Chapter14: タケシのバーカ
ひっぱりだしていたタオル類は、体にのっていた分だけを洗濯カゴに片付けておいた。シーツに敷いていたものは、彼女の下敷きとなっているため取り出すことができなかったのだ。取りのぞく精も魂も底をついた。
敷島さんの体にブランケットを掛けると、僕はそのままベッドサイドに崩れ落ちた。
彼女が起きてしまう前に、他にやって置いたほうがいいことはあるだろうか。
なにか忘れているような気もするが、頭がちっとも働かない。
時刻は丑三つ時。さすがのさすがに眠気が限界。ただでさえ深夜帯のうえ、ドッタンバッタン大騒ぎ。心身ともにかつてないほど疲弊しきったダブルパンチで、未だノックアウトしていないのが不思議なくらいだ。
衣擦れの音が聞こえてきて、鉛のように重い体をひねる。
敷島さんがこちらに体を向けたところだった。僕の真後ろに枕元があり、寝顔が近い位置にある。口に入った横髪をモゴモゴ食べようとしていたので、痺れまで生じはじめている手をどうにか差し伸ばし、髪の毛を払ってあげた。眠っていても他人の手をわずらわせる神がかりようだ。
「けど、口さえ閉じてれば可愛いんだな」
……なんだって?
僕はなにを口走っているのだろう。まあ、顔立ちは整っちゃいるけども、ヤンキー面の金髪ヘッドだ。好みじゃない、むしろ暴投レベルのストライクゾーン外。なのに、こんなろくでもない女に「可愛い」とのたまうなんて、ついに正気が奪われたか。
はやいところイカレかけの頭脳を休ませてあげなければならない。
僕と彼女、目覚めるのはどちらが先か。
どちらにしろ同じ室内で朝を迎えるのは好ましくないように思う。
僕は廊下あたりで寝ておいたほうが無難ではないだろうか。
移動のため立ち上がった直後、猛烈なめまいに襲われた。
とろけた脳みそが頭蓋の内側をたっぷんたっぷん波打っている感覚。
足がふらつき、僕はベッドに倒れ込むようにバランスを崩す。思わず差し出した手が、横になっている敷島さんの肩口を押しやってしまい、気づいたときには、彼女を強制的に仰向けにして、真上から至近距離で顔を覗いてしまう格好になっていた。
あやうく顔面衝突事故を起こしそうになり、鼓動が早鐘を打つ。
彼女の口から出入りする空気が吹きかかってくる。
まだずいぶんお酒の匂いをさせていた。しかし、――
「酒くさっ」
と、眉間に深いしわを寄せてつぶやいたのは、僕ではない。
敷島さんの寝言である。
そういえば、僕も飲酒をしていたのだった。
自分の酔いは覚めてしまっていたと思ったけれど、この頭のグラつき方にはお酒の影響もあるのだろう。ここまで乗り切れていたのはアルコールによるハイ状態があるのかもしれない。そして、シラフではなかったからフザケた状況を招きに招き、あまつさえ深刻化させてしまったのではないだろうか……。
それはそうとして、ただちに敷島さんの上から離れなければ。
だが、僕の視線は彼女の口元に釘付けになる。
薄いけど瑞々しくて柔らかそうな唇。
重ねたらどんな感じがするのだろう。
……僕も酔ってるんだから、そのくらい。
「タケシのバーカ」
と、見入っていた唇が言葉をかたどった。
……タケシ? 誰だ? ジャイアンのことか?
僕は最後の力をふりしぼって、ベッドサイドに崩れ落ちなおした。
もう一歩たりと動けない。
日が昇ってからのことを思うと気が滅入る。
敷島さんはきっと何も覚えてないのだから。
でも今日の日はさようなら。
そして僕は、まぶたを閉じる。




