第8話「告白の行方
「俺が好きなのは――」
蓮の言葉に、陽菜の呼吸が止まる。
真奈も黙ったまま二人を見ていた。
時間が止まったような感覚。
心臓の音だけが大きく響く。
そして蓮はゆっくりと言った。
「陽菜だよ」
一瞬。
何を言われたのか分からなかった。
陽菜は目を見開く。
「え……?」
蓮は少し照れたように笑った。
「ずっと前から好きだった」
頭が真っ白になる。
夢?
聞き間違い?
だって。
蓮は優しくて。
人気者で。
自分なんかを好きになる理由なんてないと思っていた。
「うそ……」
思わずこぼれた言葉。
蓮は首を横に振る。
「うそじゃない」
その目は真剣だった。
すると真奈が突然吹き出した。
「やっぱり!」
「え?」
陽菜は驚いて真奈を見る。
真奈はニヤニヤしていた。
「ずっとそうだと思ってたんだよね」
「な、何が?」
「蓮くんが陽菜見る目」
顔が熱くなる。
蓮も少し気まずそうに笑った。
「バレてた?」
「めちゃくちゃね」
真奈は肩をすくめる。
「ちなみに私の好きな人は蓮くんじゃないから」
陽菜は固まった。
「え?」
「別部署の人」
あっさり答える真奈。
今までの不安が一気に崩れていく。
しかし。
陽菜は素直に喜べなかった。
ずっと夢見ていた言葉。
だけど。
怖かった。
「私……」
声が震える。
「自信ないんです」
蓮が静かに聞いている。
「蓮さんみたいな人に好きって言われても信じられなくて」
本音だった。
ずっと蓮を見てきた。
だからこそ分かる。
自分なんかより素敵な人はいくらでもいる。
すると蓮は優しく笑った。
「俺も同じだったよ」
「え?」
「陽菜は優しいし仕事も頑張ってるし、みんなに好かれてるし」
陽菜は首を振る。
そんなことない。
そう言おうとした時だった。
蓮が続ける。
「だから俺なんか無理だと思ってた」
今度は陽菜が驚く番だった。
沈黙。
だけど不思議と苦しくない。
温かい沈黙だった。
そして蓮がゆっくり手を差し出す。
「改めて言う」
陽菜の心臓が高鳴る。
「陽菜が好きです」
真っ直ぐな言葉。
逃げ場なんてなかった。
でも。
もう逃げたくなかった。
陽菜は震える声で答える。
「私も……好きです」
その瞬間。
蓮の表情が柔らかく崩れた。
ずっと見たかった笑顔だった。
その時。
真奈が立ち上がる。
「よし、私邪魔者だから帰る!」
「真奈!」
「今度ご飯奢ってね!」
そう言い残して去っていった。
陽菜と蓮は顔を見合わせる。
そして同時に笑った。
ようやく届いた想い。
だけど。
二人の恋はここから始まる。
会社では秘密。
周囲にはまだ言えない。
そして二人を待ち受ける新たな出来事とは――。
蓮が帰り道にふと口を開いた。
「実はさ」
「ん?」
「来月、異動の話が出てるんだ」
陽菜の笑顔が止まる。
それは初めて聞く話だった。
そして蓮の表情は、
どこか複雑そうで――。
【第9話へ続く】




