Chapter10: Feels Like a marshmallow
手始めに、横たわる敷島さんの裸体に目隠しをほどこす。バスタオルを取ってきて、胴体に広げ、首から股までを覆ったことで、曲がりなりにも全身に目を向けられるようにする。べつなタオルを自室のベッドにも何枚か敷いてきており、そこまで移動させることにした。
足をひっかけて転ばないようにするため、タイル床に脱ぎ散らされている彼女の衣服を、ぜんぶまとめて片隅に寄せておく。軽く洗い流されたのか、それとも、シャワーを浴びている最中にひっかかっただけなのか、どれもぐっしょり。
着ていたものは結局すべて洗濯しなければならないらしい。
〝洪水〟の被害にあっていなかった靴下やブラジャーまでもが水をかぶっているのだ。
見かけによらず意外と大人しい下着をつけているんだな……いや、今はそんなことどうでもいい。
問題児の厄介な輸送にとりかかった。
ひとまず、投げ出されていた腕を胴に乗せ、開いている足を閉じさせる。そして首根っこに近い背中とそろえた両膝の裏に、僕は自分の腕を回す。タオルがズレてしまわないよう注意しながら彼女の体を折り縮めてスペースを作ると、僕は片足を浴槽内に入れた。
「せーのっ!」と、気合を入れて持ち上げる。
意識がない状態なので公園から逃走したときよりも二割増で重く感じた。
密着した彼女の体から僕のTシャツやズボンへ、水分が染み込んでくるけど気にしていられない。
浴槽内に差し入れている片足を引き抜くため、方向転換。また「せーのっ!」と入魂。
ドスンッ!
案ずるなかれ。
音を立てたのは床に着地した僕の足で、敷島さんを落っことしてしまったわけではない。
しかし、この衝撃が抱きかかえた体にまで伝わったのはマズかった。
ハラリっ
と、胸元から捲れ落ちそうになったバスタオルへ、僕は条件反射で手を伸ばす。
「あっ」
ガッチリ掴んでしまったのは、マシュマロみたいにふわふわしたお碗状のものだった。ぽっちりとした生の感触まで手のひらにある。間に合わなかったばかりか、まかり間違っても決して掴んではならないものを掴んでしまったのだ。
こんな場面で起きられでもしたら――
「う~ん」
と、胸板にもたれている金髪頭から不吉な声。
……えっ、ほんとに起きるの?
敷島さんの一重瞼が、目を開ける前兆でぴくぴく動いた。
かと思えば、次の瞬間には、半開きになっていた。
その視線がぶつかる先は、とても不健全なことになっている僕の手と彼女の胸である。
僕は可及的速やかに手のひらを退かせ、大狼狽で釈明。
「こ、これは不慮の事故です! 落ちそうになったタオルをつかもうとしたんですよ。ベッドまで運ぼうとしてところだったんです! あっ、勘違いしないでくださいね、ぜんぜん起きてくれないから、ただ移動させようとしていただけで!」
「ファミチキ、千個くださ~い」
「……はい?」
「間違えました~。ビッグバーガーを千個」
「…………」
命拾いをして、僕は緊張を解きほぐす。
敷島さんは寝惚けていただけだったのだ。
支離滅裂な注文を口ずさむと、半開きにしていた目を静かに閉じ、ふたたび深い眠りへと落ちていった。電話する手段がなくなっていたからいいものを、数分家を空けていた間に宅配テロをされていたらと思うとヒヤヒヤである。
タオルが脱落してしまったが、拾い上げている体力の余裕はない。
起きてほしいけど、どうか今だけは起きないで!
必死に念じつつ、浴室を出た。




