第5話「真奈の相談」
昼休み。
「陽菜、ちょっといい?」
仕事をしていた陽菜は顔を上げた。
声を掛けてきたのは真奈だった。
少しだけ緊張した表情をしている。
「え?」
「少し話したいことがあるんだ」
真奈にそう言われ、陽菜の胸がざわついた。
嫌な予感がした。
理由は分からない。
でも最近、真奈を見るたびに蓮の存在が頭をよぎる。
「今から大丈夫?」
「う、うん」
二人は会社近くのカフェへ向かった。
席に座ると、真奈はアイスコーヒーを一口飲んだ。
しかしなかなか話し出さない。
何かを迷っているようだった。
陽菜は落ち着かない気持ちのまま待った。
すると真奈が小さく笑う。
「私さ」
その一言で陽菜の心臓が跳ねた。
「最近気になる人がいるんだよね」
胸がぎゅっと締め付けられる。
やっぱり。
そう思った。
「まだ好きかどうか分からないんだけど」
真奈は照れたように笑った。
「でも気付いたら目で追っちゃってて」
陽菜は黙って聞く。
聞きたくない。
でも聞かないわけにもいかない。
「その人すごく優しいんだ」
蓮の顔が浮かぶ。
優しい。
その言葉だけで十分だった。
「仕事で失敗した時も助けてくれて」
陽菜の手に力が入る。
まるで蓮のことを話しているみたいだった。
「頼りになるし、一緒にいると安心するんだよね」
真奈は幸せそうに笑った。
陽菜は無理やり笑顔を作る。
「そうなんだ」
「うん」
「頑張ってね」
本当は全然頑張ってほしくない。
そんなこと思ってしまう自分が嫌だった。
店を出た後も気分は重いままだった。
会社へ戻る途中。
ふと前を見る。
向こうから蓮が歩いてきた。
「お、二人で何してたの?」
何気ない笑顔。
その顔を見るだけで苦しくなる。
真奈は少し慌てた様子で答える。
「な、内緒!」
「なんだそれ」
蓮は笑った。
その光景を見た瞬間。
陽菜の胸はさらに痛くなった。
二人がお似合いに見えてしまったから。
その日の午後。
仕事に集中しようとしても無理だった。
蓮が誰かと話しているだけで気になる。
真奈が笑っているだけで不安になる。
何度もため息をついた。
定時。
帰宅しようとした時だった。
スマホが震える。
画面を見る。
『蓮』
心臓が跳ねた。
メッセージを開く。
『今日お疲れ』
それだけで顔が熱くなる。
しかし続くメッセージを見て固まった。
『今度の土曜空いてる?』
陽菜は目を見開いた。
どうして。
なぜ私を。
嬉しい。
でも。
期待したらダメだ。
そう思うのに指先が震える。
返信を書こうとした、その時。
会社のグループチャットに通知が届いた。
何気なく開く。
そこには真奈が投稿した写真。
社内イベントの時に撮ったものだった。
写真の中央には――
蓮と真奈。
二人が並んで笑っていた。
まるで恋人みたいに。
陽菜の指が止まる。
胸の奥が冷たくなった。
蓮からのメッセージ。
返事はまだ送れない。
スマホを握りしめながら陽菜は思った。
もしかして私は――
最初から勘違いしていただけなのかもしれない。




