第7話「土曜日の約束」
土曜日。
陽菜は鏡の前で立ち尽くしていた。
何度も服を着替えてはため息をつく。
ただの相談。
そう言い聞かせても、心は落ち着かなかった。
好きな人の話をされるだけかもしれない。
それでも会いたかった。
蓮に。
少しでも長く。
待ち合わせの十分前。
陽菜は駅前に着いていた。
人混みの中で蓮の姿を探す。
胸が苦しいほど緊張する。
その時だった。
「陽菜!」
聞き慣れた声。
振り返る。
蓮だった。
私服姿の蓮に思わず見とれてしまう。
会社では見られないラフな服装。
なんだか少しだけ大人っぽく見えた。
「待った?」
「ううん」
「よかった」
蓮はいつものように優しく笑う。
その笑顔だけで胸が熱くなった。
二人は駅前のカフェへ入った。
窓際の席。
向かい合って座る。
蓮は何か話そうとしている。
でもなかなか切り出さない。
陽菜も緊張していた。
沈黙が続く。
やがて蓮が口を開いた。
「実はさ」
来た。
陽菜の鼓動が一気に速くなる。
「好きな人がいるんだ」
やっぱり。
分かっていたはずなのに。
胸が痛い。
陽菜は無理やり笑顔を作る。
「そうなんだ」
「うん」
蓮は真剣な表情だった。
「でもどうしたらいいか分からなくて」
その言葉に陽菜は視線を落とす。
もう聞きたくない。
聞けば傷つく。
それでも蓮の声は続いた。
「その人、あんまり自分に自信がなくてさ」
陽菜は顔を上げた。
「いつも頑張ってるのに、自分を過小評価してる」
蓮は少し笑う。
「見てると放っておけないんだよね」
胸がざわつく。
それは誰のことなんだろう。
真奈?
それとも別の誰か?
その時だった。
カフェの入口から聞き覚えのある声がした。
「蓮くん?」
陽菜も蓮も振り返る。
そこに立っていたのは――
真奈だった。
陽菜の心臓が止まりそうになる。
どうしてここに。
真奈も驚いた顔をしている。
「え?二人で?」
空気が一気に変わった。
陽菜の胸に嫌な予感が広がる。
やっぱり。
やっぱり蓮の好きな人は真奈なんじゃないか。
そう思った瞬間。
蓮が立ち上がった。
「真奈、ちょっと違う」
真剣な声だった。
今まで聞いたことがないくらい。
真奈も驚いている。
そして蓮は陽菜の方を見た。
まっすぐに。
逃げ場をなくすように。
その瞳に心臓が大きく跳ねる。
次の瞬間。
蓮が口を開いた。
「俺が好きなのは――」
陽菜の呼吸が止まる。
その言葉の続きを聞くのが怖い。
でも聞きたい。
蓮の視線は、
ずっと陽菜から離れなかった。




