠っている間に避妊具なしで行為に及ばれていたことになる。『ドラえもん』を読んで面白がっている場合ではないだろう。野郎、ぶっ殺してやる!、という展開になっていてしかるべき。それが一仕事終えてダラけた感じになっている。


「いい加減さぁ、そろそろ認めたらぁ?」


 と、敷島さんが紙面から目を離すことなく投げやりにつぶやく。


「無罪放免にしてあげるって言ってるのと変わらないんだよ?」


 しかし認めてしまえば、僕は、無抵抗な彼女をレイプしたという話を事実として受け入れたことになる。


 やっていないのにもかかわらずだ。


 今となっては加害者意識はみじんもなく、被害者意識しかない。冤罪えんざいなのに自白を強要されているとしか思えなくなっていた。


 敷島さんは何か知っている。


 昨夜、僕と彼女には、なにかしらの出来事はあった。でも、彼女が語ったエピソードが真実ではないのだ。僕が知ってしまうと、思い出してしまうと、彼女には困ることがあるのだろう。それを隠すためのホラ話に違いない。


 僕の頭に記憶が残っていればこんな事態にはおちいっていないはずだ、とやまれる。これまでの話はやはりデタラメだと訴えたところで、もはや相手にされないだろう。


 自力で真相を解き明かさなければならない。


 鍵をにぎっているのは僕のスマホなのではないだろうか。


 いったん取り出されていたスマホは、また赤ジャージの股間にしまわれている。僕には手が出せない安全地帯だ。スマホは示談の交換条件にされたも等しい、いや、そうとしか考えられないものでもある。


 なぜ彼女は、僕のスマホにこだわるのだろう。


 昨日の出来事を記録した写真や動画などが収まっているからなのではないだろうか? そもそも本当に雨に濡れて壊れているのだろうか。思えば、充電すらさせてもらえないままなのである。ここはスマホを取り返し、データを確認するのが急務だ。


 パタンッ


 と、敷島さんが漫画本を閉じた。


「一冊読み終えちゃったけど。気が変わった?」


「いいえ、僕はやってません」


「強情だなぁ、きみも。悪いようにならないってわかったじゃん。この際、やったことにしておきなって」と、飽きつつあるのか、なにやらいい加減になってきている。


「できませんから!」


「あっそ。それじゃあ二冊目に入るかな」


 彼女が二冊目を読み始めたところで、僕は声を張った。


「ゴ、ゴキブリッ!!」


「はいはい」と、彼女が生返事。


「敷島さん、ゴキブリですってば!」


「G作戦でテーブルの上からどかそうとしても無駄」


「それがマジなんですよ! 部屋の入り口を見てください!」


 敷島さんはヤレヤレとふった首を横に向ける。


 そして全身に虫唾むしずを走らせたのち、彼女はきぬくような声を上げた。


 ヤンキー風の見た目に反し、叫び声はいたいけな少女のようだった。

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