Chapter22: 動かぬ証拠で万事休す?
「今見せるから」
卓上に座っている敷島さんの手が、赤いジャージの両腰に掛かったように見えた。慌てふためいた僕は、彼女を静止するために腕を伸ばすが、サンドイッチ状態ではどうしても届かず、自分の目を覆い隠すことに切り替える。
「い、いきなりジャージを脱ぎ出すなんてやめてください!」
「変に勘違いしないで。Tシャツの裾をちょっと上げただけ」
ホッとして覆いを外したそばから、
「……なんですか、その痣は?」
と、僕は顔をしかめた。
Tシャツの裾は、胸とヘソの中間ほどまで上げられている。そして、地肌が露わになった敷島さんの左脇腹には、楕円状の痣が浮かんでいるのだ。内出血が黒ずんだもののように見える。
彼女は左拳を痣に打ちつけるようなしぐさを繰り返す。
「ちょうど男の人の拳サイズじゃない?」
「……僕がやったって言うんですか?」
「一見おとなしそうに見えて、根は暴力的なんだぁ。――ほら、起きたときにさ、昨日の深夜にカラオケを出たときに友達の頭をマラノカスでぶっ叩いたとか言ってたし」
「〝ノ〟は余計です。マラカスです。……それは話が別ですよ。あれはお互いにそこまでは許される許容範囲内のコミュニケーションみたいなもので、芸人がツッコミで叩くみたいな感じですからね。ぶっ叩くっていうのも誇張表現ですし。怒ったって酔ったって手なんか出したことはありませんよ!」
「ふ~ん。そっか。ならこの痣は、栃内くんと遭う前にどこかで転んじゃって付けてたんでしょう」
意外や意外、これまで僕の反論には耳を貸さなかった敷島さんが、上げていたTシャツをすんなり下ろした。言葉のニュアンスも皮肉ではなく、単に納得をしたものである。
「……僕の疑いは晴れたってことですか?」
「それとこれも話が別。〝暴力〟がなかったという言い分は聞いてあげるとしても〝性暴力〟の動かぬ証拠はあるんだから。――はい、あちらをご覧ください」
と、彼女が体をねじる。バスガイドのように手のひらを上向けにして示されたのは、僕のベッドだった。真新しいものといえば、シーツ上に残されたままのタオル。敷島さんが目を覚ましたとき、下敷きにしていたというものだ。
「タオルがどうかしたんですか?」
「精液がついてる」
「……え?」
「精液がついちゃってます」
「……誰の?」
「鑑識に回そっか?」
頭が真っ白になった。




